込みあげ、シテマス

「何かご苦労なやっちゃな。まぁそれとは別にヤゴの街内や学園内て殺っても、学生特権ですぐ蘇生されるからな。ところで白き鳥はどうし……、あ! 本の山か!」


「ええそうです。ちなみに近隣で目撃されたドラゴンは白き鳥ではありません。若いドラゴンが、姿を消した彼に挨拶に来たのを目撃されたみたいですね」

「本の山が危険度レベル十以上になったのも、あながちハッタリじゃねぇってことか」


「 僕もたまにやってくる帝国監査官をもてなす為に、本の山へ赤玉キノコ狩りをしていましたが、白き鳥は私なんか目もくれず、黙々とヤゴの街の方、つまりアデル君を見つめていました。何度か挨拶しましたが”完璧に無視”されました。少し、いやかなり寂しかったですけど……」


「おめぇさんの話の結末である坊主の行く末はもうわかっているんだが、いまいち話のつながりが見えねえんだな。おめぇさんもあれから坊主に手を出したのか?」


「はい。結論を言いますとアデル君に本の山のクエストを引かせたのは僕です。イヌワシの団員を操ってクエストを書かせて、取り除いても再び混入させました。さらに卒業生を勧誘する場所取りの会議の時も、他の旅団に少なくないお金を払って犬鷲の団の横の場所を譲って貰いました」

「まめなやっちゃな」


「そして彼がクエストを引く時ですが、魔法を唱えると感知されますので、【透視の指輪】で確認しながら【マ神の術】をかけて、アデル君の手に本の山のクエストを吸い付かせました」


 そしてイタチの顔がわずかながら上気しはじめた。

「もっとも当日になって僕の団が隣にいますから、フクロウさんから一日中、汚らしいモノを見る視線、いや、《汚線おせん》ですかね? それと、八つ裂きにする殺気の、《ご褒美》を存分に頂戴いたしました。ハァハァ……」


「そこまでして坊主が本の山へ一人、のこのこやってきたところを狙おうと……」

「ええ、そうです! そして念には念を入れて、一ヶ月前から商人と冒険者庁の役人を操って本の山を超危険エリアにしました。後ほど口封じはしましたけど」

「結果的には地図の書き換えは理にかなっていたけどな」


 イタチは立ち上がると、演説するかのようにこぶしを握り、弁舌に熱が入ってくる。

「『そして時は来ました! 今宵! 

”元素構成をめちゃくちゃにされ”、

”マ物に姿を変えられた”

”我が億千万の、《衆生マヌシャ》”を取り込み、


《シラミだらけの不潔の神サハスラブジャ》の

《千のワキガの風》と

《肥だめより臭い口臭》

で焼いた憎き黒き鳥を、奴を想う白き鳥の眼前でほふることができる! と』

 イタチの象牙のような頬は血色を帯び、目元口元はつり上がり、悪魔の顔へと変貌した。


「さらに、アデル君がクエスト当日に赤玉キノコを刈らないよう、前日に小指の先ほどの赤玉キノコすら私が刈り取りました。あとは夜が更けるのを待つだけ! 

 さすれば我が、《マイトレーヤ会の三門》から出でし、マ物に変えられた衆生達をアデル君に差し向け、マ物でいっぱいになった黒き鳥を、天に飛び立つ前にアデル君もろとも八つ裂きにできる! と。

 僕がこの世に”下痢”、いや《下生げしょう》してからもっとも興奮した時でした!』


「と、ところで白き鳥はどうしたんだ?」

「黒き鳥が僕に八つ裂きにされるぐらいなら、僕と黒き鳥もろとも、《竜のゲ○》で本の山、いやナゴミ帝国、いやいやアイシール地方そのものを蒸発させる覚悟を決めたのか、いつの間にか天空に飛び去っていましたね。これで僕の勝ちは確信しました!」

 興奮したイタチは歌劇の男優のように両腕を広げて、夜空に向かって叫んでいた。


『さあ! 早く貴様のゲ○を我と黒き鳥にまき散らしてみろ! その瞬間、我がマ族の勝利だ! 例え我が身が蒸発しても、


マイトレーヤの三門が開かれ、

《三百億の衆生》が飛び出し! 

黒き鳥のいない、《穢悪えあく》に満ちたこの大地、

衆生の故郷である、《穢土えど》を取り戻すであろう!』


 イタチの目や口調、そして体全体が狂気と言う名の悦楽に満ち満ちていた。


『白き鳥よ! 《波旬はじゅん》のごとき我の誘惑が届いているか! お前の創造神が、我が衆生を気にかけ大事にし、お前達、《天遣(てんし》》をないがしろにした時を思い出せ! 

 我が衆生に嫉妬し、創造神への反逆という大逆の罪を犯してまでかなえたかったその願いを今、果たす時が来たのだ! さあ! この世界一面にまき散らされる我が衆生に向かって、思う存分ゲ○を吐き出せ! 

 これで我の、《蓮華化生れんげけしょう》は完成だ! わぁっはっはっは!』


 絶叫に近い笑いをはき出したイタチは”ふう”と一息つき、糞騎士の小樽をナインから奪うと、”グビグビ”と一気に飲み干した。


 冒険者学園時代のイタチからは想像もできない饒舌、弁舌に、ナインは半ばあっけにとられながら、樽を一気飲みするイタチの姿を眺めていた。


「……ですが所詮、マ神の浅知恵。僕の計画は完璧に打ち砕かれました。僕もうすうす気付いていましたが、本の山で見かける白き鳥の体に変調が見られたのです。


 『この世と共に生まれた白き鳥もさすがに寿命なのか?』 

 『だから黒き鳥と一つになりたいのか?』 


とあれこれ推理していました。

 あとから聞いたんですが、その時白き鳥は暗黒女王とある契約を交わしていました。報酬は太古より多くの者が探し求めていた、


《下血を受け止める神の御虎子おまる

に匹敵するであろう、

《太古より”溜め込んだ”竜の至宝》


だと。

 それを暗黒女王から聞かされた貴婦人も、”上司の使い”の頼みだからと素直に協力しました」


 ナインの方を向きながらイタチは弁舌を続けた。

「ここから先はナインさんの方が詳しいんじゃないですか? 

 暗黒女王は珍しく”墓地の前”でアデル君を勧誘し、万が一死亡しても蘇生させてやると契約させます。

 翌朝、北の門から冒険者の第一歩を踏み出したアデル君。

 しかし赤玉キノコが見つからず野営する羽目に。

 それを物陰から見ながら早く夜になれと太陽を恨む僕。

 しかし陽が落ちる寸前、アデル君の目の前に丸々と太った赤玉キノコが!」


「ん? ちょっとまて! なにか……?」

「そう! 確かに本の山隅々まで刈り取った赤玉キノコがなぜここに? 

 ましてやあんな巨大な物を僕が見逃すはずが……いや、見逃していました。

 なぜならそこはずっと白き鳥が座っていた場所だったんです! 

 ……してやられました! 空を見上げると、頭上遙か彼方に白き鳥の姿が!」


「お、おい! ちょ、ちょっと待てぃ! 何というか……いや結末はわかっているんだが……。そ、そこから先は聞きたくない!」


「聞いて下さい! 誰かに、《宿弁》を吐き出さないと、僕が”すっきり”しないんです!」

 イタチは血走った両目をナインの眼前へと突き出した。


「見上げる僕の目に写るのは、満月すら凌駕する白き鳥の輝き。

 それは竜のゲ○、《竜の咆吼炎Dragon Spew》が発動する前兆でした。

 それでも僕は勝利の美酒! いや竜のゲ○を存分に浴びる喜びに打ち震えていました。

 ……だが何かがおかしい。白き鳥の口は大地ではなく、天空を向いていたのです! 

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