7話 ゲーセン女子との再会
「はあ、はあ、はあ」
ったく、紗智のせいで最近走りっぱなしだし、ついつい屋上へ来てしまった。明らかに俺のせいじゃ……ん?
「…………」
こんななにもないところに1人の女生徒。
「…………」
しかも、すごく嫌そうな目で見られてるな。おにぎりにサンドイッチ……。こんなところで飯を食うなんて通な奴。それになんでペンとノートまで持ち込んでるんだ。場所もそうだが飯食いながら勉強とはますますマニアックだ。
「…………」
自分だけのベストプレイスを邪魔されたというところだろうか。ああも睨まれると退散したいのは山々だが、こっちも今は退けない理由があるからな。
「うーむ……」
「…………」
その前にこの子……どっかで会った気が……。
「あ、あー!」
「うるさいなあ」
「お前、『吹雪』使いの!」
「はあ?」
そうだ。昨日ゲーセンで俺がボコボコにされた後、不良どもに絡まれ一掃してた女の子。
「なにあんた? わたしを知ってるの?」
「知ってるもなにも、昨日ゲーセンにいただろ」
「いたけど?」
やはり、こいつか。
「『ころエク』で『吹雪』使ってたろ」
「それが?」
「ありゃどうなってんだ? 動きが尋常じゃなかったぞ」
「あんたと対戦、したっけ?」
「俺は昨日『ギリー』で対戦した者だ」
「ギリー……ギリー……。あ、あれか」
「思い出してくれてなによ――」
「あの調子乗ってバカみたいに攻めてきてたやつか」
「うがっ……」
じ、実際そうだが、こうも遠慮なしに言われるとダメージでかい。
「動きが読みやすくて、楽勝だったわ」
「お前、ゲームと同じで容赦ねえな……」
「だって、本当のことだし」
「な、なんだと!?」
「あんた、『ころエク』の経験は?」
「稼働当初からやってるが……」
「過去作は?」
「それなりに……」
「それマジ?」
「ああ」
「初心者かと思った」
「ぐっ……お前が強すぎんだよ」
「お前っていうのやめて。わたしには
「あ、ああ、すまん。俺は鷲宮誠――」
「あんたの名前はどうでもいい」
なんてわがままな奴なんだ。
「ヘタにしても、あれはないでしょ」
「なんでだよ」
「わたし、あんなにガード固めてたんだから、なんで投げないのよ」
「た、確かに……」
「その後もただ闇雲に突っ込んでくるだけだし」
「うぐ……」
「距離詰めるだけじゃなくて、少し間合いを取って様子見するとか他にも手段はあったでしょ」
「はい……」
「はあ……昨日は本当、退屈だった」
「昨日といや、大丈夫だったのか?」
「なにが?」
「ガラの悪い連中に絡まれてたろ?」
「あいつらね。別になんともない」
「こっちはハラハラしてたんだぞ」
「知ったことじゃないわよ。大体、悪いのはあいつらだし」
「そうだけどさ」
「ゲームで負けたからって、あんなことするのは最低よ」
「…………」
「な、なによ?」
「ゲーム、好きなんだな」
「そ、そうよ! なにか悪い?」
鈴下は顔を赤くして抗議する。
「悪いことねえよ」
「ふん……」
「俺もゲーム好きだけど、周りにあんまいなくてな。同志に会えて嬉しいぜ」
「な――」
「鈴下?」
なぜ歯を食いしばって、睨みつけてくるんだ。顔は赤くなってるし。
「…………」
「どうした?」
「う、うるさい! あんたなんかと一緒にしないでよ!」
「なに怒ってんだよ?」
「お、怒ってなんか――」
鈴下の言葉を遮るように昼休み終了直前の予鈴が鳴った。
「もうそんな時間か」
紗智と三原も教室に戻ってるだろ。
「俺もう行くから」
「勝手に行けば」
「あ、そうそう」
「なによ?」
「今度また対戦しようぜ?」
「……は、早く行きなさいよ!」
「またな」
「…………」
あいつ、口は悪いけど、なにげに対戦の助言をしてくれる辺り案外良いやつかも。鈴下鈴か……。また対戦したいものだ。
「……ボロ負けするビジョンしか見えないけど」
「あ、誠ちゃん!」
「鷲宮さん」
「よう、戻ってたか」
教室に戻ると、すでに紗智と三原は着席していた。
「もうどこ行ってたんだよー?」
「ん、まあ色々とな」
鈴下と会っていたとか言うとまた面倒だからな。
「怪しーなー」
「んなことねえって。それより、三原」
「はい?」
「途中で抜けて悪かった」
「いえ、気になさらないでください」
「まだ案内してないところもあるから、放課後は大丈夫か?」
「はい」
「というわけだ、紗智。放課後また案内するぞ」
「なーんかごまかされた気分だけど、それは、うん」
「気にしすぎだっての」
当たらずも遠からずだけどさ。
「しゃー、終わったー」
放課後のHRも終わり、やっと自由の身となる。
「お疲れ様です」
「おう」
「誠ちゃん、午後はずっと寝てたじゃん」
「睡眠学習だ」
「あー言えば、こう言うんだから」
「今日、居残りは大丈夫なんですか?」
「三原……意外とはっきり言うんだな」
「え、あの、私……」
「事実でしょ? 麻衣ちゃん、気にしないでもいいからね」
「はい」
「み、三原まで……」
これも紗智の影響なのか。
「きょ、今日は大丈夫だって! 早く行こうぜ!」
「うん、そうだね」
「お願いします」
「それで誠ちゃん、まずはどこへ行くの?」
「まずは屋上だ」
さすがに鈴下も帰っただろうし、大丈夫だろ。
「ふう……」
予想通り、鈴下はいないな。放課後なんだし、そりゃそうか。
「どうかしたの、誠ちゃん?」
「いや、なんでもねえよ」
「この学園は屋上が開放されているのですね」
「前いたところは閉まってたの?」
「はい、生徒は立ち入り禁止でした」
学園によって違うんだなと改めて思う。
「じゃあ、屋上は初めてか?」
「いえ、前のところでも来たことはありました」
「どうやって?」
「そこでは屋上に花壇があって、教員と一緒に学年の担当がお世話をしていました。そのときに屋上へ」
「そうなのか」
「はい。しかし、花壇のお世話が主だったので、屋上から外の景色をじっくり眺めたのは初めてです」
「って言っても、そこまで高くないから学園の中庭とグラウンドぐらいしか見えないけどね」
確かに紗智の言う通りだ。もう少し高ければ、町を一望出来たかもしれない。
「学園を見渡せる場所があるのは素晴らしいと思います」
「次、行くか」
「次はー?」
「御守桜だ」
「御守桜とは?」
三原はハテナな顔をする。
「行けばわかるぞ」
「決まったことだし、いざしゅっぱーつ!」
「おーい、大丈夫か?」
「は、はい」
「この丘、やっぱりきついよ~」
御守桜の元へ行くには小高い丘を登る必要があるからな。だからこそ、人もほとんど来なくて、心地よいのだ。
「ふあ~、やっと登りきったよ~」
「大変でした……」
2人は荒い息遣いを整えながら、目的地へ到着したことに安堵していた。
「そう言うなって。この学園唯一の名所なんだから」
「そうなのですか?」
「ああ。この校舎裏の丘に1本だけ生えているこれが御守桜だ」
「わあ、大きくて立派な桜の木ですね」
御守桜を見上げながら、三原は感嘆の声をあげる。
「春になると満開の桜が咲いて、すごく綺麗なんだよ」
「早くこの目で見てみたいです」
「三原、昼休みの中庭のこと覚えているか?」
「はい、中庭が憩いの場だけではない、とのことですよね?」
「ああ、そのわけはこの御守桜だ」
「というと?」
「桜の花びらが舞って、それが中庭に降り注ぐんだよ!」
「まあ!」
1番言いたかった部分を紗智に奪われてしまったが、俺の頭はその景色を思い出すことに専念していた。
「あれは何度見ても良いものだ」
こんな俺が見ても心が洗われるような感覚に陥る。それぐらい素晴らしい光景だ。
「だから、その時期だけ中庭は下校時間まで、関係者以外の立ち入りを許可してるんだよ」
「それぐらい春の中庭は魅力的な場所だぞ」
「この桜は学園だけでなく、この町に住む人々の心の拠り所なのですね」
「でも、この桜にはもう1つあるんだよ~」
「え、なんですか?」
まだなんかあったっけ?
「それはね、『この桜の木の下で告白が成功すると2人は必ず結ばれる。しかし、失敗すると永遠に結ばれない』っていう伝説があるんだよ」
「素敵ですね」
「そんなのあったのか?」
「誠ちゃん、知らなかったの?」
「初耳だ」
「誠ちゃんはロマンに欠けるもんね~」
「なにおう!」
「ま、まあまあ、お二人共」
三原の手前、ここは抑えておこう。
「それとな、ここからなら御守町を一望できるんだ」
「あ、本当ですね」
「校舎があるから、中庭やグラウンドは見えないんだけどね」
紗智は校舎が壁になっていることを指で示しながら、三原にそのことを教える。
「鷲宮さんがここを御守学園の名所だと言った理由がわかりました」
「そりゃよかったぜ」
「でも、あたしはこの丘があるから、あんまり来ようとは思わないんだけどね」
「そ、それもわかります」
「なんだよ、2人共。それがあるから来る甲斐があるんだろ?」
「そうだけど……誠ちゃんは男の子で体力があるから、簡単に言えるんだよ」
「でも、鷲宮さんの気持ちもわかります」
「なんにせよ、ここが案内出来てよかった」
「次はどこへ行くの?」
「後はあそこだろう」
「あそこ?」
今、頭上にハテナマークを浮かばせている紗智の力を借りるしかないだろうが。
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