第6章 戦場の混沌 (3)
接近戦は混乱を極めている。涼香は、あれでよく敵味方の区別ができるものだと不思議で仕方ない。そこに、足軽の一人が味方に撃たれる場面が遠眼鏡に飛び込んできた。
誰が放ったか分からない銃弾が背中を突いた。足軽は振り返ってなにか喚いていたが、間もなく口から血を噴き出して倒れた。
やっぱり、と涼香は思う。もう、この地に整然としたものなどない。たとえ味方のものであろうと、油断を怠らず注意を払わなければならない。弾丸だろうが、矢だろうが、馬だろうが。当たって被害を受けるのは自分自身なのだ。
これでは敵の首を獲ったとしても、その手柄がちゃんと伝わるかもあやしいものだ。重い首など持ち歩けないので、戦場には手柄を紙に控える人間がいる。だが、その者を捜すことが容易でない。多くは、なんら報告などせず、次の相手と組み合うことだろう。
こうなれば手柄などより、生き延びることが重要だ。無事に生還すれば、手柄を立てながらも命を落とした者から、それを横取りする手もある。
そんなハイエナのような足軽もそこかしこにいる。将の下で集団で動いている者は、一定の秩序を持って行動していた。しかし将をなくして単独となった足軽のなかには、制約が吹き飛び、生き残るために卑劣な行動に走る者がいた。
戦場というのは人の持つ汚い部分が露呈されるところだと、涼香はあらためて思った。むしろ汚い心を持つ人間でないと、生き延びるに困難なのだ。
涼香は見るのがつらかった。しかしどうしても遠眼鏡をはずすことができなかった。しぜんに肩や手のひらに力が入り、歯がぎりぎりと鳴った。
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