第二章 風の部隊、シテマス
出撃、シテマス
『緊急事態! ヤゴの街へ巨大な鳥のゴーレムが接近している! 風の部隊、出撃準備!』
ウェントは【拡声】の術で義勇隊の皆へ非常事態宣言を叫ぶ。
飛行杖の準備をする風の魔術師に向かってカラカラが声をかける。
「この戦が終わったらさ、戦勝パーティーするからさ。遅刻するんじゃないぜ!」
イタチの声色をまねて話すカラカラに風の部隊からは
「きゃぁ~~!」
と、黄色い声がわき起こった。
しかし幾人かの風の魔術師はサティに近づき声をかける。
「じゃあサティ、ちょっと行ってくるね」
「無理しないでね《カタリーナ》。フラン様がおっしゃっていたように引き時は引くのよ」
「わかってるって……あっ……」
風の魔術師達の会話が途切れ、その目はシナンを見つめる。
それに気づいたサティは”コツン!”とシナンに肘鉄砲を食らわせると、背中を見せ数歩シナンから遠ざかった。
戸惑いながらもシナンは口を開く。
「あっ……あの~頑張ってとは言えないけど、無事に帰ってきてね。……そうだ! 隼の団さんほどじゃないけど、戦が終わったらみんなでご飯を食べようよ!」
「はいっ!」
「いやったぁ~!」
風の魔術師だけでなく、シナン親衛隊や金魚を愛でる団達も歓声を上げる。
そんなシナンの提案を聞いたカラカラが顔を向けた。
「なんや~シナン君、別々でやらんと、どうせなら一緒にパーティーやろまい!」
”きゃ~~!”と風の魔術師達の黄色い声がより沸騰する。
「え!? よろしいんですか?」
「え~よ。風の部隊さんを慰労する会や。シナン君もホストになってもてなさないかんで」
沸き上がる風の部隊と女性冒険者達。
その歓声を、サティは黙って背中で聞いていた。
死地に赴く男が、再び生きて帰る最大の理由は女である。
妻や恋人のみならず、想いを伝えられない酒場の看板娘から歓楽街のお姉ちゃんまで……。
そして女も同様、再び男に会う為に死地へと赴くのである。
サティは空で戦う風の部隊にほんのわずかでもいい、生きて帰る理由をシナンの口から与えていた。
そんなサティの背中を見つめる親衛隊のヘニルと
互いが互いを正式名称で呼び合う。
「……親衛隊、わかっているよな?」
「……ああ、金魚を愛でる団。一時休戦だ」
そして二人は声をそろえて、魔物の部隊めがけて咆吼を放つ。
『『|おめぇらをぶっつぶして! ドンチャン騒ぎをするぞぉ!』』
『風を読み! 風に乗り! 風と舞え! 風の部隊、出撃!』
ラクルムの詠唱を合図に、
――救護隊とは大量のポーションを持ち、
戦ってる風の部隊に生命や魔力ポーションを渡したり、直撃を喰らい墜落する隊員を【風の網】で受け止め治療したり、破損した飛行杖を交換する役目を担っているのである。
だからといって戦闘に参加しないと言うわけではなく、負傷した隊員と交代して自身も戦闘に参加するのである――。
空に消えてゆく風の部隊に向かって手を振り、歓声を上げながら見送る義勇隊の冒険者達。
木の上で高みの見物を決め込んでいるナインの眼にもそれは写っていた。
「風の部隊があんなにも出撃!? ドラゴンでもやってくるのか? こりゃ早々とトンズラした方が良さそうだな」
ナインは木から下りようと腰を上げるが
「……ん? よく考えたら攻撃してくるのはおそらくヤゴの街か義勇隊の陣だよな。……ってことはここが一番安全かもしれねぇな」
そう判断したナインは再び木の上で横になった。
『《貧乏くじ》聞こえますか?』
風の部隊を見送ったウェントの耳元に火の精の長、《イクニ》の声が届けられる。
それは火の精の長にふさわしくない、冷たく淡々とした声だった。
「聞こえるわ。《冷血女》」
ウェントの返事には、若干毒を含んでいた。
『こちらの《
”クソ野郎!”
の鳥のゴーレムとかち合うでしょう。なお、これより鳥のゴーレムを《八十六番》と命名するわ。以上です。健闘を祈ります』
イクニは”クソ野郎!”の部分だけ
「了解です! ありがとう。……ウェントよりラクルムへ!」
――《世界珠》とは”この世”すべてが見渡せる巨大な
また、《腐れ女》とよばれる
風の長であるウェントには《貧乏くじ》。
これは、風が吹くことは運が向いてくる前兆だが、なぜか尻ぬぐい、損な役目ばかり押しつけられるのに由来する。
火の長であるイクニには《冷血女》。
熱く燃えさかる炎とは対照的な淡々とした話し方。
そして対天遣戦においては羽一枚残さず燃やさないと気が済まない性格に由来する。
水の長であるアークは《乾燥肌》。
ウェントとは対照的にサバサバとしたドライな性格だが、見ようによっては何も考えていないヤツだと、他の長から思われている。
土の長テッラは《尻軽》
土の長であるから
なお余談であるが、尻軽と呼ばれているテッラ、そしてアルドナを始め他の長の身の上には、残念な二つ名からもわかるように男の微粒子すら存在しない……。
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