第13章 エッジ

第13話 エッジ(1)

 

 

 とりあえずは、西軍の姿になったことで一息つけた。これで、この関ヶ原にいる人間の誰と鉢合わせしようとも、攻撃を受けることはない。


「さあ」


 岩に腰掛けた礼韻レインが、優丸ひろまに顔を向けた。


「この状況を説明してくれ」


 優丸に説明するよう、促す。


 その優丸が、首を振る。


「分かっているわけではない」


「しかし、なにかしらの見当はつけているはずだ。おれにはまったく分からないんだ。何故東軍が負けたのか? 何故小早川秀秋や家康が死んだのか? 混乱している。不確定でもいい、優丸の思ったことを言ってくれ」


 涼香すずかも優丸をじっと見つめた。涼香は礼韻以上に混乱し、考えることを一切やめてしまっていた。自分の知っている関ヶ原の合戦とはまったくちがう進行で、望遠鏡のレンズが映していた。涼香はそれに対し、「何故」も「どうして」も頭から排除してしまった。ただただ、西軍の勝利まで、じっと見ているだけだった。


 だから、この意外な展開のヒントでもいいから知りたかった。厳しい表情でじっと礼韻を見返している優丸を、涼香は突き刺すような視線で見つめていた。


「混乱しているのは礼韻だけじゃない。おれも混乱している」


「それはそうだろう。この状況で混乱しないはずがない。でも少なくとも、現在、おれよりも優丸の方が、考えがまとまっている」


 その言葉に、優丸が小さく頷く。しかし言葉は出てこない。


「優丸、躊躇ためらわないで。急いで対策を練らないと……」


 ここでじっくり話し合いなどしているひまはない。涼香は急かした。感情に任せた言葉は礼韻の嫌うところで、反発されるかもしれない。しかし涼香はじっと言葉を待っていることができなかった。


 礼韻が涼香に顔を向ける。そして低く、そうだなと同調した。涼香は、あっさりと自分に同調した礼韻に驚いた。やはり礼韻も急いでいるのだ。


「優丸、時間がない。教えてくれ。なんなんだ、この状況は」


 沈鬱な表情で、優丸は2人の顔を順に見た。そして礼韻以上に低く、


「エッジ」


 と言葉を吐いた。


 

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