すっぽん! &おまた、シテマス

 かたぱるとによって食料や水、予備の武器からテントまで詰め込んだ娑婆袋が義勇隊のいるエリアまで蹴飛ばされる。


『よぉ~し! ただちに設営にかかれ!』 


 イヌワシの号令によって各冒険者が作業に取りかかる。

 本陣を含む野営用のテントの設営。

 木を切り簡単な柵やバリケード、狙撃用のクロスボウの設置。  

 義勇隊の左右後方には落とし穴や塹壕ざんごうが土の魔術師の【穴ぼこ】の術によって地面に掘られ、所々に罠や鳴子なるこも作られた。


「へ~これが風の魔術師が使う、対飛行魔物用の杖っすか~」

 ぼさぼさの黒髪、シャツの上に革のベスト、革のズボンを纏ったはやぶさの団の幹部、カラカラが、風の魔術師達が組み立てている《風の飛行杖しゃとる》を見ながら呟く。


「カラカラ! ラクルム様の邪魔をするんじゃない!」

 ラクルムの飛行杖の前で腰を下ろすカラカラの後ろから、整えられた銀髪に白の礼服を着た、同じく隼の団の幹部、ゲンボウが怒鳴りつける。


「あ、隼の団の……カラカラさんとゲンボウさん……ですか? お噂は我が魔術師の間でよくうかがっております」

 風の魔法師ラクルムが、話しかけてきた冒険者の名前を思い出す。


「あ、ラクルム様こんちわ。カラカラですぅ」

 ざっくばらんな挨拶をするカラカラを詫びるように、ゲンポウもラクルムへ挨拶をする。

「これは失礼しました。ゲンボウと申します。申し訳ありませんラクルム様、すぐこいつカラカラを回収しますので」

 首根っこをつかむゲンポウにかまわず、カラカラはなおもラクルムに話しかける。


「ラクルム様、何か手伝いましょうか?」

「おい! カラカラ!」

「ありがとうございます。私はかまいませんので、他の魔術師達をお願いします」

 ラクルムの笑顔に、カラカラも笑顔で団員に向かって命令する。

「了解で~す! お~い隼の団の諸君は、魔術師さんの杖の組み立てを手伝いな~」

「きゃあぁぁぁ!」

 女性魔術師達の間から黄色い声援がわき起こる。

 団長のハヤブサや幹部のカラカラ、ゲンボウだけでなく、隼の団には”なぜか”イケメンが多いのが、ヤゴの街の冒険者の間に流れる七不思議の一つである。


 ちなみにカラカラの服装は紅鼬くれないいたちの団長、牛追い男かうぼうい姿のイタチ、ゲンポウの服装は監査官の犬、執事姿のイタチ姿を模したものである。

 その理由をカラカラは

「野性味あふれるイタチさんのあの格好! まさに俺にぴったりだぜ!」


 ゲンボウは

「団の幹部にもなれば只戦うだけでなく、礼節も重んじなければなりません。その上でイタチさんの身の振る舞いはとても参考になります」

 現にカラカラはハヤブサに替わって隊の指揮を、ゲンボウは役所や他の旅団への渉外しょうがいを担当することもある。


「ところで……これでどうやって空を飛ぶんすか?」

 女性魔術師と一緒に杖や部品を『由』の字型に組み立てるカラカラの疑問に、ラクルムが答える。

「まずはこの両側の推進杖ぶうすたによって一気に空へ駆け上がります。もっとも推進杖の魔力は有限ですので、魔力がなくなったら切り離します」

 ラクルムは両側の推進杖を指さしながら説明した。


「それからは真ん中の飛行杖しゃとるで空を飛びます。そして飛行魔物が現れたら、飛行杖の下に取り付けた《魔追槍まついそう》を発射したり、魔術杖からの攻撃魔法で攻撃するのです」

「なるほど~。ところで、切り離した推進杖はどうなるんですか?」


「杖に付与された【帰巣】によって、魔導研究所に向けてゆっくりと降下していきます。後ほど回収して魔力を補充して、再び推進杖として使用いたします」

「へぇ~。使い捨てじゃないんだな。俺ら冒険者の武器と一緒で大事にするんすね……ん? どうして推進杖のしっぽは円錐えんすい形なのに、飛行杖のしっぽは菱形? なんですか?」


「よくお気づきで、推進杖は多大な魔力を一気に吹き出して空へと飛ぶ為、このように下に行くほど口が大きくなっているのです。逆に飛行杖は速く飛ぶ為、勢いよく魔力を放出する為、口がすぼまっているのです」

「へぇ~よく考えてあるんですね~。口を少しだけ開けてフゥ~ってすると息が速く出るのと一緒ってことっすね」

「はい」


 ――文字にするとわかりにくいかもしれないが、要するに

 ・両脇の推進杖は和式トイレで使う”すっぽん”!

 ・飛行杖は洋式トイレ用の”すっぽん”!

を思い浮かべてもらえばいいだろう――。


 カラカラの質問はなおも続いた。

「そういえば……風の魔術師のマントって、なんで後ろだけでなく前にも羽織っているんですか? あれ? これって真ん中で裂けるようになってません?」

「そうです。飛行する時に前と後ろのマントが真ん中で分かれるのです。例えるならそうですね……カブトムシの外側の羽と思って頂けたら。これは鎧も兼ね備えているんです」

「あ~確かに、空の上じゃ四方八方から攻撃が来ますもんね」


「あと、上の羽を膨らませれば上昇、下の羽を膨らませば下降するようになってます」 

「へぇ~。ところで~ラクルム様。ちょっと聞いていいですが……?」

「はい、何でしょう?」

 珍しくカラカラが、ちょっと言いにくそうにラクルムに質問する。


「この飛行杖にまたがっている時って、おまたが痛くならないんですか?」


”きゃあ~!”

”いやぁ~ん”

と女性魔術師から、軽蔑ではなく羞恥の歓声が沸き起こる。

「おい! カラカラ! お前また失礼なことを!」

 ゲンボウがたしなめるが、ラクルムは笑顔でカラカラの疑問に答える。


「大丈夫です。馬に取り付ける小さいくらを飛行杖の上部に取り付けますし、飛行杖を操縦する時は、飛行杖のしっぽのあたりにある棒をあぶみに見立てて足を乗せるのです」

「そうっすか! なら大丈夫ですね!」

「それにこの鐙を動かすと、飛行杖の菱形上の口が動き、先ほどのマントの動きとあわせれば、急速に旋回や上昇下降ができるのですよ」

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