第4章 火蓋 (6)

 福島正則のような高名な武将になど、そう易々と近付けるものではない。将だけあり、近習も従僕も張り付くようにそばにいる。全登はだから、焦らず待った。好材料は、叱咤のために派手に動き回っていることだ。必ずや好機が訪れる。


 全登は鉄砲隊を指揮することにかけての名手だけあり、隊の者それぞれの腕前だけでなく、その細かな特徴までもつかんでいた。遠距離は苦手でも近場は命中率が高い者、曇天や薄暮も精度が落ちない目のいい者、など。


 そしてこの場には、遠距離の得手を揃えていた。絶対的な命中率は劣るが、遠方の、ある程度嵩のある物であれば精度が高い、という。少人数の隊だ。見つかっては元も子もないので、目立たないよう人数はしぼった。


 好機はすぐにおとずれた。正則が感情のままに動くので、そばの者が付ききれないのだ。


「撃て!」


 左腕の合図とともに、全登が指示した。距離はまだあったが、前ががら空きだった。


 戦場の喧騒に、たった数丁の発砲音はまったく目立たなかった。しかし弾はあきらかに発射され、その証拠に弾を胴に受けた正則の馬が首を激しく振り、制御不能となった。


 馬が倒れる瞬間、さすが歴戦の武将だけあり、正則はサッと飛び降り両足で着地した。さらに、転がるように馬から離れた。起き上がれなくなった馬の暴れようはすさまじいもので、四肢を搔き、首を振りながら、勢いのままにずるずると、どこへとも知れず移動していく。もし少しでも触れれば骨折は避けられない。だからとにもかくにも、足掻く馬からは距離を取らなければならない。


 鉄砲の的にならないよう、しゃがんだ姿勢を保つ福島正則。近くの槍を拾い、構え、周囲を睨みつけた。その正則に、全登の指揮する精鋭隊の、2丁めの鉄砲が火を噴いた。

 


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