義勇隊、シテマス

 紅茶を飲み、場が落ち着いた空気の中で、フランの紫の唇が開く。


「ここは双方の意見を取り入れてみようかの。町長殿、警備隊は街の民の安全が第一、教団の神官殿や聖騎士殿も信者の安全が第一じゃ。ならば援軍が来るまでこのお二方には街の警備に従事してもらうのが得策じゃ」


 フランは再びカップに口をつけ、妖しく濡れた唇を開く。

「しかし、このまま座していては事態が進展せぬ。そこでじゃ、ヤゴの街は冒険者の街でもある。町長殿、いっそのこと冒険者や旅団の間で義勇兵をつのってみてはどうかな? むろん、先立つものも必要じゃが、儂からも墓地の管理費から多少融通し、後ほど帝都へ口添えしてもよいぞ」


「は、はい! 前金としてなら街の予備費からすぐにでも用意することができます」

 町長が汗を拭きながらフランの問いに答えたあと、冒険者組合の主人が後に続いた。

「フランさん、我が冒険者組合も多少なら備蓄分の保存食やポーションの融通が利きますよ」

「うむ、ありがたい」


 しかし、冷静さを取り戻したイヌワシがフランに進言する。

「フラン様、お言葉ですが冒険者からの義勇兵のみではいささか戦力不足と思われますが……」


「安心せい! 魔導研究所の”ひよっこ”共にも儂から声を掛けてやる」

 あくまで魔導師であるフランから見たらひよっこであって、フランが言っているのは中堅冒険者すら凌駕する力を持った魔術師を指していた。


 そんなフランの答えに町長が再び狼狽する。

「よ、よろしいのですかフラン様。魔導研究所は”絶対中立”故、帝国からの要請にもなかなか腰を上げぬと聞いておりますが……」


「だからあくまで義勇兵として募るのじゃ。……もっともこれは、イヌワシ殿の団が参加するかどうかにかかっておるのじゃがな?」

 フランから届けられた妖しい目線にイヌワシは即答する。

「ご安心を。我が金色犬鷲の団は、要請とあらばすぐさま義勇兵として参加いたします」


「ぐわっはっはっは! ハヤブサやカラカラ、ゲンボウを”エサ”に”ひよっこ”魔術師を誘いますかぁ! フラン様もなかなかの策士ですなぁ~。いっそのこと”金魚のフン”も誘ってみてはいかがですかな~。おっと、もちろんワシの灰色熊の団も”特攻隊”をともなって参加しますぜ!」

 ハイイログマの冗談が混じった咆吼が会議室を満たす。


「せっかくのフラン様からのご提案。この白百合の団も義勇兵として参加いたします」

 白百合の団の女性団長、オトメが白いドレスを咲かせながら立ち上がり、唄を奏でるように申し出ると


「義の為に戦うは武人の誇り! 我ら黒薔薇の団も参加を表明いたします!」

 黒薔薇の団の女性団長、イザヨイも漆黒の礼服を燃え上がれながら立ち上がり、拳を胸に当て力強く言葉を放った。


「仕方ねぇな。あたいたち三毛猫みけねこの団も参加してやるぜ」

「我ら栄光ある青狸あおだぬきの団もちろん参加いたします!」

「おっと! 緑鼠みどりねずみの団を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 次々と名乗りを上げる各旅団の団長たち。


 もっとも、名乗りを上げた旅団の中には台所事情が苦しいゆえ前金目当てと、名前を売って街や教団、そしてフランを始めとした帝国高級役人からの仕事欲しさが透けて見えていた。


 そんな各旅団からの雄叫びで会議室が満たされる中、イタチも手を上げる。

 けったますぃ~んを娑婆袋にしまい、ヤゴの街まで走ってきた荒い息を精一杯押し殺しながら……。

「あ~、俺っちの紅鼬くれないいたちの団もさ、一人しかいないけどさ、参加をさ、するけどさ……誰も聞いてないさね」


「で、では警備隊は引き続き街の警護を厳重に。各教団の皆様方も街の安全に留意していただきたい。そして義勇兵についての募集は冒険者組合の方で、魔導研究所への口添えはフラン様の方でお願いいたします」


「わかりました町長様」

「うむ! 心得た!」

 こうして組合の主人、そしてフランからの返事で会議は閉会した。

 そんな中、テンガロンハットで顔を隠しながら、いち早く会議室から退出するイタチの背中を、フランは鋭い視線で貫いていた。


 すぐさま町長より民へ布告が発布され、同時に義勇兵の募集も行われた。

 もっとも、前線への参加資格はレベル五以上とされ、それ以下のレベル四、三の者は街の義勇警備兵、新米のレベル二、一の冒険者は雑用員として警備隊の賄いや街のへいさくの補修やバリケードの設置、町民の避難誘導員としての役目が与えられた。


 たまたま仕事でヤゴの街を訪れた冒険者も参加し、その結果、ヤゴの街にいるほとんどの冒険者が参加表明をした。 


 ほとんど……そう、”ろくでなし”と呼ばれるただ一人の冒険者を除いては。

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