白昼夢
キェルツェ
第1話 白い光
私は、とても眩しい光を浴びていました。
白い日差しに身体を包まれて、その全てが吸い込まれてしまうような感覚に身を預けていました。意識はひどくぼんやりしていたのに、視覚や聴覚といった五感は、いやにはっきりしていたのをよく覚えています。
これはいつ頃のことなのでしょうか。
朝なのか昼なのか、夏なのか冬なのか、昔なのか今なのか、それがいつの事なのか全く分からないのです。記憶にあるのは、ギラギラした強い日差しと、太陽以外の空を覆い尽くす真っ白な雲、そして、周りの景色一切が白い光で埋め尽くされた風景。まるで、買ったばかりの真新しい白紙の中にいるようでした。その光に、私の目は確かに眩しさを感じていたのですが、何故か目を背けなくても眼球が痛む事はなく、その光を目に捉えられていたのです。
ここはどこの何という所なのでしょうか。
頭上の太陽以外が、雲やら強い日差しやらで真っ白なもので囲まれて、周囲が全く見えないこの不思議な場所は一体どこなのか。光で辺りの物が見えないのに、目は平然と開けていられるところなんて私は全く知らなかったし、なおかつそんなところにいるなんて人生で初めてだったので、軽く朦朧としてきた意識の中、そこで立ち尽くす以外に何もできなかったのです。
そんな時、白一色の景色の中で、何かが現れたようなものを見ました。ちょうど私が向いている方向の、とても遠くにいるためなのか、ぽつりと小さく黒っぽい点のようなものがあったのです。先ほどまでには無かったものでした。
茫然とこの場に立っているしかなかった私は、今まで浴びていた白い光以外のものが突然の出現する現象に少しびっくりしました。しかし、私は曖昧模糊になりつつある意識を振り払うように、それが何なのかを見定めるべく、その黒い点を見続けました。じっくりと時間をかけて観察していると、徐々にその形が現れてきました。
少女でした。容姿や服装といったもの全てが白で覆われた女の子が、ゆっくりと私の方へ歩いて来るのです。雪を思い起こさせる真っ白の長い髪と、透き通るような白い肌、そして白一色で作られた衣服で身を包んでいました。修道服とも、民族衣装とも言えそうな一風変わったカーディガンと、足首まで届く長い丈のスカートが印象的でした。
年はよく分かりませんでしたが、多分10歳、11歳ぐらいの年だと思いました。大した根拠はなく、個人的な直感です。ただよく見ると、片方の眼だけが赤い色をしていました。ルビーのような深い緋色の眼が私の姿をとらえていました。もう片方の目は長い髪で見えなかったので両方そうなのかまでは分からなかったのですが、そこだけが他の色彩と異なっていて、それが妙に気になってしまいました。
私は何をするわけでもなく、こちらへ向かってくる少女をただずっと見ていました。彼女の外見にあっけを取られていたのも理由の一つではあるのですが、そもそもこの状況で何か行動を起こす気力が、私には全くなかったのです。何の前触れもなく、まばゆい光と太陽と雲しか見えないところに来ても、私にどんな事ができるか分からなかったからです。そんな状況で女の子一人がこちらへ向かわれても、どんな事をすればいいのか、何をどう言えばいいのか、判断が全くできませんでした。
私はただ見つめています、白い光を。空は太陽と白い雲だけが存在し、何を照らすわけでもなく、何を地上から覆ってくれるわけもなく。そして、少女はただ私の方へ歩いてきます。ゆっくりとした所作で、何の意図があるのか、私は分からないまま。
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