……ゲ○、シテマス

「ぬおぉぉぉぉぉぉ!」

 彼の顔は恐怖に歪み、空の歩みは止まり、心を落ち着かせる為すぐさま、”おしめ”を取り出し鼻に当てる。


「すぅ~、そうでしたね、はぁ~。すぅ~、アデルくぅ~んがヤゴの街の冒険者学園に入学、そして入寮すれば、はぁ~。すぅ~、白き鳥もすぐそばまで移動するのが道理、はぁ~」


 そしておしめを片付けると、落ち着きを取り戻し、その薬指を彼方へそびえ立つ白き鳥へと向ける。

「フハハハハハ! 白き鳥よ。そこで待っているがよい! うぬが眼前にて黒き鳥が八つ裂きにされるそのざまをな! フハハハハハ!」 


 まるでその声に反応したかのように、白き鳥の”罪”は大きく、強く、そして明るく輝く。

「……え?」

 しかし、彼はもう一つ失念していた。

 やがてそれはおのが身で実感することになる。

 今の姿も体も意も、マ神、マイトレーヤだと言うことを……。

「あ……あ……あ……」

 

 おお! 神殺しの光は、神の動きを消し!

 おお! 神殺しの眼は、神の”意”を消し!

 おお! 神殺しの咆吼ほうこうは、神の存在すら消す!


 新月の世界を純白に染める輝きが、この世のあらゆる物を包み込む。

 まるで、この世には白き鳥とマ神しか存在していないかと錯覚する、まばゆい”罪”の光


 太古の言葉にある”赤外線”、”紫外線”の概念に似た、人の眼どころか、この世に存在する者達では見ることも感じることもできない光。

 あえて名をつけるのなら、《世外光せがいこう》。


 この世ならざるモノにしか見えぬ、感じぬ、受け止められぬ、優しい罪の光。

 瞬間! 世界を満たした純白の輝きは、彼のモノの”くちばし”へと一気に収縮し、一筋の光となって新月の闇に戻った世界を貫き、瞬時にマ神、マイトレーヤの体を包み込む!


『             』 


 それは例えマイトレーヤであろうと悲鳴、叫び、それどころか感情、魂の揺らぎすら許さぬ光。

 たとえこの目で見、その体で感じたことがなくとも、この世の物すべてが恐怖、畏怖、そして畏敬の念を感じて止まない光の炎。


 おお! その光の名は!


 《竜の咆吼炎ドラゴンスペル》! 

 

 ……俗名、《竜のゲ○Dragon Spew》。


 ――ちなみに《ゲ○》しかり《ショ○ベン》しかり、なぜ伏せ字かというと、

《ゲ○》については○の中に《ロ》か、《ボ》という二つの文字。

《ショ○ベン》についても同じく○の中に《ン》か《ウ》、どちらかの文字がこの世界の人の口から語られる為、混乱を招かないようあえて伏せ字にしている――。


 マイトレーヤのあらゆる煩悩、

三毒さんどく

五蓋ごがい

五下分結ごげぶんけつ》 

三結さんけつ》 


 そして

五上分結ごじょうぶんけつ》は、冬の積雪が太陽によって溶かされるように、音もけがれも、匂いも発せず、ゆっくりと消滅していった。

 マイトレーヤを包み込みながら貫いた光のゲ○は、やがて神速すら越え、その後ろに《異界への肥だめ》を発生させ、竜のゲロはその開かれた”肥だめ”へと吸い込まれていった。


”ちゃぽ~ん”

 ヤゴの街の東に位置する釜口池がまぐちいけの水面にむかって、マイトレーヤの体から水没音と波紋が贈られた。

 

 それをエダ村から少し離れた丘の上で眺めている、人の雌の姿をした三つの”モノ”。

 魔導帽子に魔導ローブ、そして

 『出鱈目でたらめ! 

     超根暗婆ちょうねくらばばあ!』

と太古の文字で記されたマントをまとった、


 この世の人からは《フラン》。

 ”それ以外のモノ”からは《閻魔ヤーマ》。

 俗名、《根暗女ねくらおんな》と呼ばれるモノは、リンゴ酒をおとした紅茶をグビグビ飲みながら、マイトレーヤが落ちた釜口池の方角へ向かって呟いた。


「《桜の丘》で夜桜としゃれ込んだが、おかげでよい余興が楽しめたわ。

……っておい! 儂のマンナンケーキを盗み食いするな! 

……しっかし”あやつ”はなぜわざわざ炎に向かって飛ぶ虫ケラみたいに、《神殺しの光炎》の斜線上におったのじゃ?」


 赤、青、白、茶の四色で彩られた魔導帽子と魔導ローブ、そして

『上昇! 汚超腐神おちょうふじん! 

     腐敗! 貴腐人きふじん!』

と太古の文字で書かれたマントを纏った、


 この世の人からは《アルドナ》。

 ”それ以外のモノ”からは《帝釈天インドラハ》。

 俗名、《貴腐人きふじん》と呼ばれる”モノ”は、マンナンケーキを丸かじりしてモソモソと口を動かす。


「まぁ、”あいつ”も体を張ってあたしらを楽しませたから、ぎりぎり及第点をあげようかしら。 

……いいじゃない一口ぐらい! だいたい! あんた自分だけこういう物食べて、

『あたしやせようとおもうんですぅ! えぇ!? そんなことないってぇ!? いやだぁもぅ~!』

って周りにひけらかしてるんじゃないわよ! 

……何でかしらね? いいかげん、周りをちょろちょろしている”あいつ”がウザくなったから?

……ん~キモ過ぎて吐き気が我慢できなくなったとか?

……《昔の同僚だてんし》がこの世にちょっかいをかけようとしたから、先手”撃った”とか?」


 向こうが透けて見える魔導帽子に、人の雌の裸体を隠す役割を放棄したスケスケの魔導ローブ、そして

壱超裸いっちょうら

   底辺生活ていへんせいかつ

と太古の文字で書かれたマントを纏った、


 この世の人からは《唯一のエルフ》。

 ”それ以外のモノ”からは《聖観音アーリア》。

 俗名、《露出狂ろしゅつきょう》と呼ばれるモノは、太古の年号で賞味期限が書かれた《ポテトスライス こんそめ》をパリパリかじりながら


「さっきから”裏側”で《眼》がフラフラしていたから、”監査庁の上司”にいいところをせようと思って格好つけたんじゃないの? 

……あななたたち、わざわざ”この世のもの”を食べずに、あたしみたいに太古の発掘品を食べればいいのに。”元素構成”が違うからいくら食べても太らないわよ。

……今エルドルちゃんに聞いてみたら、どうも虚空をさまよっていた《眼》が鬱陶うっとうしかったみたいで、《目玉焼き》にしちゃったみたい。そりゃ、”三十六万”も眼があれば、どれか一つぐらい”深淵肥だめ”に落ちちゃうもんね」 

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