14話 未知の弁当と2人の後輩ver2
「眠い~」
「ええ~、午前中の授業、全部寝てたのに?」
「もうお昼休みですよ」
「わかってるさ」
「しかし、4限の授業終了5分前に目覚めていたのには驚きました」
「あれ? そういう経験ない?」
授業が始まるとすげー眠いのになぜか終了間際になると自動的に覚醒しちゃうんだよな。自分でも不思議でならない。
「その、授業中に眠ったことがないので……」
「三原は真面目そうだしな」
「あたしだってちゃんと授業受けてるよ?」
「内容が理解できてないなら受けてないのと一緒だ」
「うるさいなあ。……でも、誠ちゃんを追い越すのも時間の問題だよ」
「はは、たまには面白い冗談言うんだな」
「鷲宮さん、油断は禁物ですよ」
「いいよいいよ、麻衣ちゃん。痛い目を見るのは自分なんだから」
「せいぜい楽しみにしてるぜ」
紗智のことだから、そう易々と成績が良くなるわけねーって。
「それより、早くご飯食べよ!」
「そうですね、いただきましょう」
「ああ」
「今日もちゃんと作ってきたよ」
「いつも美味しそうなお弁当ですね」
「えへへ、ありがとう」
「そうか? 三原のに比べたら大した品はねえぞ」
「そ、そんなことありませんよ」
「俺には三原のが美味しそうに見える」
「それ、あたしのお弁当がまずそうって言ってるの?」
「んなこと、言ってねえだろ」
「いーや、そんな顔してたね」
「あーそうかい。三原、お前の弁当分けてくれよ」
「え、私は一向に構いませんけど……」
「あたしのことは気にしなくていいよ、麻衣ちゃん。誠ちゃんがそれ食べたいって言うなら、そうさせてあげて」
「わ、鷲宮さん……」
「うーむ……」
意地を通すなら、三原の弁当を食うべきだろう。だが、三原のことを考えると紗智の弁当を食うべきだな。いや、しかし――
「で、結局どうするの?」
紗智の問いに俺は決断する。
「俺は――三原の弁当を食べる」
「え?」
「いいか?」
「それはいいのですが……」
「あたしのことは気にしないで。誠ちゃん、あんまり食べ過ぎて麻衣ちゃんの分取っちゃダメだよ?」
「はいはい」
「はい、お箸」
俺は紗智が差し出してきた箸を受け取る。
「サンキュウ」
「鷲宮さん、どうぞお好きなものを」
「お好きなものって……」
なんか見たことねえ料理ばかりでどれから食ったものか。
「んじゃ、これを――あむ」
「どうでしょうか?」
「!?」
口の中で溶けているかのような舌触り。凝縮していた旨みが一気に解放されているがごとくの味わい。
「俺、涙が出てきそうだよ」
「お、お口に合いませんでしたでしょうか……?」
「その逆だって! こんな美味いもの、今まで食ったことねえ」
「それはよかったです。ちなみにそれは――」
「待て、三原」
「はい?」
「この弁当に入っている物体の名前は言うな」
「なぜでしょうか?」
「俺は今後、こんなものを食う機会はないと思う。その証拠に俺は今日、これを初めて食った」
「はあ……」
「仮に今食ったこれを『おかずA』と名付けよう。『おかずA』を食いたいとき、三原はどうする?」
「『おかずA』を探します」
「そう。しかし、もしその『おかずA』が自分の手の届かないところにあったとき、三原は我慢出来るか?」
「それは……簡単ではないかもしれません」
「つまり、そういうことだ」
「あの……」
「なんだ?」
「よくわからないのですが……」
「その疑問に答えよう。『おかずA』を知った俺は再び食べたくなったとき、それを探す。しかし、それは届かない場所にある」
「はい」
「だが、我慢するのは容易いことではない。俺の辛抱は堪らない状態になるわけだ」
「そうですね」
「それを回避するには『おかずA』を未知のものにすることだ」
「それは、つまり――」
「そう! 『おかずA』など最初からなかった!」
「なんと……!」
「であれば、諦めもつくというものだ」
「な、納得です……」
って、なに言ってんだ俺は。
「で、では、今のうちにいっぱい食べてください。私はなにも教えませんから」
「ああ、ありがたくいただくぜ」
我ながらアホみたいだな。
「ふう、食った食った」
「お粗末様です」
「悪いな、けっこう食っちまって」
「いえ、お気になさらず」
うーむ、しかしまだお腹は満たされてないな。
「紗智」
「どうしたの、誠ちゃん?」
「弁当くれ」
「麻衣ちゃんのお弁当食べてたじゃん」
「お前の弁当も食べたくなったんだよ」
足りなかったなんて言ったら三原に悪いからな。
「そ、そんなこと今さら言っても遅いよ」
「いただき!」
紗智よ、きちんとカバンに弁当箱を直しておかないからこうなるのだ。
「あ! お弁当!?」
「さらば!」
俺は逃げ去るように教室から出て行った。
「ひゅう、なんとかあの場から脱することに成功だ」
あの場で食べてたら、紗智が面倒だったろうからな。しかし、弁当をもってきたはいいが、どこで食べるか。
「よし、鈴下とゲーム談義でもしながら食べますか」
「…………」
「いたいた」
屋上に来てまで鈴下はいつもの仏頂面で飯食ってやがる。
「よお、鈴下」
「なに?」
「俺もここで飯食っていいか?」
「勝手にすれば」
「遠慮なく」
鈴下の近くに座り、弁当を食べ始める。
「こんなところまで来て、弁当って……あんた物好きね」
「鈴下にだけは言われたくないな」
「うるさい」
「鈴下っていつもパンとかおにぎりだよな?」
「それが?」
「弁当食べないのか?」
「売ってる弁当ってなんか食べたくならないし、食べても美味しく感じないのよ」
「あー、なんとなくわかる気がする。家から持ってこないのか?」
「……あんたには関係ないでしょ」
「でも――」
「ウザいから放っておいて」
「別にいいけどさ」
「ふん……」
「あ、今度出る『ファインドファンタジアⅥ』の噂聞いたか?」
「は? なにそれ?」
「なんだ、知らないのか? 今作はなんと14人も仲間が出てくるらしいぞ」
「いや、そうじゃなくて――」
「なんだよ?」
「その、ふぁい……なんとかってのが、なにって聞いてんの」
「え?」
「なによ……」
「あの『ファイジア』だぞ!? 『タイクエ』と双璧を成すRPGだぞ!?」
「知らない……」
「な、なんだってー!」
「そもそも、RPGってなによ?」
バカな!? 鈴下ほどのゲーマーが『ファイジア』や『タイクエ』どころか、RPGを知らないなんて!?
「鈴下って、家でゲームしないのか?」
「…………」
「鈴下?」
黙り込んじまった。
「おーい」
「わ、わたしはゲーセンが好きなの。そんな家庭用ゲームでチマチマやってられないわよ」
「そ、そうか……」
「ふん……」
「というか、格ゲー以外もするの?」
「あんまりやらないわね。アクションなら少しやるけど」
「格ゲーと似ている部分もあるから納得だ」
「最近は格ゲーがゲーセンを牛耳ってるから、少し寂しく感じるけどね」
「格ゲーと言えば、『ストファー』の会社がトップクラスだったけど、『ころエク』の会社が参入してからは格ゲーの競争が激化してるからな」
「プレイしてるわたしたちからすれば、いいことなんでしょうけどね」
「いいこと?」
「競争する相手がいれば負けじと切磋琢磨するでしょ? それだけいい作品が生まれるし、わたしたちもそれにお金をかける。そうすれば、またいい作品が生まれる。良い循環だと思わない?」
鈴下からこんな言葉が出てくるなんて、意外だ。失礼かもしれないが、イメージと違う。
「確かにそうだな。鈴下って案外色々考えてるんだな」
「べ、別に普通よ、フツウ」
ま、それはそれとして、鈴下との本題はここからだ。
「今度なんかすごいのが出るらしいな」
「わたしが知らないとでも思ってんの?」
「やはり知ってたか」
鈴下といえば格ゲー。となれば、この話題は避けられんだろう。
「『バーチャルウォーリアー』ね?」
「ああ、3D格闘だぜ? 信じられねえよ」
「どういうふうになるのかしらね」
「空飛んだりするのかな」
「それバランスとしてどうなの?」
「そっか」
「…………」
鈴下はなにを想像しているのかニヤニヤした表情だ。
「楽しそうだな」
「な、なにが?」
「いや、本当にゲーム好きなんだなって」
「そ、そうだけど? いちいち、そんなこと言わなくていいっての!」
「稼働って12月だっけ?」
「うん、後1ヶ月ちょいね」
「よかったら、一緒に行かないか?」
「え?」
「『バーウォー』の稼働日にプレイしに行こうぜ」
「あんたと?」
「ああ」
「な、な、なんでわたしがあんたなんかと――」
「無理にとは言わねえよ。嫌か?」
鈴下は一旦口を閉じる。
「――じゃない」
そして、なにやらボソボソと呟いた。よく聞き取れなかったぞ。
「ん?」
「べ、別に……いやじゃない」
鈴下は俺から目を背け、口を尖らせて言葉を発する。
「そっか」
「勘違いされたら困るから言っておくけど、デートとか思わないでよ!? そのまま夜の街に連れて行かれでもしたら迷惑だし!」
「しねーよ。てか、鈴下相手だと逆に返り討ちにあいそうだ」
「わ、わかってれば、いいのよ」
「楽しみにしてるぞ?」
「わかったから、もうどっか行って!」
「俺まだ弁当が――」
「いいから!」
弁当の中身はまだ半分以上も残ってるが仕方ねえな。
「わかったよ。またな」
「ふん……」
なに怒ってるんだ、鈴下。無理矢理ここに滞在しても嫌がられるだろうし、場所変えるか。弁当の残りどこで食べようかな。食堂は当然空いてないだろうし、中庭が無難かな。
中庭へ到着したはいいものの、ここも人が多いな。
「ん?」
そんな中に見覚えのある女の子がいる。
「あ、鷲宮先輩」
「よお、仲野」
「こんにちは」
「隣いいか?」
「30メートルの間隔を空けてくれるなら、構いません」
仲野は真顔で言い放つ。
「それ、隣って言わねえよ」
「冗談ですよ」
「やれやれ。お前のは冗談なのか本気なのかわからん」
ため息をつきながら仲野の隣に腰掛け、食べかけの弁当を食べる。
「鷲宮先輩は冗談通じない人なんですか?」
「そうじゃなくて、仲野の冗談が伝わりづらいの」
「鷲宮先輩」
「ん?」
「自分の理解力の無さを私の伝達能力のせいにしないでください」
今度は微笑みながら躊躇なく発言する。
「可能性は否定出来ないが、さらりとひどいこと言ってねえか?」
「いえ、事実を言ったまでです」
「もうそれでいいよ」
「わかっていただけて嬉しいです」
「変わってるよな、お前。そんなんで友達いるのか?」
「そんなんとは失礼ですね。ちゃんといますよ」
「友達にまで俺と同じようにきつく接してないだろうな?」
「しませんよ。鷲宮先輩は特別ですから」
「なんだよ特別って」
「こんなふうにするのは鷲宮先輩……だけですよ?」
仲野の急な上目遣いに俺は音を立てて息を呑む。
「仲野……」
「せん、ぱい……」
はっ! なにをやっているんだ! 相手は仲野だぞ!
「お、俺はだまされんぞ! お前のことだから、またからかってるんだろ?」
「鷲宮先輩は特別って言っているのにですか?」
「仲野のことだから、特別って言ってもスペシャルとかじゃなくてアブノーマル的な意味でだろ」
「あ、バレてました?」
「そんなことだろうと思ったよ」
危ういところではあったが。
「では、ご褒美です」
「…………」
仲野は自分の弁当から箸で切り取ったおかずを俺の目の前に差し出してきた。
「鷲宮先輩?」
「いいのか?」
前回のことがあるから疑わしいが、それでも乗っかってしまうのは男の性だろうか。
「もちろんですよ」
「じゃ、遠慮なく――」
「むぐむぐ、これおいしいですよ」
俺が食べようとしたとき、差し出していたおかずを仲野は自分の口に運んだ。
「な、お前な……」
「どうしました、鷲宮先輩?」
「いいって言ったじゃねえか」
「言いましたよ」
「じゃあ、くれよ」
「それはダメです」
「なんでだよ」
「ご褒美に私のおかずを間近で見せてあげようかと」
「いらんわ、そんなご褒美! いや、ご褒美なのか、それ!?」
「スケベな鷲宮先輩なら、女子のお弁当のおかずを見ただけで興奮するかと思いまして」
「スケベ通り越して変質者だな。それより、俺のスケベネタは一生言われ続けるのか」
「はい」
「そこは自信たっぷりなんだな」
「信頼を築くのは一朝一夕ではありませんから。でも、崩れるのは一瞬です」
正論ありがとうございます。
「なにも反論できない……」
「でも、鷲宮先輩」
「なんだ?」
「さっきの特別って言葉ですが――」
「ああ」
「スペシャルでもアブノーマルでも、やっぱり特別は特別なんですよ」
「はあ?」
「私にとってはどっちも同じです」
「よくわからんな」
「スケベなことばっかり考えてるからですよ」
「それはもう勘弁してくれよ」
「いやですよ、ふふふ」
「悪趣味だな」
「鷲宮先輩ほどでは」
「はあ……お前には一生敵わんかもしれん」
「それはわかりませんよ? 私にも弱点があるかもしれません」
「なに!? それはなんだ?」
「さあ? 自分で探してください」
「へっ、言ったな?仲野の弱点、絶対に見つけ出してやる」
「楽しみにしてますよ、鷲宮先輩。――っと、もうこんな時間。私、そろそろ行きますね」
「おう、飯付き合ってくれてありがとな」
「私も楽しかったので。それでは」
仲野は軽く頭を下げ、去っていった。
「楽しかった、か」
それ、おもちゃで遊べてって意味だろ。
「なに考えてるか、いまいちわかんねえ奴だな」
俺は残っていた弁当の中身を急ぎ足で全て平らげ、教室に戻った。
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