4話 紗智との1日、その終わり
「ただいまー」
「誠ちゃーん!」
「ぐえっ!」
いきなり腹に飛び込んでくるとは――しかも、そのまま両腕を背中に回されてホールド。
「う、動けねえ……」
「こんな時間まで、どこ行ってたの!」
「いやそれはだな――」
「この不良! どうせゲームセンターにでも行ってたんでしょ!」
「う……」
こいつエスパーか。
「とりあえず、一旦離れてくれ……。これ以上は……は、弾けそう……」
「あ、ごめん」
「あてっ!」
「なに尻餅ついてんの?」
「急に離すからだろうが!」
「それでぇ? 一体こんな時間までなにしてたの?」
「それはその……宿題やってたんだよ」
「こんな時間まで?」
「実は宿題やってたら、会長に会ってよ」
「それで?」
「宿題見てもらった後、少し喋ってたらこんな時間になったわけだ」
「あの会長さんが下校時間過ぎてまで学園にいるわけないじゃん」
「う……」
くそ、こういうときだけ勘の鋭いやつめ。
「それには深いワケがあるんだ」
「多分どうでもいいことだろうけど、一応聞いてあげる」
「宿題を手伝ってもらった後、俺は会長と喋っていたんだ。日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうと思って立ち上がったとき会長に引き止められた」
「…………」
「ついてきてほしいと言われたから、俺はそれに従った。歩いている内に外はすっかり暗闇だ。それまで楽しげに喋っていた俺と会長だったが、日が落ちてから会長は一言も言葉を発しなくなった」
「…………」
「黙ったまま会長についていくとそこは校舎裏の御守桜の前。俺はなぜこんな場所にと思い、後ろを向いたままの会長に疑問をぶつけた。俺の問いに答えようと会長はゆっくり俺の方を振り向いた」
「…………」
「会長の目と唇は暗闇でもはっきりわかるぐらい真っ赤になって、口からは2本の鋭い歯が突き出ていた。実は、会長は御守桜に呪われ、不死の肉体を得たゾンビだったんだ!」
「…………」
「……あれ?」
「誠ちゃん」
「はい?」
「もう少しマシな嘘つこうね?」
「はう……」
怖がりの紗智なら絶対信じると思っていたのに……。俺の知らない間にお前も成長しているんだな。
「感心感心」
「なに1人で納得してんのさ。なんかもう疲れちゃったから、ご飯食べよう」
「最近、思うんだけど――」
「なあに?」
「俺の扱い雑になってきてるよな?」
「そんなことないよ。ちゃんとご飯も作ってるじゃん」
「そういうことじゃないんだけど」
「ほらほら、お腹空いてるでしょ? 食べようよ」
「ん、そうするか」
なんかうまい具合に丸め込まれた気がするが……。
「ふうー、食った食った」
「ごちそうさまでした」
「ちょうど揚げ物が食いたいと思ってたんだよな」
「へへーん、誠ちゃんのことなら、なんでもお見通しなんだから」
「なら、朝はもう少し遅くだな――」
「それはナシ!」
「なんだよー、俺のことお見通しならわかるだろー」
「お見通しだからこそ、甘やかしちゃいけないってわかるもんね」
「いや、ときには自立を促すために放置することも――」
「自分で言うかな~」
「はあ、こんなとき三原だったら優しくしてくれるんだろうな」
「む……それどういう意味?」
「あ? そのままの意味だよ。あいつだったら、今朝のようなこと起こりえないはずだ」
「!? ――誠ちゃんのエッチ!」
「そこじゃねえよ! その後だっての!」
「その後?」
「あの後、思いっきり顔面に枕投げつけやがって」
「誠ちゃんがエッチなのがいけないんだよ。それに頭スッキリしたでしょ?」
「スッキリしすぎて、昇天するかと思ったわ! 三原だったら絶対許してくれるはずだ」
「ま、麻衣ちゃんは関係ないでしょ」
「よし、明日試しに頼んでみるか」
「そ、そそ、それはダメー!」
「なんでだよ?」
「それは~……と、とにかく! 誠ちゃんにはあたしがいないとダメなんだよ!」
「なに意地になってんだよ、お前?」
「……誠ちゃんのせいだよ」
「わけわからん」
「明日、麻衣ちゃんにそんなことお願いしたらダメだからね!」
「はいはい、わかりましたよ」
「本当にぃ~?」
「大丈夫だって、お前に騒がれるよりマシだ」
なんでそんな騒ぐのか、わかんねえけど。
「ふふ……なら、よし!」
「わかってもらえたようでなによりだ」
「それじゃ、誠ちゃん。あたし、もう帰るね」
「おう」
「またねー」
なんだか上機嫌で帰ってったけど、どうしたんだあいつ。
「俺との討論を行いながらの片付けはさすがと言えるな」
全国家事選手権とかあったら、優勝出来るんじゃねえか。調子に乗るから本人には言わないけど。
「ふう……」
この時期、風呂に入った後ベッドに横たわると体の温かさがそのまま布団に移って気持ちいい。そんな気分に浸っていると向かいの家の窓がカラカラ開く音が聞こえてきた。
「よっと……」
その音に共鳴するかのように俺も窓を開ける。
「やっほー」
「よう」
「お風呂、入ったんだね」
「よくわかったな」
「髪、乾いてないよ」
「そういうお前はまだ入ってねえのか?」
「入ったよー」
「髪、濡れてねえぞ?」
「ドライヤーでいつも乾かしてるじゃん」
「そうだっけ?」
「小さい頃からこうやって毎日窓開けて話してるのに今更~?」
「気にしたことなかったからな」
「……誠ちゃんは、さ」
「ん?」
「あたしのこと……その……気にならないのかな?」
「…………」
どうなんだろ。気にならないわけじゃないけど――
「どうなの?」
「気にはなるかな」
ずっと一緒にいた幼馴染だし。
「本当に?」
「ああ」
「んふふ……」
「急になんだよ?」
「あ、ううん、なんでもないの」
「?」
「それよりさ、誠ちゃん。明日はちゃんと麻衣ちゃんに学園の案内してあげようね」
「今日はなんだかんだあって、あんまり出来なかったもんな」
「ほとんどの原因は誠ちゃんじゃない」
「昼休みのはお前のせいでもあるけどな」
「でも、会長さんあんな優しい人って思わなかった」
自分にも非があると思って、話逸らしやがったな。
「なんだ、怒られたことでもあるのか?」
「そうじゃないけど、会長さんって人を寄せ付けない雰囲気あるじゃない?」
「そうだな」
「もう少しクールな人だと思ってたんだ」
「クールなほうだと思うけど」
「そうだけど、誠ちゃんがぶつかったときもすごく怒られるんじゃないかって。内心ヒヤヒヤしてたんだよ?」
そんな態度には見えなかったが。
「あの人はすごくいい人だよ。宿題を教えてくれたときも丁寧だったし、まるで俺への教え方をわかってるかのようだったな」
「あ、その話本当だったんだ」
「信じてなかったのかよ」
「だって、変なこと言うから」
「下校時間が迫ってたから、会長が手伝ってくれたんだよ。おかげでスムーズに終わった」
「じゃあ、やっぱり学園にいたわけじゃないんだね?」
「あ……」
俺としたことが墓穴を掘った。
「どうせゲームセンターにでもいたんでしょ?」
「たまにはいいだろ」
「ダメって言うわけじゃないけど……」
「なんだよ?」
イメージ悪いからか?
「なんの連絡もなく、あんな遅くまで帰ってこなかったら……心配、しちゃうよ」
「…………」
「せめてさ、電話でもいいから教えてね。それなら安心して誠ちゃんの帰り、待てるから」
「…………」
「それだけは約束して……?」
「ああ……悪かった」
「……うん。――な、なんか変な感じになっちゃったね! あたしもう寝るね! おやすみ、誠ちゃん!」
「ああ、おやすみ」
紗智の部屋の窓が閉まるのを見届けてから俺も窓を閉めた。
「…………」
そうだよな、紗智からすれば俺の身になにかあったんじゃないかって思うよな。逆の立場――もし、紗智があんな時間までなんの連絡もなく帰ってこなかったら、俺だって同じことを思うはずだ。俺たちは昔からずっと一緒だった。離れていたら不安になる気持ちは俺にだってある。
「明日は素直に起こされてやるか……」
心配かけたお詫びってわけじゃないけど。
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