偵察、シテマス
義勇隊が広場で壮行会をしていた頃、
「お? イタチ君。集会はいいのかい?」
「どうせ俺っちはさ、一人モンだからさ、ここにいるわさ」
と、年配の門番に話すと北門外にロッキングチェアと、自分の姿に【姿変化】させた黒い招き猫を置き、こっそりとその場を放れるイタチ。
すぐさま”けったますぃ~ん”を全力でこぎ、東の園に展開した魔物の陣へとひた走るが……
「ハァ……ハァ……うっ! うぼげぼあぁ~!」
途中、地面に四つん這いになり、荒い息と共に汚いゲ○をまき散らした。
「ハァ……ハァ……。今度は……”歯車”が壊れうぅ! ……一番軽い歯車で固定されてしまうとは。うっ! おかげで脚を超高速で回転させないと前に進めなくなってしまいましたうぅっ!……」
それでも何とか陣にたどり着くと、”すまほう”をいじっているマ物達や、あたりに張り巡らした結界を確認する。
「とくに異常はないですね。すぐさま突撃されぬよう、ヤゴの街の中堅冒険者の倍以上のマ物をかき集めましたから。しかし、《
歯ぎしりするイタチだったが、すぐに気を取り直すと、その唇に悪魔の笑みを浮かべる。
「太古の活動木偶絵巻もたまには役に立つのですね。まさか《
イタチの眼は、一番大きい結界のさらに奥をのぞき込む。
そこは巨大な二体のゴーレムと一本の杖が隠してある結界。
結界の中では一体のゴーレムが寝そべりながら杖の先をヤゴの街へ向けており、もう一体はその横に片膝をたてて座っていた。
そしてイタチは陣の後ろにある池をのぞき込む。
「黒い猫は北門へ、太古の神の像はこの池の中、そして鳥の置物は……そろそろソアの山の火口からこっちへ向かってくる頃ですね。さぁて、義勇隊、そしてウェントをはじめ風の魔術師達がどう慌てふためくのか楽しみです……フフフ……ア~ハッハッハ!……うぅ! うぼげぼぁあ~!」
再び地面にゲロをまき散らすイタチであった。
幾分吐き気を催すも、イタチは太古の《携帯用遠目の眼鏡》をのぞき込んで義勇隊の陣を観察する。
「フフ……さすがイヌワシさん……うっ!……ですね。陣の展開が速いです……うぅっ!……ん? あれは?」
義勇隊の陣では白燕の団が魔物の陣へ斥候する為の準備をしていた。
「【デラ粘り風】!」
ウェントの詠唱によって、白燕の団の団長オジロと随員の幹部二人の体に【粘り風】が付与される。
「ウェント様、ありがとうございます」
礼を言うオジロにイヌワシが声をかける。
「オジロ殿。フラン様もおっしゃってました。引く時は引けと」
「ご安心をイヌワシ殿。燕は一カ所に留まるのがキライなのですよ」
準備ができたオジロは幹部二人に声をかける。
「いいか! 先陣は武人の誇り! しかし我らの役を見失うんじゃないぞ!」
「「おう!」」
「いくぞ! 【ドエリャア飛翔】!」
三人の体が風に包まれると、まるで空へ吸い込まれるように一気に駆け上がった。
「は、はえぇ~!」
「速い! ハヤブサ様に勝るとも劣らぬ【飛翔】!」
隼の団の幹部、カラカラやゲンボウでさえも、オジロや幹部の【飛翔】の速さに
三人は義勇隊の後方へ宙返りをすると、落下速度も加えて一気に魔物の陣の上空へと突き進んだ。
「ん? こっちへやって来る? ……あれは白燕のオジロですか? そういえばこの時期はいつもヤゴの街に来ていましたね。やれやれ……部外者の方に剣を向けるのはいささか気が引けますが……」
そう言いながらも、イタチの顔は妖しく
「せっかく《笠の遺跡》で見つかった太古の発掘品です。隼の団用に使おうと思っていましたが、ここで”試し撃ち”といたしましょうか……おっと、私の姿も変えなくては」
イタチは服だけでもと、マイトレーヤの姿へといそいそと着替え始めた。
魔物の陣の上空で旋回するオジロ達。
「魔術や飛行魔物で迎撃すると思っていたが、拍子抜けだな。あの変テコなローブやマントを羽織っているのが、アルゲウス様がおっしゃっていた闇の魔術師か?」
「オジロ団長! あそこを!」
幹部が指し示した場所の結界が解除され、現れたのは……八八式野戦高射砲であった!
「あれは! 大砲!」
”ドン! ドン! ドン! ドン!”
オジロ達へ放たれる太古の砲弾。
「総員! 散開!」
”バーン!””バーン!””バーン!””バーン!”
魔物の陣上空の空域が爆発し、飛散した鉄の弾が三人を襲う。
しかし、【粘り風】によって三人に飛来した弾は体を覆う風に絡まれ、勢いが殺された弾は地上へと落下していった。
「あれは!?」
「おい! 爆発だぞ!」
「ありゃ魔術じゃねぇ! 太古の兵器か!」
イヌワシをはじめ、冒険者達がざわめき始める。
「そんな! ほかにも太古の発掘品を持っていたなんて!」
ウェントはすぐさま【ドエリャア囁き】を唱え、オジロ達に話しかける。
「オジロさん! すぐお戻り下さい! それは太古に造られた
「了解しました!」
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