爆撃、シテマス

 しかしオジロは、その顔に妖しい微笑みを浮かべた。

「せっかく皆が送り出してくれたのに、ただやられっぱなしってのも……総員! 奴らに”糞”をばらまいてやれ!」

「いやっほぅ~!」

「そうこなくっちゃ!」


 オジロ達三人は魔物の陣の上空を横切りながら、梟の団からもらった煙幕玉を、空の大砲や魔物の群れめがけて放り投げる。

”ド~ン!”

”ド~ン!”

”ド~ン!”

 魔物の陣一面に薄茶色の煙幕が、まるで地面に肥えをぶちまけたように広がっていく。


 砲撃が止んだとみたオジロ達三人は旋回後、一気に急降下する。

「これで……とどめだ!」

 地面すれすれまで降下した三人は、空の大砲や魔物の群れがいる場所へ炸裂玉を投げつけながら、今度は急上昇すする。

”ズドォ~ン!”

”ズドォ~ン!”

”ドォッバアァ~~~ン!!”

 オジロが最後に投げた炸裂玉が空の大砲に直撃し、大爆発を起こす。


 その大きな噴煙は義勇隊からも確認でき、大きな歓声が沸き上がる。

「いやったぁ~!」

「ざまぁみやがれ~! 糞ったれども!」

 ススを体に帯びながら帰投するオジロ達。

 それをイヌワシをはじめ冒険者達が歓声を上げながら出迎える。

「祝いはあとです。イヌワシ殿、すぐ団長の皆を集めて下さい。敵の布陣がわかりました」


 テントの中ではオジロ達が記憶をたどり、上空から見た魔物の布陣を紙に描いていた。

「ほぇ~。あのドンパチの最中にここまで書けるなんてな~」

 ハイイログマが感心しながらオジロの図を眺めていた。

「だいたいは梟の団さんが斥候なさったとおりですが、問題は、この本陣と言うべき巨大な結界……」

 オジロが指し示した図は、巨大な円形状の結界を中心に、その周りに小さい結界が隙間なく敷き詰められているところだった。

「なんか……赤玉キノコの群生地みたいだな。中心が親で、その周りに胞子が落ちて子供が生えてきたみたいな……」

 ブンブクが的確な表現をするも、結界の解明には至らなかった。


「ウェント様。二体のゴーレムがこの中心に隠されているという可能性は?」

「大きさ的にむしろここがそうだと思います。あとフラン様から『盗まれた発掘品の内、黒い猫の置物は確保した』と、連絡がありました」

”ふぅ~!”と安堵の息を漏らす冒険者達。


「……なんですって!」


 しかし、ウェントの突然の叫び声によって、本陣の中は霜が降りたように冷たくなる。。

「ウェント様、いかがなされましたか?」

 イヌワシの問いにウェントの顔がこれまでにない緊張の色を帯びる。


「魔導研究所からです。ヤゴの街に向かって巨大な飛行物体が近づいています」

「……まさか、ドラゴンかや?」

 アルゲウス自身もまた、緊張という冷たさと戦闘への高揚を漂わせる。


「いえ、生命力、精霊力、聖力せいりょくは感じられず、ただ魔力のみで飛んでいるようです。おそらく逆さ傘より盗まれた鳥の置物が、実は空を飛ぶ鳥形のゴーレムだった可能性があります」

「やれやれ、上と下からゴーレムの板挟みか。ドラゴンよりかなりましだが、鳥のゴーレムと言うより、ワイバーンゴーレムといった方がいいかもな」

 アルゲウスのやや抜けた声は、本陣の緊張をわずかに柔らかくした。


「ラクルム! すぐさま風の部隊で迎撃を! ですが相手はゴーレム故、飛べなくすればいいのです。無理に撃沈しようと深追いはしないように」

「了解しましたウェント様! 風の部隊! 出撃します!」


 オジロ達が放った炸裂玉によって、数十体の下級、中級魔物が傷つき、何体かは屍と化していた。

 すぐさま別の魔物が薬品や薬草、微弱な【治癒】によって傷ついた仲間を治療する。

「さすが”手慣れて”いらっしゃいますね。太古に学んだことを、悠久の時を超えた今になって役立たせるとは、その当時は夢や妄想でも思っていなかったことでしょう」


 所々、たき火のような火と煙を吹き出している八八式野戦高射砲はもはや鉄くずと化し、その周辺では炸裂玉の直撃による大爆発で、砲手をはじめ周辺にいた魔物はもはや肉の塊と化していた。


「……やれやれ、せっかく発掘したのにもったいないことを。まさか白燕の団が梟の団の煙幕玉や炸裂玉をもっているとは予想外でした。我らをただ追い払ったり、帝都からの応援がくるまでの時間稼ぎと思っていましたが、義勇隊もかなりの本気度ですね」

 イタチが軽く手を振ると、鉄くずとなった八八式野戦高射砲ごと、魔物の肉塊はゆっくりと地面の中へと沈んでいった。


 そして再び遠目の眼鏡を覗いて、義勇隊の陣を確認する。

「ん? 風の部隊に動きが? まだ鳥のゴーレムが見つかる距離ではないはずだが……。どうやら魔導研究所も加担しているみたいですね。ウェントが出てくるということは、他の四精の長も協力しているとみるべきでしょう……」


 イタチはにやけながら遠目の眼鏡をしまうと、今度は前の見えないゴーグルを頭に被せた。

「ならば、こちらも本気でかせてもらいましょう!」

 口元を緩めながら片膝をつくと、イタチは両腕を鳥のように斜め後ろへと伸ばした。

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