脱 糞 シ テ マ ス !

「『血迷ったか白き鳥よ! 貴様と黒き鳥の運命を嘆いて、我と同じく天をけがす存在にまで堕ちたのか! 所詮貴様は


”この世界に来ても”、

不純不浄不潔な神に”仇なす存在”だ! 


我と共に、《地獄の肥だめの底》に仲良く堕ちようぞ!』


 ……人生でもっとも輝く瞬間ってありますよね? 

 空の彼方にいる白き鳥に向かって叫んでいる僕はまさにその時でした。

 ですがやはり最期はこの執事の姿ではなく、せめてマ神の衣装だけでもと、いそいそと着替えて、


最小短小極小粒さいしょうたんしょうごくこつぶ

    小悪小心超暇人こあくしょうじんちょうひまじん


のマントを羽織り、華々しく散る準備は整いました。

 やがて太陽並みに光り輝く白き鳥は、一向に天に向かってゲ○を吐き出す気配がなく、それどころか”ぷりちぃーなお尻”をこの僕に向けて”フリフリ”しているではありませんか。


『こ。この私を馬、馬鹿にしているのか! まぁいい、所詮最後の悪あがきだ!』


 しかし、そのぷりちぃーなお尻から、《とてつもない力》を僕は感じました。

 そこで初めて気がついたのです。吐き出すのはなにも”口”だけではない! むしろ、《門》の方がより”本職”だと! 


 そして門の先にあるのは僕ではなく、夕日を浴びて真っ赤に輝く赤玉キノコ! 

 その時僕の目に写ったのは、赤玉キノコに飛びつくアデル君の姿! 

 次の瞬間! 白き鳥は赤玉キノコとアデル君めがけて、その、《とてつもないもの》を放ちました! 


『エ~~~ル~~~ド~~~ル~~~! 貴様ぁぁぁぁ~~~~!』」

「や~~~め~~~ろ~~~! き~~~き~~~たくなぁ~~~い」


 二人の男のむさ苦しい叫び声が、マ神の結界内でハウリングを生じさせていた。


「《汚超腐神サハスラブジャ》によって、《降魔》された《神祖竜エルドル》が!

 無限の愛で包み込む《黒き鳥クシティガルバ》に取り込まれて一体となる為に、

 神祖竜にとって、《最低最弱最愚劣》の、

《肥だめのおつり程度の攻撃力しかない攻撃方法》とは?」


「やぁめぇろぉぉぉ! ”俺様のエルドル”をけがすなぁーーー!」

 両耳を手でふさぎながら叫ぶナインの魂に、メテヤの清らかな声がささやいた。

 

Dung Plum

 

「その夜、貴婦人が操る土の精霊と暗黒女王が操るゴーレムが、夜を呈して、《ドエリャア圧縮された竜の宿便》を、《匂いの山》が丸々入る娑婆袋の中へとせっせと運び入れてました。

 こうしてドラゴンの糞でぺちゃんこになったアデル君が、無事回収されました。


『うわ! ちょっとフラン見て! なにこいつ! 変な服着て痛いマント羽織って木の陰で棒立ちになって! ひょっとして今まであたし達のことを覗いてたの? きもちわる~~』


『お主、何でこんな所で固まっておるのじゃ? ……ふむ、察するに白き鳥に無視されたとか馬鹿にされたとかでなく、事の始まりから今まで”人の姿”でいたお主は、

”全く白き鳥の眼中になかった事”

が今頃わかって、魂がベソをかいているように見えるが?』」


 《宿弁》を吐き出してすっきりした顔のイタチの横では、

偶像アイドルは糞やショ○ベンどころか、授かりの儀式すら行う事実』

を聞かされた太古の偶像崇拝者のように、魂を吐き出したナインの屍が横たわっていた。


 なんとか気を取り直し、様々なポーションを袋から取り出して一気にがぶ飲みしたナイン。

 しかしナインは、これまで聞いたイタチの話の中で、言いようのないわだかまりを感じていた。


「なぁ、どうも腑に落ちねぇんだが……坊主は黒き鳥の生まれ変わりなのか?」

「え? アデル君はギフテッド持ちの”ただの人間”ですよ。むしろナインさんがアデル君をギフテッドと、常日頃からおっしゃっていたんじゃありませんか?」

 イタチは”なにを今更”な顔をナインに向けた。


「これまでの話を聞くに、坊主は”黒き鳥と白き鳥を取り込んだ”っておめぇは言っているように思えるんだが?」

「そうですが……それがなにか?」


「てっきり俺は糞騎士の話から、黒き鳥と同じ力のギフテッドを、坊主が持っているとずっと考えていたんだ。でもおめぇの言うとおりなら、白き鳥を取り込んだのは黒き鳥って事は理解できるが、”誰が”坊主の中に黒き鳥を取り込ませたんだ?」


「”アデル君自身”ですよ? どうしたんですか? ナインさんらしくない」

 イタチは小首をかしげて、怪訝けげんそうな顔でナインの顔を見つめた。


「……恥を忍んで言うが実は俺、ギフテッドのこと、お前ら魔神より詳しくないんだ」 

「そうなんですか……。ラハ村で糞騎士さんと仲むつまじくお話ししていましたから、てっきりすべてご存じだったのかと?」


「すぐさま”お漏らし”が始まったし、終わったらあいつ、すぐ消えやがってな……。で、聞くが、そもそも


『ギフテッドってなんだ?』」


 意外そうな顔をナインに向けたイタチは、勝ち誇ったようにナインに講義を行った。

「そもそもギフテッドとは、無力な人がこの大地で生きていく為に、《天空の神》が、《王》を通じて与える、《能力》です。

 この地に降り立ったばかりの人の前には、あらゆる困難が立ちふさがりました。こうした困難の”声”を王は民から聞き、それを乗り越える力を神に嘆願します。そして神は王を通じて、困難を乗り越える能力を人々に授けたのです」

 イタチは学園の講師の様に、理解できているかとナインを見て確認し、講義を続けた


「そして王は力の、《特性》を民に話すことで力を授けることができ、区別する為、《名前をつけます》。それで初めて力が発動します。

 もっともその力は一人に一つのみ。そして授かった人間が死なない限り、王は同じ力を他人に授けることはできません。もっとも中には血統を通じて子孫や一族に受け継がれる力もあるみたいですが……」


「そこら辺は魔導研究所で調べたから何となくわかるが……」

「そして王、つまり、

《フギノーミ帝国皇帝》、

その名を、《チャクラ・ヴァルティン》。

彼は一度民に授けた力を再度、別の人間に授ける時には神への嘆願を必要としないのです。いわば皇帝自身、膨大な神の力を授ける能力があると言っても過言ではありません」


「ということは……あ、あの糞騎士! 坊主にギフテッドを与えたって事か!」

「はい! これはあくまで推測ですが、糞騎士さんはもともとそういうつもりはなかったみたいですね。なんて言うか……生まれたばかりの我が子に向かって、親が話しかける程度のつもりで力の”特性”を……」


「ちょ、ちょっと待てぇぇいぃ! 坊主のギフテッドって確か、《ゲテモノ喰いオール・ウェルカム》って糞騎士は言っていたぞ!」


「ええ、なんでも以前その力を授かった人は、青玉キノコをたらふく食べ過ぎて……」

「ど、毒で死んだのか?」


「いえ、ゲテモノ喰いですから食べ物の毒は効きません。元々ゲテモノ喰いの能力ってのは、人間が食べられる植物や動物を調べる為、神から授かった力だと思います。生はもちろん、焼いたり煮込んだりして、人に害があるかどうか調べていたみたいですね。

 だからたとえ、《味覚を破壊するスープ》や、《マ物のステーキ》を食べてもピンピンしています。その方の死因は確か”糞詰まり”だったかと……。青玉キノコは赤玉キノコより栄養はあるのですが、いかんせん消化が悪く、人によっては宿便の源になるみたいですね。もっとも力を授けた民の一人一人の生死のことまで、皇帝自身が知るよしもないですから」


「つ、つまり糞騎士が坊主にむかって言った言葉ってのが……」

「はい。よく親が子供に向かって願いますよね、


『好ききらいせず、”何でも”食べるんだぞ!』


って。それを聞いた赤子のアデル君の口元に、

 偶然なのか、それとも

 至高の存在に命じられた残念系淑女が、風の精霊を操った結果なのか、

 

 《ドエリャアドエリャア》

 《芥子ケシ粒より小さい》

 《人の目には見えない》黒き鳥がフラフラと飛んできました」


「それを坊主は一気に……」

「ええ! かわいいお口で”パクッ”と!」

 満面の笑みでイタチが微笑んだ。


「あ、あの宿便騎士がぁ~~! すべてはあいつの一言からはじまったんじゃねぇかぁ!」

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