糞拾い、シテマス
「し、信じられん。
声も体も震えながら、ウッゴ君を見上げる糞騎士。
やがてウッゴ君の体が縮みはじめ、元の大きさに戻ると、二人は”ポテッ!”と倒れた。
「ん? どうした? 力尽きたか? まぁ、こんな
今、自分たちが置かれた事の重大さなんかどこ吹く風で、ナインはいつもの口調で、輪廻から脱したこの空間へ侵入した二人の健闘を
「つくづく貴公の楽観さは恐ろしくも、そしてうらやましい……。彼らがやったことは、先ほど貴公が申した、大海原の中で
「へっへ! こいつらを甘く見てもらっては困るな! 何せこの俺様をぶちのめした奴らなんだぜ!」
ナインは糞騎士に向かって親指を立てるが、糞騎士はナインにかまわず、ウッゴ君達に近づいた。
「一体、彼らのどこにそんな力が……ん? 濡れている? 水?」
「ああ、こいつらはウッドゴーレムだからな。時々、飯代わりにな、じょうろに入った水を体にかけているからよ」
「いや、これは……水ではない! まさか!」
「まさか! ……って、まさか酒の匂いでも……この匂い! こりゃ、広場の酔っ払い爺の酒じゃねえか!」
「貴公! この酒を知っているのか?」
「ああ、あの爺がいつもうまそうに飲んでやがるから、一口くれって散々頼み込んでいるんだが、
『おめぇさんにはまだ早い!』
って、飲ませてくれねえでやんの。あのクソッタレケチケチ爺め! おめえら、いったいどうやって、あの爺から酒をくすねてきたんだよ!」
(確かに、この酒は貴公どころか、私ですらまだ早いが……。一体、ヤゴの街にはどれほどの”モノ”が住んでいるのだ?)
想いにふける糞騎士だが、頭の中でウッゴ達と酒が組み合わさると、ふいに頭上からカミナリが落ちたように硬直し、そして何かに怯えたかのように半歩退いた。
「
”ムクッ!”っとウッゴ達は起き上がると、二人は状況を確認するかのように結界上を歩き回る。
糞騎士はただただ硬直しながら立ち尽くし、ナインは腰を下ろして、片膝を立て本体のとぐろを見つめながら
「おう! 時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり見物しな。これだけの糞はそうそう拝めねえからよ」
と、歩き回る二人を見ずに呟いた。
「なぁ、糞騎士。本当にここから抜け出せる方法はないのか? おめぇの”引っ越し”はもう使えねぇのか?」
ナインはとぐろを見つめながら、糞騎士に向かって呟いた。
「……不発に終わったゆえ、まだ力は蓄えてはいるが、いかんせん、目の前の本体をどうにかしないとな」
「……そうか」
「……ところで貴公は、さっきからなにを見つめているのだ?」
とぐろから眼を離さないナインに、糞騎士は
「……俺はな、金のねぇ時には糞拾いをしていたんだ」
「……?」
「糞拾いってのは、ああ見えて結構コツがあってだな。地面に落ちた糞ってのは地面に帰る、世の
(……錯乱して暴れないだけ、
とうとう、いや、やっとナインの気が触れたかと思い、糞騎士は口を挟まず黙ってナインの話を聞くことにした。
「知ってるか? 糞にはな、”ヘソ”と”ケツの穴”があるんだぜ!」
「……?」
「糞拾いをする為にはな、糞の”ヘソ”をつままねえと拾えねぇんだ。もし”ケツの穴”をつまんだりしたら、糞のヤツがびっくりしてバラバラになってしまうんだぜ! そうなったらおじゃんだ。一ダガネにもなりゃしねぇ」
(……糞の……”ケツの穴”……バラバラ……なっ!)
「今になって気がついたぜ。空から降ってきた糞の山たちをよ。力尽くでぶっ潰すより、”ケツの穴”をちょっとつっついてやれば、簡単にバラバラにできたんだってことをな」
「き、貴公……ま、まさか……さっきから眺めているのは!」
「ああ、とぐろの遙か彼方にな、ちらちら覗かせている、本体とやらの……」
糞騎士へ向けて振り向いたナインの顔はにやけ、その眼の光は消えていなかった。
『”ケツの穴”よ!』
「し、しかしどうやってそこまで? 空を飛ぶにしても、おそらくすぐさま見つかり、本体に取り込まれてしまうぞ」
「ああ、問題はそこなんだが……ん?」
”ツンツン”と、ウッゴ君が指でナインの体を押す。
「どした? ……瓶?」
ウッゴ君は糞騎士からもらった瓶を指さすと、頭へかけるようジェスチャーをする。
そして腕を広げ、体を数回、回転させる。
かつてナインをノックアウトした、”竜巻パンチ”のように……。
「ま、まさかおめぇ、俺様をノックアウトした、あの竜巻パンチで回転しながら、あいつの”ケツの穴”に突っ込むと?」
ウッゴ君とウッゴちゃんが、同時にうなずく。
そしてナインの顔は、驚きから微笑みへと移り変わる。
「へへっ! そういう事か。んなら、俺様もつきあうぜ!」
ナインは立ち上がり、二人に向かって親指を立てた。
「き、貴公、正気か! この御方、いや、ゴーレム達は代わりはいくらでもいる。なにもいっしょにつきあうことは……」
「万一動き出したりしてケツの穴の場所が移動したりしたら、俺様がこいつらに指示しなきゃいけねぇ。それに、本体からの攻撃もないとはいえねぇしな」
「し、しかし……」
「なぁに、例え世界の果てへ飛ばされても、こいつらにしがみついていればそのうち元の世界へたどり着けるさ。言ったろ? 運命に糞をまき散らすのが俺様だってな。だからよ、ラハ村のみんな、アデルの両親達を……元の世界へ頼む!」
ナインの顔はこれ以上ないほど澄んだ表情で、糞騎士を見つめる。
「わかった。我が身に代えてもナゴミ帝国へ送り届けよう」
「あと一つ、フランに言付けを頼みてぇんだが……」
ナインは”二つ目の呪文”を糞騎士に託した。
「了解した。だがその”呪文”は、お主の口から言うべきだな」
「ああ、初めからそのつもりさ」
そう呟くと、ナインはウインクをし、遙か彼方のとぐろから覗かせる、”ケツの穴”に向かって吠える!
「さぁ! いくぜ! 木偶の坊共!! 《イチジクの舞》の開演だぜ!!」
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