出兵、シテマス
出兵当日。
ヤゴの街の中心、街の噴水広場に集う冒険者達。
街の人間も遠巻きに見守り、そして見送ろうと集まってきた。
「おいアデル! 急げよ!」
「ちょっと待ってよ。靴が……」
同級生にせかされ、アデルが広場へと走る。
これも見聞だからと冒険者学園は一時休校し、生徒達はあこがれの冒険者を一目見ようと喜び勇んで広場へと集まってきた。
「おお、あれがイヌワシさんかな?」
「やっぱハイイログマさんはでけ~よな!」
「きゃ! オトメ様だぁ!」
「ああ、イザヨイ様。
冒険者としてひよこ以下の生徒達はあこがれの冒険者を一目見るや、その小さいくちばしからさえずりと感嘆の息を漏らす。
「よくみえないや。それに誰が誰だかわからないな。でもすごい武器と鎧だなぁ。僕もいつかはあんな風に……」
ひしめき合う同級生の隙間から、アデルは何とかあこがれの冒険者を眺める。
しかし、ラハ村出身でお使いやヤゴの市ぐらいしか街に赴かなかったアデルにとって、その目は顔と名前が一致しない冒険者よりむしろ、光り輝く武器や鎧の方へと移っていた。
町長の簡単な激励のあと、義勇隊隊長となったイヌワシが壇上に上がる。
なお副隊長としてハイイログマが、軍師としてアルゲウスが、ヤゴの街の防衛長としてフランが横に控えていた。
『まず最初に、義勇隊に参加してくれた諸君らの勇気と誇りに最大の謝辞を贈ります。同じ冒険者として手柄が欲しい諸君らの気持ちもわかるが、此度の出兵はあくまで魔物の軍勢の調査、及び帝都からの援軍が来るまでの時間稼ぎである。旅団は違えどヤゴの街を
イヌワシの演説が一区切りつくと、ハイイログマの咆吼が広場に轟く。
『まぁなんだ! 肥だめのようなおつむのお前らにわかりやすく言うとだな、もう一度ヤゴの街のうまい飯を食いたかったら、深追いせず生きて帰れってことだ。ぐわっはっはっは!』
「おぉ! さすが我らが団長! 今日も冴えてるぅ!」
「俺ら糞馬鹿にもよくわかる説明、ありがとでヤス!」
灰色熊の団のヒグマやアナグマからヤジが飛び、義勇隊の間に笑いの空気が沸き起こる。
笑いが収まると、イヌワシはかしこまった様子で、義勇団の脇にいる魔導研究所から集まった者達へ目と体を向ける。
『そして、絶対中立にもかかわらず、義勇隊に参加してくれた魔導研究所の《
――魔導研究所の組織図はおおざっぱに記すと
所長:
四精の長で魔導師である風のウェント。火のイクニ。水のアーク。土のテッラ
その下に三十三人の魔導師。
以下、魔法師と呼ばれる講師と生徒である魔術師が在籍している
なお、今回の魔導研究所からの義勇団への参加はウェント以下すべて女性であり、その目的はウェントとラクルムや一部を除いて、ある特定の男性冒険者とのお近づきが目的であった――。
イヌワシの紹介にウェント以下ラクルム、魔術師達五十名近くは皆に軽く会釈をする。
『ウェントと申します。我が魔導研究所は絶対中立といえどもヤゴの街にあります故、街の皆様には日々大変お世話になっております。所長のアルドナより精一杯の助力をと仰せつかっております。此度の事態には微力ながらお手伝いさせていただきます』
白い魔導帽子に白の魔導ローブに包まれても浮き彫りにされる女性の体。
そして風のように耳を心地よくなで回すウェントの妖艶な挨拶に、多くの男性冒険者が己の頬を朱に染めていた。
『では諸君らの武運を祈る! しゅっぱぁつ!』
『うおぉぉぉぉ!』
イヌワシの号令と共に冒険者達の雄叫びがわき起こると、レベル四以下の冒険者がそれぞれの部署へ向かい、出陣組がイヌワシらを先頭に魔導研究所へと行進する。
そして、彼らの背中に向かって街の者達が手を振り歓声を向ける。
(こちらはレベル五以上の冒険者が二百名あまり。片や魔物の軍勢は下級魔物を除いてもこちらの倍近い。未だ”本体”の戦力もわからぬまま、はたして……)
そんなイヌワシの心のつぶやきを聞いたかのように、フランが声を掛ける。
「イヌワシ殿、隊長ともあろう者があまり一人で気負いなさるな。風の魔導師ラクルムやひよっこ魔術師もおる。それに、引き時に引くのも指揮官の努めじゃぞ」
「ご安心をフラン様。例え我が身に変えましても、皆を再びヤゴの街へ帰しましょう」
(だから、それがいかんのじゃて。……でもまぁ、生まれてから”できそこない”と王族や貴族共に揶揄されては、意地を張るのも仕方ないか)
ナゴミ帝国第四王子、冒険者名イヌワシに向かって、フランは心の中で生暖かい目を向けた。
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