てっぺん! シテマス

だからといって、皆が皆、魔追弾を避けたり、やり過ごせるわけではなかった。


「ちょっと! 何でシナン君じゃなくて、魔追弾がアタシのお尻を追っかけてくるのよ!」

「お~い待ってろ小隊長、兼、金魚の団代表。今、撃墜してやるぞ~!」 


 魔追弾に追いかけられる小隊長、兼、《金魚シナンを愛でる団》の魔導研究所代表である《カタリーナ》を見かけた隊員は、カタリーナの後ろに回り込み、【風のくさび】を魔追弾に向けて発射する。


”ドン!””ドン!””ドン!”


 しかし【風のくさび】は命中するのを拒否するかのごとく、魔追弾の上下左右を通過していった。

「あれ? うまく当たらない……」

「ちょ! こっちは今にも当たる! 当たる! 当たるのよ! あんた帰ったら【風のくさび】の補習を受けなさい!」

「あ、当たった!」


”ドッカ~~ン!”


「いやぁ~~~~~!」

 至近距離で魔追弾が爆発した為、カタリーナは飛行杖から放り出され、琵琶の海に向かって落下していく。


『【風の網】!』 

 下で待機していた救護隊が二人一組になり、二人の間に【風の網】をハンモックのように張り巡らし、落下してくる隊員の下で待ち構える。

 やがて、カタリーナが飛行杖ごと【風の網】の上に落ちてきた。


「本日最初のお客さん、いらっしゃ~い!」

「どうしたどうした? 金魚の団代表様。代わろうか~」

 救護隊の二人がからかうようにカタリーナに声を掛ける。

「やられた~! って! 冗談! 魔追槍も撃っていないのに! それよりあいつ帰ったら【風のくさび】の補習と追試をウェント様に進言してやる!」


「ところでカタリーナお嬢様、ご注文はいかがいたしますか?」

 救護隊のからかいも、カタリーナの目は真剣だった。

「魔力ポーションちょうだい。生命力は……アタシより傷を受けた子に使ってあげて」

 救護隊から魔力ポーションを受け取ったカタリーナは一気に飲み干し、体中から蒼い魔力を噴き上げる。


「もぅ~! てっぺんきた~! アタシを怒らしたらどうなるか思い知らせてやる~!」

「熱くなるなよ~。シナン君とのパーティーが待ってるぞ~。くれぐれも葬式にするんじゃねぇぞ~」

 これ以上にないカタリーナの入れ込み具合に、救護隊の二人も心配になるが

「なんのなんの! 手柄も立てずにシナン君の前に出られますか! んじゃ! 悪いけど魔力節約したいから、”あれ”、やって!」


「《空中かたぱると》をやるのか~? どうなっても知らないぞ!」

「この時の為に練習したんでしょ? アタシが実験台になってあげるから」

 カタリーナの飛行杖が蒼く輝き、推進口も放屁ほうひをする”門”のように、今か今かと魔力の風を溜め込んでいた。


「ほんじゃいくぞ~」

「失敗しても恨むなよ~」


””ゴ~~~!””


 救護隊の二人は杖先を鳥のゴーレムに向けると、【風の網】の上にカタリーナを乗せたまま、飛行杖と推進杖の推進口から一気の魔力の風を噴出させる。

 やがてスピードが最大になると、カタリーナは合図をした。


「今よ!」


 救護隊二人の杖から魔力の風が止まると、風のマントが最大限に開き、エアブレーキによって速度は落ちる。

 それによってカタリーナが【風の網】から勢いよく飛び出した。


「いっけぇ~~~!」

 カタリーナの飛行杖から魔力の風が下痢便以上の勢いで吹き出され、鳥のゴーレムに向かって一気に駆け上がる。


「おおっ!」

「頑張れ団長!」

「骨は拾ってやるぞ~!」

 一陣の槍のように空を貫くカタリーナ。


 それを見たラクルムは皆に命令をする。

『動ける者はカタリーナを援護しろ!』

『は~~~い!』


”ドッドッド!””ドドン!””ドンドン!”


 体勢を立て直した一部の隊員が【風のくさび】を鳥のゴーレムに向かってやたらめったら撃ちまくる。


 その様子を《罰当たりぃ》のゴーグル越しに眺めているイタチ。

「ふっはっはっはっは! ちょっと魔追弾を放ったぐらいで慌てふためくとは、かわいいひよこたちですね。おやおや、でたらめに撃ったところで当たるわけないのに……」

 しかし、油断するとしっぺ返しが来るのは世のことわりである。


”ドーン!”  


 鳥のゴーレムのこめかみに【風のくさび】が直撃すると

「ぐはぁ!」

 こめかみに殴られたような激痛を感じたイタチはその場にうずくまった。

 周りを取り囲んでいる魔物達も、”何をしているんだ”とイタチをのぞき込む。


「おのれ~! こうなったら【咆吼炎】で丸焼きに~。……いや、これは最後の”とっておき”だ。ひよこごときに使っては、いや、むしろそれがラクルムの狙いか?」

 順次、体勢を立て直した風の部隊は【風のくさび】を鳥のゴーレムに打ち込み、イタチの上半身に”チクチク”と痛みを与えた。


「ええい! 鬱陶うっとうしい!」

 イタチは両腕を羽ばたかせたり、腕を広げたまま体を勢いよく回転させる。

 その動きに合わせて、鳥のゴーレムを羽をばたつかせ、体を回転させ、体の周りに暴風や乱気流を巻き起こしていた。


 思いもよらぬ風の乱れに、巻き込まれた風の隊員達は悲鳴を上げる。

「うわ~!」

「いやだぁ~パンツが見えちゃう~!」

「男がいないのに誰が見るんだよ?」

「ゴーレムに見られるのがいやなの!」


「ふぅ~。これでおとなしく……ん? そういえば何で下からは【風のくさび】を撃ちこま……そういうことかぁ!」

 そうこうしているうちにカタリーナを乗せた飛行杖は鳥のゴーレムの真下、股下またした直下までやって来る。


 イタチが頭を下げると、鳥のゴーレムも頭を下に向ける

「気づかれたか! ならば!」

 カタリーナは鳥のゴーレムのお尻の方へ回り込むが、それ以上の速さで体を回転させるゴーレム。

「えっ! やばっ!」

「ふっふっふ! 見つけましたよ。貴女の為に皆がおとりになるとはいい連携ですね。ですがこれで……終わりだぁ~! 対風防御!」


”ボン!”ボン!”ボン!”ボン!” 


と、鳥のゴーレムのすねから四個の魔追弾がカタリーナに向けて放たれた。


(落ち着け! 落ち着けアタシ! 魔追弾は向かってくる目標に対しては、急な進路変更はできない! 全部ギリギリでよけてやる!)

 カタリーナは精神を集中させ、魔追弾の弾頭を凝視する。


「くそっ! 意外と間隔があいてやがる……せっかくここまで来たのに! 邪魔くさい!」

 自ら発した邪魔という言葉に、なぜだかわからないが、カタリーナの目には魔追弾がシナン親衛隊の三人の女魔術師、そして、サティの”むかつく”顔に見えてくる。


(よし! これならいける! 待っててねシナンくぅ~ん。うおおぉぉりゃああぁぁ!)


 第一波がカタリーナに近づく。

「こいつはイカリア!」

 今にも魔追弾と衝突する寸前! カタリーナは風の鎧の右半身を閉じ、杖の推進口を左へ傾けてすんでの所で左によける。


「こいつはヘニル!」

 今度は左半身の風の鎧を閉じ、推進口を右へと傾け、ギリギリで右へと避ける。

「リグニアァ! てめぇはぁ!」

 カタリーナの脳裏には”かたぱると”で飛ばされたリグニアがシナンに抱きつく姿が思い出される。

「これでも喰らいやがれぇ!」

 飛行杖の先端から【風のくさび】が放たれると、魔追弾は大爆発を起こす。


「どうだ! ……えっ!」

 爆煙を突き抜けたカタリーナの眼前に迫る、最後の魔追弾。

 それはまるでシナンといちゃいちゃして顔面崩壊しているサティの顔のようだと、カタリーナには見えていた。


”ドグオォォォン!”


 爆発と爆音と黒煙が、カタリーナを一飲みするかのように包み込んだ。

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