カンチョウ、シテマス

 ウッゴ君がウッゴちゃんを肩車する。

 そしてナインに瓶の水をふりかけるよう合図する。


「おっしゃ! 一滴もこぼすんじゃねぇぞ! ありゃ?」 

 ナインがウッゴ達にふりかけるが、すぐ空になってしまった。


「ナイン殿これを。もうこれが最後だ」

 糞騎士が放り投げた瓶をナインは受け取るが

「おめぇはいいのか?」


「私自身にもラハ村と同じ結界を張って、何とか堪えてみせる。だがそれほど時間がない。道草をしている暇はないぞ!」

「ああ、かけらも残さず糞を拾ってきてやらあ。さぁ、おめぇたち、おかわりだ!」


 再びナインは瓶の水をウッゴ達に振りかける。

 やがて、ウッゴちゃんの口から炎が噴き出し、ウッゴ達二人の体を包み込んだ。

 そして、ラハ村上空まで突き抜ける火柱となって噴き上がった。


「お、おい!」

「や、やはりこの御方は……大丈夫だ。むしろ今までが仮の姿。今から真のお姿を披露なされるぞ」

「真の……姿?」


 やがて、体を包み込む炎が治まってくる。

 いや、ところどころは、まだ勢いよく噴き上がっている。

 その炎はまるで鎮火という言葉すら知らない、永遠の炎のように神々しく、荒々しく、そして、優しかった。


 炎の隙間から覗くその姿。

 巨大化したウッゴ君の足と胴体。

 その胴体から伸びる力強い”八本”の腕。

 そして、ウッゴ君のひたいにはウッゴちゃんの顔が埋め込まれていた。


 ナインと糞騎士の眼前にそびえ立ったのは、炎を纏った八本腕の巨人であった。


「な、なんじゃこりゃああ? ……へっへ、通りで俺様が殴り合いで勝てなかったわけだぜ。なにせ腕が八本あるからな」


 巨人を見上げながら、ナインはあごに手を当て一人納得していた。

 糞騎士も見上げながら、一人、震えながら納得していた。


「ぐ、偶然にしては、す……全てがつながった。ここへいらした訳。あのとぐろを退治なさる為に……」 


「さっきからなにをごちゃごちゃと。あらよっと!」

 ナインは【浮遊】の魔法で飛び上がると、巨人の頭の上、逆立った髪の中へ降り立つ。


「んじゃ! ちょっくら行ってくらあ。後は頼んだぜ。……えっと、お前の名前はなんだ? さすがにウッゴ野郎って呼ぶのもアレだしな?」


「《クンダリン》様だ。あとナイン殿。この御方に向かってこの呪文を唱えてくれないか? 出来れば、先ほどの女性の声で」

 糞騎士はナインに呪文を教えた。


「わかった! 行くぜクンダリン! 糞蛇退治によ!」

 そしてナインは、先ほど発した女性の声でクンダリンに命令する。


『我、戦捺羅チャンドラの名において命ず! Om amṛte hūṃ phaṭオン アミリテイ ウン ハッタ!』


 ナインの呪文によって巨人の体がいっそう燃え上がる。

 そして炎を噴き出しながら一直線に飛び立っていった。


「このままケツの穴に突っ込むぜ!」

 炎の流星と化し、糞蛇の上空を横切る巨人。


 しかし、その姿を易々見過ごす糞蛇ではなかった。

 糞蛇の表面から、数百から数万の魔物の肉で出来た糞の巨人や糞の飛竜が一斉に飛び立って襲いかかる。


「竜巻パンチだ! 粉々にしてしまえ!」  

 ナインの命令通り、クンダリンは炎に包まれた八本の腕と二本の脚を伸ばすと、頭を固定したまま胴体部分だけ勢いよく回転させ、近づく糞の巨人達を炎に包まれたパンチとキックで粉砕していった。


 それでも追いつかないと見るや、クンダリンは背中からトゲを生やすと、回転しながらあたりにトゲをばらまいていた。

 

 進行方向に飛来する糞の巨人や飛竜達。

 ナインは瓶にこびりついた水を舐めると

「前は任せろ!」

『でらでらでらでらでらでらでらでらでらでらぁ!』


 ナインの両腕から放たれた特大の光の玉は、曲射によってピンポイントに糞の巨人や飛竜達の”ケツの穴”にぶち当たり、彼らを醜い糞の花火と化していた。


 額に埋め込まれたウッゴちゃんも、その口から光線のような炎を一直線に噴き出し、糞の巨人達を文字通り”ヤケクソ”へと変貌させる。


 眼が覚めたかのように動き出す糞蛇。

 その攻撃は結界の上で両腕を掲げる糞騎士にも襲いかかる。

 糞騎士、そしてラハ村を包み込む結界に向かって進撃する糞の巨人や飛竜達。


『【象宝ハッティラタナ】!』

 糞騎士の叫びによって結界上に巨大な純白の象が八体現れると、その鼻によって結界に近づく糞の巨人達は粉砕されていった。


(なぜだ……こんな絶望しかない状況なのに……心が躍る)


『【馬宝アッサラタナ】!』

 今度は空中に巨大な純白の馬が八体現れ、その脚で糞の飛竜達を踏みつぶしていった。


(運命に抗う事が、いや、運命に糞をぶちまけるのが、人のなすべき事……)


『【珠宝マニラタナ】!』

 再び糞騎士が叫ぶと、結界がまばゆいばかりに白く輝き、結界に取り憑いた糞の巨人や飛竜達を蒸発させていた。


(そうとも。例えマ神がそう決めたとしても、断じてヤツの思い通りにはさせん!)


 糞騎士の頭上に展開するチャクラムが、まるで太陽のように光り輝きはじめる。

(準備は整った! さぁナイン殿! 共に運命に向かって糞をぶちまけようぞ!)


「あそこだ、クンダリン! 見えるかぁ! ウッゴ娘! 俺の後に続け!」

『でらでらでらでらでらでらでらでらぁ!』


 ナインは糞蛇の”ケツの穴”に向かって、数十の光の玉を発射する。

 その場所に向かって、ウッゴちゃんの口から炎の光線が放たれる。


”グォォォォォォオオオオオォォォォ!”


 初めて発っせられた糞蛇の咆吼ほうこう

「ドンピシャだ! 手をゆるめるな!」


 絶え間なく放たれる光の玉と炎の光線。

”ビッタン! ビッタン!”と糞蛇は体を動かそうとする。


 それもそのはず。光の玉と炎の光線で、糞蛇の”ケツの穴”はまさに《ぢ》にさせられているからだ。

 さらに水瓶みずがめのような空間に閉じ込められている為、思い通りに体を動かせず、なすがままにされていた。  


「このまま”穴”を押し広げて突っ込むぜ!」 

 炎の流星が糞蛇の”ケツの穴”に向かって突き進む!

「いっけぇぇぇぇ! 『Om amṛte hūṃ phaṭオン アミリテイ ウン ハッタ!』」


”ズボッ!”


”ウオォォォオオォォォ!”


 ”ぢ”になったケツの穴にドリルが突っ込まれたように、糞蛇の体はのたうち回る。


『どえりゃどえりゃどえりゃどえりゃどえりゃどえりゃどえりゃどえりゃあぁ!』


 糞蛇の体内では、ナインは光の玉を、ウッゴちゃんの口は炎の光線を放ちながら、クンダリンは腕と脚を回転させ、なおも背中からトゲを発射しながら、頭の方向へ突き進んでいた。

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