第5章 三成を取り巻く男たち

第5章 三成を取り巻く男たち (1)

 大谷吉継の隊もまた、東軍を押し込めていた。


 その勇猛ぶりが、高みからの俯瞰だとよく分かる。ほれぼれする戦闘を繰り広げていた。


 もっとも大谷吉継その人は盲目のため、動いてはいない。しかし台座から次々指示を送り、家臣が忠実に動いていた。むやみに手柄に走らず、引くところは引き、連携し、涼香の時代で言うところのチームワークを機能させていた。吉継が将として信頼されているからこそできる戦闘だった。ほぼ武功のみが出世への道と繋がる戦国期においては、それは貴重なことだった。


 西軍の最大勢力、宇喜田家は直近にお家騒動が起こり、その騒動では主君に歯向かう者まで出た。この数時間後に東軍に寝返ることになる小早川家は、寝返った際に戦闘から離脱した者がいた。この時代、お家が一枚岩になることは非常に難しいことだった。しかし大谷吉継にそのような話は残っていない。上からも下からも慕われ、信任されていた。その人望で、配下の者の心を掌握していた。本来であれば、この合戦の直前に東軍から西軍へと支持を変えたのだから、部下の反乱が起こっても不思議でない。むしろ起こっていい環境といえた。なにしろ親友への義理立てから、不利と言われる側に乗り換えたのだから。


 石田三成の親友ということで、礼韻は大谷吉継に好意を持っていた。斜に構えた性格を持つ礼韻レインなので、口にこそ出さないが、しかし気持ちの中では大谷吉継という人物に好印象を持っていた。


 その大谷隊が眼下で大活躍を繰り広げている。知らず、礼韻はこぶしを強く握り、息遣いを荒くしていた。


 涼香すずかはそっと横を見て、礼韻という男に、より惹かれている自分を意識した。


 三成への友情のみで、負けると分かる西軍に泣く泣く参加した吉継。そんな武将を好きな者に、心の空虚な者がいるはずがない。礼韻は他人から、機械のような男だと言われている。感情をなくしてしまった男とも言われている。しかしそれは、そう見せているだけで、そんなことは絶対にないと涼香は思っていた。


 大谷吉継の部下には、当然三成を嫌っている者がいたはずだ。このときの三成は天下の嫌われ者で、嫌う材料は数多くあった。また三成を知らない者であっても、風潮に合わせて嫌いと主張しないと生きづらい世の中だった。


 それでも吉継は、三成の友として戦うことを家臣に納得させ、気持ちを一つにまとめている。この連携の取れた戦闘を見て、涼香は、あらためてすごい武将だと感心した。


 靄は払われたが雲が低く垂れこめ、重い空気に包まれている。男たちの声もいくぶんくぐもっているように聞こえる。その中で、すさまじい轟音が響き渡った。

 


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