蜘蛛の子、シテマス

「ふんぎゃあ~! いで! いでで! いたい! いたい!」

 叫び声を上げたイタチは、胸とお腹を押さえながら地面を転がった。

「ハァハァ……《罰当たりぃ》によってゴーレムと私の感覚が共有されるとは言え、太古人たいこびとはこんなに痛い投影遊技で遊んでいたのか……?」


 しかし風の部隊の攻撃はこれだけではなかった。

『総員! 【風のくさび』! 放てぇー!』


“ドドドン!”“ドンドン!””ドドドド!”


 ラクルム、第一部隊、第二部隊の飛行杖の先端、その数三十七門からくさび形の風の弾丸が、煙に包まれた鳥のゴーレムに向かって一斉に放たれる。


”ドガ!””ガン!”ズズン!””ドドン!”


 風のくさびによって鳥のゴーレムの装甲は吹き飛ばされ、はがれ落ち、爆発していた。

「あいて! いて……ああ! いい! そ、そこ!」

 寝転がったまま体をクネクネさせ、気持ち悪いあえぎ声を上げるイタチ。

 何事かと、いつの間にか魔物達がイタチを取り囲んでいた。


『風の部隊! 散開!』

 黒煙を噴き上げる鳥のゴーレムに近づいた風の部隊は回避する為、杖の先端を持ち上げ進路を変える。

 その軌跡はまるで空に百合の花を咲かせるようだった。

 華麗に一回転した風の部隊は、杖の先端を鳥のゴーレムに向けたまま、取り囲むように空中に停止する。

 

 小さい爆発と黒炎を噴き上げる鳥のゴーレム。

 装甲か外皮だろうか、数多くのゴーレムの破片が煙を伴いながら琵琶の海へと吸い込まれていった。


「意外とあっけなかったね」

「楽勝! 楽勝!」

「ま~あたし達にかかればこ~んなもんよ!」


 しかし、ラクルムの眼は鳥のゴーレムから少しも眼を離さなかった。

(……おかしい。魔追槍の直撃を受け、【風のくさび】を撃ち込まれたにもかかわらず、”なぜ、浮かんでいられるんだ?”)


『各員、推進杖を切り離せ! 今のうちに魔力補給を! 気を抜くな!』

『は~~い!』


 飛行杖から切り離された総数七十四の推進杖は一端降下した後、あらかじめ付与してあった【帰巣】の術によって杖の先をヤゴの街へと向けると、ゆっくりと飛んでいった。

「お疲れ様~」

「気をつけてね~」

 風の魔術師達は伝書鳩のように帰って行く推進杖にねぎらいの言葉を掛ける。


 その後、おのおのが魔力ポーションを口に含みながら、飛行杖の魔力を補給する為、【魔力付与】の術を掛ける。


”ドン! ドカン! ドドン! ドン!”

 鳥のゴーレムの表面からひっきりなしに小さい爆発がわき起こる。

”ドドッカカカーーンン!”

 辺りに破片をまき散らしながら大爆発する鳥のゴーレム。


『やったぁ~!』

 歓喜の声を上げる風の部隊。

 しかしその煙が晴れると……。

 一回りせた鳥のゴーレムが、翼を広げながら空中に仁王立ちしていた。


「なんだと!? そうか! さっきまでの爆発はよろいの爆発かぁ!」

 ラクルムの叫びと同時に、風の部隊からも悲鳴と動揺が揺れ動く。

「うっそぉ~!」

「アイツ、鳥のくせに鎧を着込んでいたんだ!」

「あ~どおりで動きがのろいと思ってたんだ~」

「「「そういうことは早く言え!」」」


「ふはっはっは! 太古の技術もたまには役に立ちますね! 陶器の中に炸裂玉を入れたまま超圧縮してできた板で鎧を作って、それを体中に貼り付けておけば、魔追槍や【風のくさび】を喰らっても、鎧の爆発で衝撃がある程度中和されるとはね。太古の言葉でなんと言いましたかね……《ちょべりぐ》? 《エラ》? だったかな?」


 そしてイタチは唇をつり上げ怪しい笑みを浮かべる。

「お返しと行っては何ですが、少しは痛い目にあってもらいましょう……かぁ!」

”ギシャァ~~~!”

 鳥のゴーレムはその口から奇声を吐き出すと、

”ボン!””ボボン!””ホンボン!””ボボボン!”

と、体中から炸裂弾を発射した!


『総員! 散開!』


 鳥のゴーレムから射出された炸裂弾はお尻から勢いよく煙を吹き出し、風の団一人一人に向かっていく。


『いやあぁぁ~~!』

 蜘蛛の子を散らすように逃げ回る風の部隊達。

「ええっ! あとを付いてくるよ!」

「いやぁ~こないでぇ~!」


『落ち着け! これは魔力に反応して追尾する《魔追弾》だ! 魔追槍ほど正確ではない! 振り切るか、飛行杖の魔力を切れ!』

「そ、そんなこといったってぇ~!」

『追尾されてないヤツは魔追弾を撃墜しろ!』

 一時的に飛行杖の魔力を切り、ゆっくり降下しながら空域を離脱する者。

 他の者に魔追弾を撃破してもらう者。


「へっへっ! どうしたどうしたぁ! ちゃんとついてこいよ!」

 中にはこの、《ビアンカ》のように、いくつかの魔追弾を引き寄せ、琵琶の海に向かって降下していく強者もいた。


 ビアンカは魔追弾を引きつけながら一直線に琵琶の海へ墜落すると思われたが

「そおりゃあぁぁぁぁ!」

 ビアンカは杖の先端を持ち上げながら、風の鎧の前、胸部分を閉じ、背中部分を広げ、さらに二つのあぶみを思いっきり足で踏み込む。

 鐙を踏み込むことによって、飛行杖の推進口が上を向き、太古の技術で《べくたあのずる》以上のUターン飛行を可能にした。


 いきなり目の前から目標が消えた魔追弾は、そのままの勢いで琵琶の海へと飲み込まれ、光の点滅の後、いくつもの水柱を噴き上げた。


「へっへっ! どんなもんだい! おっと、仲間を助けないとな」

 噴き上がる水柱を尻目に、ビアンカは最大推進で、鳥のゴーレムのいる空域へと戻っていった。

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