第2話 麻痺
「一体もうそうやってどのくらい経つのでしょう?」
薄暗い中、昼下がりの日差しを見ながらそう言ったようでした。考えるまでもない、ひどく永い時間だ。私でさえも正確には分かりません。
どこか遠くで声が聞こえる。誰のものであっても構わない。別にうるさいわけではないし、むしろ日々静かな時間を送っている人にとってはちょうどいいぐらいの生活音なのだ。私のような建物の中で職務を黙々と行っている者たちからすれば。
「私はね、こうやっていつも生活しているものですから」
そうはいっても、異常なまでの不安な感情だけで私に声をかけられても、どうしようもないのです。気持ちだけで動いている人間に対して理性で説明しても、感情そのものが収まりきらなければ、感情をまた振り回してくるだけなのを、もう嫌というほど身に染みているからです。
日々の仕事は本当に不規則なものでしょうがないです。日課の分をやり終えたらその後は休憩しているだけのような日や、ろく休憩もさせてもらえないだけでなく延々と残業を強いられるような日等、その極端な仕事の振り分け具合に辟易してしまいます。これが原因で、体調を崩しそのまま退職をしてしまう人が出てきているくらい心身が不安定になるのに、何の保険も与えられないという、名前とは裏腹の劣悪な環境がこの職場です。
「本当に、ねえこうやっても無理なんですねえ」
その上、このような相談業務とも言えないような事をやっているのですから、そのうち自分の精神が蝕まれるのではないかと、内心危機感を感じ始めているのです。ただ話を聞いて相槌を打てばいいだけと言われても、肝心の話自体が何の意味もなければただの言葉という名の声だからです。犬や猫の鳴き声をひたすら聞くだけのと同じような感覚です。いつまでも聞き続けていればいずれ嫌気が差すものです。
なので最近は聞くふりをしつつ全く別の事を考えるようにしています。この前聞いた友達の話、美味しそうと評判で気になっている飲食店、下宿先の荷物の整理、考える事が無い時は、昔の事を頭の中で振り返っています。こんな事上司にバレたら大変ですけれど、今の仕事を続けていく為に、私はそうするしかありません。
白昼夢 キェルツェ @shigainohako
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