第一部最終章 マンダラ、シテマス
集合、シテマス
本の山の古代図書館探索の為、レベル十以上の冒険者がヤゴの街に招集される日。
パン屋に出勤した時からそわそわしているアデルを見ながら、イネスは心の中で呟いていた。
(フフ、若い男の子がほとばしりたい欲望を、ひたすら我慢している姿っていいわよね)
イネスがなにを考えているか、もはやカッペラでさえも理解でき、睨み付けることすらしなくなった。
イネスはさすがに我慢できなくなったのか、アデルに声を掛ける。
「アデル君、ここは年上の私にすべてを任せて、あとは心置きなく”イって”いいわよ」
「は、はい! ありがとうございます。失礼します!」
アデルはエプロンを片付けると、脇目を振らず裏口のドアから飛び出していった。
「若い男の子ってやっぱり”勢い”と”飛び出し方”が違うわね。今夜”も”慰みの儀式はアデル君で決まりね」
「店長……声にでていますよ」
さすがにカッペラは注意し、
(アルゲウス様! 早くお務めから帰ってきてください!)
と、蒼き月の神殿に向かって祈りを捧げた。
アデルが向かうヤゴの街の広場には既に大勢の”命知らずの糞達”が集まっていた。
・広場だけでなくその上空に浮かびながら眠っている者。
・建物の屋根で酒盛りしてできあがっている者。
・剣が触れたか触れないかで殴り合っている者。
・いきなり露店や博打を始める者。
・手当たり次第、異性同性年齢種族問わずナンパする者。
そして直接広場に【跳躍】しようとしたが、フランが作った結界に弾き飛ばされて、フランの管理する肥だめにホールインワンする者多数と、正にその姿は自由人である冒険者を具現化したような破天荒ぶりだった。
今回の『本の山の古代図書館跡の隠し部屋調査隊』をとりまとめるのは、金色犬鷲の団である。
しかし、レベル五以上の中堅団員ですら、広場の糞達にはひよこどころかハエ扱いされ、半べそをかきながら、街の住民に被害が及ばないよう荒くれ共を整理していた。
冒険者学園へ続く道からは一時休校したのか、多数の生徒達が一目見ようと集まっていたが、あまりの傍若無人ぶりに広場には近づけず、遠くから眺めるに留まっていた。
「ん? 君たちは冒険者学園の生徒だね」
「うわ~初々しい~! かっわいい~!」
「はっはっは! 俺たちもこういう時があったなぁ!」
人のいい男女の冒険者達が生徒達に声を掛けると、生徒らは地面に落ちた飴に群がる蟻みたいにわらわらと殺到し、質問攻めや光り輝く装備に触ったりと目を輝かせていた。
アデルは自分のねぐらに行くと全身黒色の、鎧でもなければローブでもない、薄い布を何枚も重ねたような衣服を着た男が寝そべっていた。
男はアゴから細長く髭を生やしており、赤い顔をしながら酒臭い息を吐き、大イビキを奏でていた。
しかし、その首に巻かれた冒険者リングの数字はアデルと同じ”一”であった。
「悪いな、出発まで寝かせてやってくれ。変わった格好しているんで声を掛けたらいろいろと盛り上がってな。つい酒を勧めちまった」
ナインが若干すまなそうな顔でアデルに声をかける。
「確かに変わってますね。頭の帽子はトサカみたいですし、腰の剣も装飾はすごいですがレイピアみたいに細いです。異国の方ですか?」
「いや、聞いてみたところ生まれはこの辺らしい。本人も”落馬”してからの記憶が曖昧でな。時の皇帝からなんつったけな、”整体? 将軍”って地位をもらって、なんでも初めて”冒険者の王様”になったとかなんとか……?」
思わず怪しい目で男を睨み付けるアデルに対し、ナインはにやけた声でなだめた。
「まぁそんな目をするなよ。冒険者の身の上話なんて話半分で聞けばいいさ。何か悩みがあるらしく聞いてみたんだが、やたら”兄より優れた弟なぞおらぬ!”とぶつくさ言ってたな。なんでも弟の方は”大陸へ渡って皇帝になった”とか……?」
そんな話をする中、ナインを訪ねてくる人間もいた。
ある者は軽い挨拶。
ある者はカードのイカサマや、あの時自分だけ逃げただろうと罵り合いながら殴り合い、その後肩を抱き合って笑い合い。
ある者はただ拳を交わしただけですぐ立ち去った。
ある者はナインの前に座り古びたナイフを置くと、なにも言わずナインをじっと見つめた。
ナインは袋から高級そうな瓶に入った黒ブドウ酒と、グラス三つを地面に置いた。
瓶の封を噛み切りそれぞれに注ぐと、その一つにナイフを沈めた。
「すまんなアデル、そのグラスを持っててくれ」
ナイフが沈んだグラスをアデルが持つと、ナインとその男はアデルのグラスめがけて杯を重ね、一気に喉に流し込むとグラスを地面に叩きつけた。
「殺ったのは……誰だ?」
感情のないナインの問いに、その男も神妙な声で答えた。
「酒場の看板娘に心臓を一突き、いや何十回もやられたらしい。親父殿が喜んでいたぜ。
『さすが我が娘! 俺の現役時代より大物の
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