タケノコ種族、シテマス
「よし! いいぞ! よくやった!」
魔物の攻撃に隙ができたと思った糞騎士は、結界の頂上に立つと両手を挙げた。
【……
と唱えると空には結界の上空だけ穴の空いたドーナッツ状の黒い土の雲が魔物の群れの上空を覆い尽くし、
【……
と唱えるとその土の雲から溶岩の塊が”ニョキッ”と地面に向かって生え、
【ドエリャア~ちんちこちん!】
と唱えると同時に腕を下に下ろすと、溶岩の塊がまるで”ひょう”や”あられ”のように魔物の群れの頭上へと降り注いだ。
””ドドドドォォォォーーーーンンンン””
炎、爆発、そして魔物達の阿鼻叫喚、あっという間に辺りは魔物にとっての地獄絵図へと変貌した。
「うほ~すんげぇ~すんげぇ~」
ナインは手を叩きながら結界の上を飛び回っていた。
「ほんじゃあ俺もと……」
ナインは精神力ポーションを取り出すと小樽単位でがぶ飲みし、糞騎士と同じように両手を挙げる。
「さすがに火に耐性のある奴には、おめぇのその魔法も効かねぇからなぁ! わりいなぁ糞騎士! おめぇの魔法、”真似”させてもらうぜ! 文句は俺の中の、《九官鳥》に言いな!」
「なに!」
初めて驚いたそぶりを見せた糞騎士。
ナインはかまわず詠唱をはじめた。
【……
空には光り輝く白い土の雲が現れ、
【……
白き土から矢……みたいな多少”根”が生えた白い突起物が”ニョキッ!”と生え、
【ドエリャア~ときんときん!】
と叫び両手を下ろすと白き矢、……いや後ろから緑色の軌跡を吐き出しながら”白く光り輝く
嵐の中の雨のように、天から放たれた大根は、断末魔の叫びすら与えることなく魔物の頭蓋を破壊し、肉に覆われた体を突き刺さると、太い骨を難なく砕く。
己の体を支える肉や骨が粉砕されると、魔物の体は体を折り曲げながら、叫びを発することなく地面に伏していった。
そして、貫通した大根はそのまま地面に突き刺さるとあっという間に根を生やし、魔物の血肉を養分にぷくぷくと肥えていった。
「ほほう、なかなかやるではないか。九官鳥のことは後で話すとして、太古の昔、大根を飛ばす時は
『ウサギの娘の格好しながら剣の上に乗り、空を駆ける』
と聞いたことがあるぞ」
「そんなモン知るか! 第一、俺は男だ!」
「太古の昔、この辺りに存在した都では夏になると、”仮装祭り”があってだな……」
「もういい! 黙れ!」
糞達の襲来と攻撃は、終わることなく続いた。
「糞! 糞!」
と叫ぶナイン自身、結界の上で糞とショ○ベンをまき散らしながら残り少ない武器や魔法でラハ村へ近づく魔物を撃退していったが、やがて最後の武器が尽きる時が来た。
「これでとどめだ!」
もはや鉄くずになった剣をわずかに残った魔力で【加速】させると、オーガの顔面に突き刺した。
「はぁ……はぁ……もう糞どころかショ○ベンも鼻水も出ねぇ……。おい糞騎士! わりいが俺はここで降ろさせてもらうぜ!」
「なにを言う! 薄いスープみたいに水くさいではないか! 夜はこれからだ。私もこれほど高揚したのは初めてかも……。いや妻と初めての授かりの儀式以来かな?」
「んなもん知ったこっちゃねぇ! こちとら武器もポーションもなくなったんだよ!」
「なんだと!? それを早く言ってくれなくては……」
「ああ、だからよ、この最後に残った精神力ポーションで【跳……」
だがナインが言い終わらないうちに、糞騎士は二つの娑婆袋をナインに投げ渡した。
「こっちが各ポーション、そっちが私自慢の武器のコレクションがそうだな……それぞれ数百は入っておる。なに遠慮はいらん存分に使え私が許す! 太古の格言で、準備万端のことを”こんな事もあろうかと”と、言うらしいな」
目も鼻も口も体中の毛穴もケ○の穴もすべて限界まで開かれたナインにかまわず、糞騎士は胸を張り、さぞ得意げに話した。
「そういえば奥の方に確か……召し使い用の鋼鉄のゴーレムが百体ぐらい入っておったな。こいつらを【ドエリャア拡大】すれば、オーガやワイバーンなぞ蟻やハエみたいにぺしゃんこにできたかもな。いかんなぁ年をとると物忘れが……」
「そ……、それをはやく言え~~~~!」
ナインは大小様々の、生命、精神力補充、そして筋力、敏捷、耐久力向上のポーションの瓶を耳、鼻、口はもちろんケ○の穴にまで差し込むと、太古の都の中心部で行われた豆まきのように、縮小されたゴーレムをまき散らした。
「へめぇらみんふぁ! きゅそっちゃれじゃぁぁ!」
ナインによって【ドエリャア拡大】された鋼鉄のゴーレム達が、《タケノコ種族》のようにあっという間に膨張し、結界に包まれたラハ村と糞騎士、そしてナインをまるで地面に生えた赤玉キノコと、それにくっつくブヨのように見下ろした。
膨張する鋼鉄の巨人。
彼らは、その存在だけでドエリャア暴力であった。
ただ歩き回るだけでも、魔物達はアリのように踏みつぶされ、
腕や手を振り回すだけでも、飛行魔物がハエや蚊のように粉砕され、
さらに、次から次へと地上へ降り注ぐ糞の城ですら、巨人達は砂山を壊す子供みたいに、その腕や足、頭や羽根であろう部位を潰し、ぶった切り、引きちぎり、そして、踏みつぶしていった。
「ひゃっひゃっひゃ! いいぞ! やれやれ! ぶっ潰せ!」
ナインは結界の上であぐらをかきながら、糞騎士の小樽の酒を口に含み、これ以上ない殺戮ショーを大笑いしながら眺めていた。
しかし糞騎士は、そんなナインを全く気にかけず、黙って
そんな糞騎士に向かってナインが声をかける。
「どうやら勝負あったみてぇだな。……そういえば、今のでどれくらい”アデルの糞”を倒したんだ?」
「……ようやく一千万匹と言ったところか」
「は! はひぃぃぃ!」
「言っただろうが! 今のが”先発隊”だと!」
「で、でもよ、あの鋼鉄のゴーレムがあれば、も、もう俺たちの勝ちは見えたんじゃ……」
珍しく狼狽するナインに、糞騎士は非情な一撃を放つ。
「自分が糞をする時を思い浮かべてみろ! 貴公はウサギの糞のような、あんな小粒程度の糞を毎日ひねり出しているのか?」
「じ、じゃあ……こ、これから、《本体》が?」
「貴公の糞の事情までは私にはわからんが……おそらく、“最初の踏ん張りどころ”が、《第二波》として、今まで漏らされた分量が一気に降り注ぐだろうな」
「な……な……」
もはや言葉にならないナインの悲鳴。
それを代弁するかのように、ラハ村周辺の空が、大地が、風が絶叫する。
とてつもないモノの襲来に、せめて
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