薄い本……シテマス
思いもよらぬイタチの言葉に、思わずナインが食いついてくる。
「そう身を乗り出さないでくださいよ。実はそれほどかっこいい話ではないんです。実はあの御二方、いざ僕と相対したら……。
※
『おい腐れ女、一応マ神と事を構えるのに何じゃその、《緑に白い線の入った服》は?』
『逆さ傘で発掘された太古の服で、《裁き》を意味する,《じゃあじ》って名前の服よ。”こいつ”と事を構えるのにぴったりの服じゃない!』
『普段お主が腐れ部屋で着ている服と、全く大差ないように見えるんだが? とうとうローブに着替えるのもすらめんどくさくなったのか? せめて顔ぐらい洗え、目やにが付いておるぞ。あとよだれ!』
『別に”こいつ”の前だし、なんなら虎柄の下着で仮装して、雷撃を放ってさしあげましょうか? それよりフラン、なにそのローブの下のスケスケの服は? あんた
『むむ! まあよい。この前はお主から先に手を出したからな。今日は儂からじゃ!』
『そんなことよりフラン! 私が貸した、《”太古のをた○ちん”が読む薄い書物》を早く返しなさいよ!』
『お、お主こそ、儂の造った、《張○》を未だに返して貰ってないぞ!』
『やっぱり! 使いすぎてぼろぼろにさせたのね! あれは伝承によるとね、太古のをた○ちんが百万人集まる、《
”太古の発掘品は元素構成が違う為、復元の魔法は効かない”
から大事に使えってあれほど!』
『お、お主こそ! この前魔導研究所に寄ってみたら、儂が貸した”○型”が真っ二つにへし折れて、ゴミ捨て場に捨ててあったぞ! 一体なにを喰ったらああも頑丈な”鉄壁”ができあがるんじゃ!』
※
……とまぁ女性から相手にされないのは冒険者学園時代でも同じでしたから」
まさしく、《
(登場人物がこの三人じゃあなぁ……)
と、すぐさま残念な目に切り変わった。
「ご期待を裏切って申し訳ありません。続きを申し上げますと、まぁいつものことですが、やがて互いに
『冥界の
を特等席で拝見させていただきました。いやぁ
「あの二人のことだ。それでおしまいって訳じゃあないんだろ?」
そのナインの言葉にイタチは”ガシッ”とナインの手を両手で握った。
「さすがナインさん! よくわかっていらっしゃる!」
心なしか、イタチの両目が潤んでいた。
「続けろよ……」
ナインの顔は人生の先輩の雰囲気を醸し出し、イタチにすべてを吐き出すよう促した。
「紅茶を楽しみながら拝見していましたが、さっきまで顔が変形するほどつかみ合いしていたのが嘘みたいに結託いたしまして……。
※
『おい! いい物を飲んでおるな。儂の分はないのか?』
『”私たちの分”でしょ! 全く根暗女は自分のことしか考えていないんだからぁ……』
『とりあえず二人ともこんな有様じゃ。お主も万全の儂らと相対したいじゃろ。なにをぼけっとしている! 早く茶と菓子を、儂はいつものように”マンナンケーキ”じゃ!』
『じゃああたしぃは……そうねぇ……帝都の、《ナカス》に行って、《ネイロ》を買ってきてぇ。あんたカビ臭くても一応冒険者なんだから、お使いぐらいできるでしょ? 代金? ツケといてね。そのうち端数削って払うから』
『そういえば帝都といえば、お主は常日頃、帝国監査の役人達といい茶と酒を飲んでおるそうじゃな。独り占めせずたまには儂にもご馳走せい!』
『なにそれ! あたしそんなことまったくきいていないちょっとしんじられない! やりどころかはりよりちいさいものぶらさげているしょうしんもののくせになまいき! やっぱりむさくるしいおやじややくにんに、からだをさしだしてとりいったうわさはほんとうなのね! こんどそのときのようすを、くわしくいちじいっくりゃくさずよどおしわたしのへやではなしなさいよ! さっきいったじょうとうのおさけと、ていとでうっているじゃがいもすらいすのしおこんそめのりさらだわさびそれぞれ五ふくろずつじさんでね!』
……と、言いたい放題の中、さらにお酒が入ると、
『おい! ボサ~ッと突っ立ってないで、何か芸でもせぬか!』
『え~! こいつの下手糞なリュートは聞き飽きた~。そうだ! ちょっとあんた! カビ臭い執事服なんか脱いで、これこれ! これを着なさいよ!』
『それは……お主の部屋で以前見た、太古の娯楽品、《
『前々からこいつに似ていると思っていたから、逆さ傘の発掘品からチョロ……、研究の為に取り寄せたの。着たらこの、《太古の貴腐人が読む薄い書物》の、え~と、この絵と同じポーズをとりなさい!』
『たった今、聞き捨てならない言葉が聞こえたが……。おお! これは思ったよりなかなかよさげじゃな。……しかし一人ではつまらんな。よし! 儂も出血大サービスじゃ! ちょいその書物を見せよ……よし! 憶えたぞ! この人物を儂の二体のゴーレムに【姿変化】させて……よし! これで主人公の先輩と親友のできあがりじゃ!』
『ちょっと! やばいわこれ。ねぇフラン、このゴーレム達、お持ち帰りしてもいい?』
『かまわぬが手触りはただのウッドゴーレムじゃぞ。当然槍もついておら……どうせなら張○を”ここ”につけてと、よしゴーレム達よ! この絵のようにこいつを押し倒せ!』
『きぃたぁわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!』
※
……こうして、神の浄化の炎よりも、狂おしくも破廉恥な乱痴気騒ぎがようやく終わりました。
あとに残されたのは、食い散らかされたお菓子や割れた酒瓶とグラス。
数十万ダガネの価値のあったティーセットもことごとく破壊されました。
そして……そして、グスッ……張○を装着したウッゴ君とウッゴちゃんに抱きつかれた……グスッ……下半身丸出しの僕……でした……グスッ」
「もういい! もうなにも言うな! あとであいつらを二、三発ぶん殴っておいてやるから! もうなにも言うな!」
己の胸板でざめざめ泣くイタチを、ナインは力強く両腕で抱きしめた。
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