お伽噺、シテマス
「え、フランさんとは長いおつきあいですから、当然気がついていると思ってましたが?」
「なに? ど、どういうことだ?」
「糞騎士さんは担保に”けった”を預けて、フランさんと契約しました。そもそも暗黒女王の契約は”生者のみ”に適用されますよ。【蘇生】の魔法が
”あ!”と、今にもあごが外れそうな勢いでナインは大口を開けた。
「あごが外れてじゃべれないみたいですから、では僕が代わりに説明しましょう」
イタチは、まるで子供にお伽噺を聞かせるような口調で話し始めた。
※
「偶然にも天の神様が遣わした黒き鳥を、あろうことか我が子が食べてしまいました。
『どえりゃあ事が起こってまったわ~!』
と青ざめた王様と王妃様は、天の神からのお叱りがくる前に身を隠そうとしました。
そこで一芝居うつ為にヤゴの街へ行き、蒼き月の聖女様と国立墓地の墓守様に頼み込みました。
ヤゴの街の国立墓地は冥界の暗黒女王様の管轄。
蒼き月の神殿は、《月の神チャンドラ》様の管轄なので、例え天の神様だろうと容易に手出しできないと考えたからです。
自分たちはヤゴの街の国立墓地、我が子はとりあえず蒼き月の教団にある孤児院に預けて貰い、ほとぼりが冷めるまで隠れていようと考えていました。
こうしてお芝居がはじまりました。
ヤゴの街だと騒ぎになる為、辺境のラハ村で行き倒れる二人。
ギフテッドの一つ、《
そこへ偶然を装って現れる蒼き月の聖女様。
手遅れだと首を振り、せめてヤゴの街の国立墓地で埋葬させようと乗ってきた馬車に二人の遺体を乗せますが、そこへラハ村に住む若い夫婦が聖女様に話しかけました。
『聖女様、せめてその子を私たちに……』
聞けば未だ子に恵まれないその夫婦。
子供だけでも生きているのがせめてもの
蒼き月の孤児院もいいが、例え血がつながってなくとも、育ての親のぬくもりを与えながら成長した方がこの子の為になると……。
そう夫婦は涙ながらに聖女様に向かって訴えました。
そんな夫婦の熱い想い。
そして聖女様の、《百里眼》にも何かが見えたのでしょう。
それは十数年後、立派な冒険者の卵に成長した目の前の赤子の体を、このヤゴの街の広場でハァハァ興奮しながらまさぐっている自分の姿でないことは確かです。
月日がたち、ヤゴの街の国立墓地で目覚める王様と王妃様は、蒼き月の聖女様から事の顛末を聞かされます。
話が違うと二人は
『儂には天の神の
その言葉を聞き泣き崩れる二人。
ヤゴの街ならともかくラハ村では自分たち二人はもう死んだ身の上。
今更本当の両親と名乗り出るわけにもいきません……。
いや我が子を引き取ったラハ村の夫婦に訳を話して取り戻すことも可能ですが、例え取り戻したとしても、今度は天の神が我が子へ向かって罰を与えるかもしれません。
なにより短い月日とはいえ、我が子を授かったラハ村の夫婦の親としての喜びと、引き離される悲しみを考えると、王様と王妃様は、天の神の罰を甘んじて受けいれることに決めました」
※
「ひくっ、ぐずっ……ぐ、ぐじょぎしぃ。あ、あいづも……づらいめにあっだんだぎゃ」
「泣いたり怒ったり、ホント忙しい人だなぁ……やれやれ」
イタチは胸ポケットからハンカチーフを取り出しナインの顔にかぶせると、
「でもそんな糞騎士さんもある意味うらやましいです。我が子の
「ん? どういうことだ?」
”え?”っと驚くイタチの顔に向かって、”ずい!”っとナインが鼻水を垂らしながら顔を近づけてきた。
「ラハ村のお漏らしの件……糞騎士さんから依頼されたのではないのですか?」
両手の平をナインの顔の前に掲げるイタチに向かって、ナインはなおも顔を近づけた。
「こ、これはあくまで僕の推測ですが……糞騎士さんとフランさんの間でこんな会話が交わされたと思います……。
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