囃子(はやし)、シテマス
「あんたの上司はいいわよ! ”糞”しか見ていないんだから! あ~あ、あんたの上司を飲み込んだ男の子、あたしの上司も”飲み込んで”くれないかしらね~?」
「なにを世迷い言を! それこそ
今度は魔導杖を両手に持ち、布団の上からポカポカ叩くが
『無駄よ! 無駄よ! 無駄よ! 無駄よ! お布団ってのはね、太古の
「ふん! どうせ腹が減れば出てくるのじゃろ! 言っておくが儂の飯はやらぬぞ。欲しければ魔導研究所まで喰いに行け!」
そうフランは怒鳴りつけるが、布団の中から”ポリポリ”と音が聞こえる。
「この音? お主まさかそれは、昨日のポテトスライスか!」
『あったり~! あたしが何の準備もせず引きこもると思ってたぁ~? 飲み物だって準備してあるのよ。これで数年は
さらに嬉々とした声で、アルドナが布団の中から話す。
『あ、帝都に行ったらおもしろいかもね。帝都のはずれから彼を見張っている
「……お主、まさかその布団とやらの中で
『あんたと一緒にしないでよね。ちゃんと”
「……」
あきれてものも言えないフランの耳に、店のドアが叩かれる音が届く。
「客か……魔導研究所からのお迎えかもしれぬな。まったく、世話の焼けるヤツじゃ」
フランが部屋の中から結界を解除し、店のドアへと向かう。
ドアを開けると、そこに立っていたのは魔導研究所の食堂で
「ヤーマちゃん、やっとかめだなも!」
「やっとかめ! おみゃ~さんの所に、うちのインドラハちゃん、お邪魔しちょるがね?」
「《ナギ婆》《ナミ婆》か、お邪魔どころか今すぐにでも追い出したいところなんじゃが……」
互いに
二人を招き入れたフランは、アルドナが引きこもる部屋へと案内する。
「おい! お迎えじゃ! 入るぞ」
フランがドアノブをひねるが……
「んん!? おい! また結界を張ったのか!」
『ふふん! ちなみに隠し扉どころか部屋全体にね。それこそ、この部屋ごと切り取らなくちゃいけないわよ。宮仕えの貴女にそれができてぇ~?』
「いい加減にせい! ナギ婆とナミ婆が迎えに来たのじゃぞ! おとなしく出てこい!」
『ふ、ふん! そ、それがなによ! お布団の中にいる今のあたしは【ドエリャアドエリャア転移】ですら、抵抗する自信があるわ!』
申し訳ない顔をゴル婆、シル婆に向けるフラン。
「せっかく来てもらったはいいがこんな有様じゃ。もはや儂どころかお二人でもどうしようもないなこれは……」
しかしゴル婆とシル婆は、そのシワに包まれたにこやかな顔を崩さなかった。
「《しかたんにゃあ(仕方ないな)》。ほんに《おうちゃくい(なまけもの)》子だに~」
「ヤーマちゃん。ちょっと《あっちらへん(あっちの方)にいってちょ~よ」
フランはドアから少し離れると、ゴル婆は娑婆袋から二つの
『よぉ~お!』
♪~チャンチャカチャン(あ! そうれ!)チャンチャカチャン~♪
シル婆の掛け声で三味線が弾かれると
『♪~ナ~ゴミ
ゴル婆が二つの扇子を開き唄を奏ながら華麗に舞う。
釣られてフランも手を上げ体を回転させ、ゴル婆と一緒に舞い始めた。
やがて、部屋の中にある敷き布団がまるでドアに引き寄せられるように
”ズリ!”、”ズリ!”
と動き出す。
『え? なにこれ? 何でお布団ちゃん、勝手に動いているの?』
驚くアルドナにかまわず、敷き布団はドアの前にたどり着くとそのままよじ登り、張りつくように垂直に立ち上がると、ゴル婆の唄とシル婆の三味線をもっと聞きたいかのごとくドアを”ぎゅ~!”、”ぎゅ~!”と押し始めた。
『ちょ! ちょっと待って! お布団ちゃん! いやだぁ~! 外に出たくな~い!』
”バァ~~ン!”
ドアがはじき飛ばされる音と同時に、アルドナが入った布団は”パタン”と廊下へと倒れる。
「おお! これが引き籠もりになった”娘”を
「さぁインドラハちゃん、サタァン君が
「ヤーマちゃん、《おおきに(ありがとう)》。じゃあ、《ご無礼(失礼)》しますぅ」
ゴル婆とシル婆は敷き布団の角をつまむと、”ずるずる”と引きずっていった
『い、いやぁ~! フラ〜ン! 助けて~!』
掛け布団の隙間からアルドナの手が伸びフランのローブをつまもうとするが
「ええい!
”ペシッ!”と音と共に、フランはその手を払いのけた。
「……おっと、こうしてはおれん! 儂も支度せねばな」
一張羅の魔導帽子と魔導ローブに身を包んだフラン。
墓地を抜け、北の街道に出ると、その顔と体をヤゴの街の北、本の山へと向ける。
(しっかし……”アレ”はなぜにああも丸々と肥えておるのじゃ?)
フランが気を向けた”モノ”。
本の山からそびえ立つ……というより包み込むかと思うぐらい、丸々とした”モノ”。
風の精霊がひとひら、その羽毛をなでるだけで
”ボヨヨヨ~ン!”
と風を震えさせる音を発するぐらい、丸々と太った”鳥”
例えるなら冬の最中、羽の間に風を取り込み、丸々とした姿で寒さに耐える
そんなドエリャアドエリャア巨大に肥えた白き鳥、サタァンが、本の山から魔導研究所、そして冒険者学園を見つめていた。
(お主……たまには飛び立つかして運動した方がよいぞ。昨日みたいにゲ○を吐いたぐらいで痩せるとはとうてい思えんしな……)
そう心の中で呟いたフランは魔導研究所へ足を向けるが、不意に何かに気がついたように立ち止まる。
(ひょっとして……なにか、”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます