第1章 すり替わり(2)
崩れ落ちた若武者から、布を押し当てた男2人が着衣をはがしていく。男たちは若武者よりも年が若く、体も華奢だった。さらに、眠って意識をなくした人間はずしりと重い。しかし2人はもてあますことなく、手際よく剥いでいく。粗末な胴丸をはずし、陣笠を取り、その下の衣装を脱がす。若武者たちは見張り番という役目柄、いつでも報告に走れるよう篭手も脛あても付けてなく、ものの数分で褌一枚の姿にまで剥けた。
今度、2人は自分たちの着衣を捨て、剥がしたばかりの足軽の衣類を着けていく。沁みた汗がムッと匂ったが、彼らは気にしなかった。陣笠を被ると、面頬で顔の下半分を覆った。面頬だけは持参したものだった。
裸に剥いたときに地べたを転がされ、若武者たちは泥だらけだった。その黒い体を引きずり、大木に背をもたせて縄で縛りつけた。
ここで男の1人が、ようやくというふうに小さくため息を吐いた。そしてもう一方の男に、触れるほどに顔を近づけた。そこまで寄らないと、闇と靄でなにも分からないからだ。
「おまえは、おれたちの着ていた物を埋めてくれ。こちらは、やつらの眠りに念を押す」
低音でそう伝えると、すぐさま若武者に近づき、口を開けて奥にカプセルを詰め込んだ。これは飲み込まずとも、唾液で割れて溶け出し、威力を発揮するものだ。半日は確実に目を覚まさない。
もう一方の男は、自分たちの着ていた衣類を、目印を付けておいた木のそばに埋めた。この時代の者が見ても、おそらくは衣類だとは分からないであろう、彼ら2人の時代のスタンダードな服を、頑強な防水の袋に入れて埋めたのだ。
「おい」
土をかぶせ終わって立ちあがろうとした男に、背後から野太い声がかかった。
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