第7章 祖父の贈り物 (5)
涼香がその転校生を初めて見たとき、礼韻に似ていると思った。
身長、体形、顔。つまりは容姿が似ていた。そしてまた、浮かべる表情が特に似ていた。
しかしそれだけだった。礼韻が転校生になど、目もくれるわけがない。だから自分にも関係ない。涼香はそう思っていた。
ところが、すぐに2人は行動を共にするようになった。
人に寄り添わない礼韻を子供のときから見ている涼香にとっては、信じられないことだった。
すぐさま、礼韻に問うた。何故仲良くなったのか、と。
「あいつは、願坐韻の著作をすべて読んでいる」
顔を向けずに、面白くなさそうな口調で答えた。
「すべて? 全部で何冊なの? 何冊か、礼韻は把握しているの?」
涼香はどういう訳かその転校生にポッと敵愾心が沸いた。強くではない。なんとなくだ。しかしそれによって口調はとげとげしくなった。
「分からない」
礼韻はまだ顔を向けない。
「分からないんじゃ、すべてって言いきれないじゃない」
その言葉に、礼韻がゆっくりと顔を向けた。
「たしかにそうだな。おれが読んだもの、知っているものすべて。そう言いなおすよ」
礼韻はつまらない意地を張らない男だった。涼香の言葉に、すぐ訂正した。
「礼韻の認める男なのね」
礼韻が立ち上がり、涼香を見下ろす。その、上からの鋭い眼光に、涼香はたじろぐ。
「認めざるを得ない。あいつはそれらをすべて、暗唱できる。全部頭の中に入ってるんだ」
苦々しい表情で礼韻が言った。手ごたえのある人間が現れた喜びと、自分の自信を揺るがせる男の出現への恐怖。それらが複雑に絡み合った表情だった。
それからは、3人で行動することが増えた。今まで2人だったので、最初、涼香は煩わしかった。しかし転校生の優丸は寡黙で邪魔にならず、すぐに慣れてしまった。
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