結託、シテマス

 ”けった”&”かたぱると”によって冒険者が次々と東の園に蹴飛ばされる。

 男性冒険者、そして女性冒険者の射出も終わり、女性魔術師の番となるが……。


「あら、あなた? 男性冒険者はとっくに飛んだはずなのに?」

 ウェイトは目の前のけったに乗る男性冒険者に向かって、怪訝けげんな声を送る。

 その相手は、女性冒険者や女性魔術師の間でハヤブサと人気を二分する、レベル八の男性冒険者、シナンであった。


 その隣にはシナンの幼なじみでレベル八の女性魔術師サティが。

 さらにその隣にはシナン親衛隊を自称する、サティの同僚の魔術師娘三人のうちの、茶色のローブを着た《ヘニル》と赤いローブを着た《イカリア》の二人がけったの上に乗っており、青いローブを着た《リグリア》はシナンの後ろに立っていた。


「あ……すいません。なぜかこっちに引っ張られまして」

 シナンが申し訳なさそうな顔をするも、横に立つサティが横から口を挟む。

「ウェント様、どうぞお気になさらずに。ささ、シナンに悪い虫がたからないうちに急いでお願いします!」


 ヘニルとイノはシナンの後ろに立つリグニアに向かって

「お気の毒にね~リグニアちゃん」

「”いんちゃん(じゃんけん)”に負けた自分を呪いなさ~い」

と口々にからかう。

 しかし、リグニアの顔はほっぺがふくれているも、心の中では妖しくにやけていた。


 そんな様子を見たウェントは

(あらあら、仲のいいことね~)

と清らかな想いを心の中で呟き、

『あ~っそ! どうせなら《煮る華にるう゛ぁな》まで蹴飛ばしてさしあげましょうかね~』

と、どす黒い瘴気しょうきを口からではなく体中から漂わせながら呟いていた。


「……おいウェント。嫉妬のせいで感情どころか意識が逆転しておるぞ」

 闇の魔導師に堕ちそうなウェントをフランはたしなめた。 


『”は~れむ”はとっとときなさ~い!』

 ウェントの掛け声で射出される四人。

 サティを始め魔術師娘は風の靴での飛行に慣れているが、初めて空を飛ばされるシナンの顔からは冷や汗が流れる。


「大丈夫よシナン。あたしに任せて!」

 サティがシナンの右手をつかむ。


 それを見たヘニルとイカリアの二人は”えっちらこっちら”と空を泳ぎ

「シナンくぅ~ん。あたしがエスコートしてあげるから~」

「あたしをクッション代わりにしてもいいのよ~」

と、ヘニルはシナンの左手を掴み、イカリアはシナンの体の下に潜り込み、首筋に手を回した。 


「ちょ! あんたたちぃ~! なにをやって……えっ!」

 サティの叫びと同時に【風の網】が見えてくる。

”びよよ~~ん!”と四人は【風の網】に捕まると、中でシェイクされた。


「あ、あん! シナンくぅ~ん! そ、そこはだめぇ~!」

「シナン君の……か、堅くてあ、熱い~!」

 ここぞとばかり、シナンに抱きついたり体をこすりつけるヘニルとイカリア。

「あんたら! さかっている暇があるならとっとと降りなさいってぇの! 次が飛んで来るわよ!」


 ヘニルとイカリアのもだえ声を消すかのようにサティが怒鳴り声を上げ、シナンから二人を引き離す。

 何とか【風の網】から降りた四人。

 役得とばかりにヘニルとイカリアの顔が上気する。


 そこへシナンに向かって女性の叫び声が届けられる。

「シ、シナンくぅ~ん! 助けてぇ~!」

 手足をばたばたさせながら飛んでくるリグニア。

 冒険者としての本能なのか、シナンが慌ててリグニアの体を抱きしめるように受け止めた。


「大丈夫? リグニアさん」

「うん……リグニアね。すっごい怖かったぁ。でもぉ、シナン君が受け止めてくれると信じてたからぁ大丈夫だよぉ。あ、シナン君こそぉ怪我しなかったぁ~?」

((そ、その手があったかあぁぁ!))

 先ほどのまで勝利の高揚から、一気に負け犬へと堕とされるヘニルとイカリア。


”おい! 《金魚のフンにまとまりつくウジ虫の団》”

 重装備を纏った女性戦士が、絶望の顔をしているヘニルとイカリアへ向かって、親衛隊の蔑称べっしょうをささやく。


 この女性こそ、時折イネスの店で会合を行う《金魚シナンでる団》の団長、《マージャ》であり、冒険者組合の鍛錬場で、シナンがアデル達ひよっこ冒険者を引き連れてオーガのゴーレムに挑む時、少女のような初々しさで挨拶をしたフリーの女性冒険者である。

 ちなみに団と名がついているが、冒険者学園の女性講師の間に存在する、《一匹雌狼めろうの団》と同様、あくまで冒険者庁非公認の旅団である。


”なによ、《据え膳喰わない女の恥の団》”

 ヘニルも蔑称で呼び合う中、マージャがある提案をする。

あいつリグニアいくさのどさくさに紛れて”消す!””

”了解!”

 まさしく町役場の会議室で町長が踏み込んだように、普段いがみ合う両者でも、共通の敵という危機の前では、互いに結託するものであった。


「あ、僕は大丈夫だよ。思ったより軽かったし……」

「いやだぁ~”軽い”とか”痩せてる”とか”妖精のようだ”なんてぇ~。あ。でもぉ、ちゃんと出ているところは出ているのよぉ~。胸とかぁ~お尻とかはぁ~。あ、今は触っちゃぁだめだよ。あ・と・で・ね!」


 結界を張ったかのようにシナンとリグニアの三文芝居が続けられる。

 そして、この空気に最も我慢ができないのがサティであった。

「い~かげんにしなさい! なにが妖精よ! そもそもあんたリグニア! 【風の靴】の効果で体が軽くなっているのを知ってってほざいているでしょう!」


「あ、そういえばそうだね。前にサティを”だっこ”した時よりあきらかに軽かったから、ちょっとおかしいと思っていたんだ」

 いきなりのシナンの天然な援護発言に

”ビシッ!”

っと、この世が裂ける音を体全体で感じたシナンのファン達。


「え? い、いやだぁ~シナンたらぁ~。”あの時”のことは”二人だけの秘密”ってあれほど~」

 今度はサティ自身が思わせぶりな言葉をつぼみのような唇から次から次へとつむぎ出しながら、染めた頬を両手で隠し、体をクネクネさせる。


「え? 魔導研究所の階段でころ……」

「それ以上言っては、だ・め・よ!」

 シナンの唇を人差し指でふたをするサティ。


”おい! 《金魚のフンを愛でる団》”

”なんだ? 《自称親衛隊》”

 互いに(一応)正式な団名で呼び合う両者。

 今度はヘニルがマージャへ向けて提案する。


”この戦の”ついで”に番犬サティを消す!”

”了解!”

 共通の敵を前にしては……以下略、であった。

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