とりもち、シテマス

 ラクルムを先頭に四人が一小隊、その小隊が三つ集まり中隊となり、さらに中隊が三つ集まり、大隊を形成する。

 その後方から救護小隊二隊が追いつき、ラクルムを先頭に空中で渡り鳥のようにくさび形の編隊を形作る。

 これは少しでも風の抵抗を押さえ、魔力を節約する為である。

 ラクルム以下、風の大隊と救護小隊二隊あわせた総数、45人!

 編隊を組み終わった風の部隊は一路、飛来する鳥のゴーレムへ向かって空を駈ける。


隊長ラクルムより風の部隊へ! このまま直進すれば我らは《琵琶びわの海》上空で鳥のゴーレムと遭遇するだろう。総員! 今一度飛行杖や魔追槍の確認を!』

 ラクルムからの【囁き】に風の部隊から言葉が漏れる。


「え~琵琶の海!? 帰りの魔力大丈夫かな~」

「逆にさ、地上を気にせずドンパチできるからいいじゃん!」

「あ~ん。顔に怪我でもしたら、パーティーに出られないよ~」

「安心して! あんたの分まであたしが楽しんであげるからさ」


 戦闘の前に、風の部隊の間で繰り広げられるわずかなたわむれ。

 それをラクルムは特にとがめもせず黙って聞いていた。

 ラクルムの中にあるのは、いかに彼女たちを生きて帰すこと……。

 いみなを持つ者の戯れ事に、死をあがなってまでまでつきあう必要はないのである。

 

「風の部隊の速さから推測するに、鉢合わせするのは琵琶の海辺りでしょうか? さすがに帝都上空だと“糞王子ギルツ”や”糞魔女ミカガ”が出張でばってきて瞬殺されてしまいますからね。もっと早くに北へ迂回しようとしたんですが……まぁいいでしょう。”同じ鳥同士!“お手並み拝見といたしますかね……」


 前が見えないゴーグルをかぶったイタチは、手や足、そして体を気持ち悪くくねらせながら独り言を呟く。

「この太古の装置、《罰当ばぁちあたりぃ》はなかなか便利ですね。このゴーグルが鳥のゴーレムの眼に直結していて、首を動かすと景色も移動して、手足や体を動かすと、それに合わせてゴーレムの羽や足も動きますから……」


 そしてイタチは一人、咆吼を上げる。

「さぁ、いってみましょうかぁ!」

 ……しかし、そんなイタチの掛け声も、魔物達はどこ吹く風で全く相手にしていなかった。

 

隊長ラクルムより風の部隊へ! そろそろ琵琶の海だ。各員、《風のほろ》展開! 《対竜編隊》へ移行!』

 ラクルムの命令を合図に、風の魔術師を包み込んでいるマントが膨らみ、首から下、体の前と後ろにカブトムシの外殻の羽のような鎧が展開され、風の部隊が二つに分かれる。

 

 ――対竜編隊とはワイバーンやドラゴンを迎撃する時の編隊である。

 救護隊を除いた風の部隊を二つに分け、親玉であるドラゴンやワイバーンに向けて魔追槍まついそうを発射する隊を第一部隊。

 第一部隊を直奄ちょくえんする為、第一部隊を取り囲み他の飛行魔物を迎撃するのが第二部隊と呼ばれる――。


『総員! 【デラ遠目】詠唱! 鳥のゴーレムを確認せよ!』

 風の部隊のあちこちから声が漏れる。

「いたぁ!」

「結構でっかくない?」

「ええ? どこどこ?」

 【遠目】を付与した隊員達の目に写るのは、足の裏から魔力の風を吹き出しながら羽ばたきもせず空を飛ぶ、巨大な鳥の置物、ゴーレムであった。

『確認次第攻撃に移る! 諸君の健闘を祈る!』

『『『『は~~~い!』』』』


「ふっふっふ! そろそろですね。……あれ? いない? ゴーレムの【遠目】は最大のはずですが……進路を間違えましたかね?」

 イタチが首を左右に振ると、鳥のゴーレムの首も左右に動き、それによってゴーグルに写る景色を見ながら風の部隊を探していた。

 しかし、辺りには雲しか浮かんでおらず、風の部隊が通った軌跡すらなかった。


 突然! イタチの胸やお腹、両腕が誰かにつつかれたようにくすぐったくなる。

「あひゃ! あひゃあひゃはっは! な、なんだぁこれはぁ!?」

 奇声を上げるイタチだったが、すぐさま地面に両膝をつく。

「確か《罰当たりぃ》は装着したモノと感覚を共有するとか……ということはゴーレムに何かが取り付いた。胸、お腹、腕に……」

 腰を少し曲げ、両腕を翼のように羽ばたかせていると、何かに気がついたイタチは大声で叫ぶ!

「下かぁ!」 


『各員! 飛行杖、推進杖! 最大噴出!』

 ゴーレムの真下の雲が蒼く輝き、爆発するように破裂した瞬間! 勢いよく飛び出す風の部隊!

 ラクルムを先頭に、救援隊を除く第一部隊、それを取り囲む第二部隊が、三つの杖の推進口から蒼い軌跡を下痢便のように吐き出し、さながら三十七本の矢のように鳥のゴーレムへ向けて勢いよく空を貫く!


「あぁ~ん! お尻がつぶれちゃう!」

 頭を天空へと向けながら勢いよく飛んでいる為、風の部隊のお尻の肉は飛行杖に取り付けられた鞍によって押しつぶされていた。

「その分、胸に移動しないかな~!」

「どうせならお腹の肉も……」

「いやっだぁ~! 胸が垂れちゃうよ~!」

「「「嫌みかぁ! ゴルァ!」」」

 胸の大きい隊員の声に、そうではない隊員からの怒声が放たれた。


『第一部隊! 【風のとりもち】よぉ~い!』


 ――【風のとりもち】とは魔追槍の先端から放たれる蜘蛛の糸のような蒼い”とりもち”である。

 これをドラゴンやワイバーンの体にくっつけてから魔追槍を発射すると、魔追槍はとりもちをたどっていきながら敵に向かって飛んでいき、その体を貫くのである――。


 鳥のゴーレムの腹部めがけて、空を突き抜けるように飛ぶ風の部隊!

「隊長ぅ~! もう魔追槍の射程内ですぅ! 御命令を~!」

『まだだ! まだ敵は気がついていない! もっと近づけ~!』

 そして鳥のゴーレムの首が動き始めると

『気がついたか! 第一部隊! 【風のとりもち】、発射!』

 第一部隊の魔追槍、十八本の先端から蒼いとりもちが発射され、それぞれが鳥のゴーレムの胸、腹、そして羽へとくっついた。


『魔追槍、ぇーーー!』

「いきま~すぅ~!」

「いっちゃえぇ~!」

「いっちゃうぅ~!」

 第一部隊の掛け声と共に、十八本の魔追槍が鳥のゴーレムへ向けて射出される! 

 後ろから蒼い軌跡を吹き出しながら、魔追槍はとりもちをたどって鳥のゴーレムへと近づいていく。

「そうか! これは【風のとりもち】がくっついた感触! 魔追槍かぁ!」

 イタチの叫びと同時に、魔追槍が鳥のゴーレムの体に突き刺さると


”ドドォーン!””ドガーン!””ズドーン!”


と、爆音と爆炎をあたりに轟かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る