ナゴヤ斬り! シテマス
「なにをボサッとしている! そこの一角だけマ物達が突進してくるぞ!」
糞騎士が指摘した場所は魔物が数十体横に並び、さらに縦に数十列、パイ皮みたいに積み上がった陣形で結界に向かって
”ずっずっずっずっ! ずっずっずっずっ!”
と地響きを立てながら突進してきた。
「ぐだぐだ言うんじゃねぇ! わざとこうしたんだよ! ちまちま倒すのは俺様の生に合わねぇからな、まとめてぶっ倒してやる! おい糞騎士! ナイン様流の手抜き攻撃をその眼でとくと見やがれ!」
魔物の隊の先頭が結界に到達し、いままさに武器を振り下ろそうとしたところ、
「これで”終わりだ~! 斬り!”」
叫ぶな否や、ナインの腕は結界の弧に沿って振り払われると、光の糸でつながれたドエリャアクラスの武器達が、結界の目の前の魔物を一掃した。
だが再び後ろの列が前に出てきて、同じように結界に対し武器を振るやいなや、
「終わりだ~! 斬り!」
「終わりだ~! 斬り!」
「終わりだ~! 斬り!」
振り払った腕をまるで振り子のように戻し、返す刀で魔物の列を一掃した。
魔物達が一歩進むごとになぎ払われるその光景を見た糞騎士は、
「あ、あれは! 太古に存在した、《
糞騎士は魔物への攻撃を止め、ナインの攻撃に見とれていた。
「し、しかもその”ドエリャア攻略奥義”……一瞬で七百五十八匹の異界天使を倒すと言われる通称、《終わり七百五十八匹斬り》!! す、すばらしい! よもやこの世界でその技を間近で見られるとは……」
感涙と感嘆の声でむせびながら、糞騎士はナインの攻撃を絶賛した。
「よかろう! これほどの技を
「なに訳のわからねえことをぐだぐだと!」
ナインが怒鳴りつけるのも気にせず、糞騎士は遠くから襲来してくる、炎に包まれたワイバーンの群れへ向かって金のチャクラムを掲げると、勢いよく回転させながら、
【……
【……
【……
と詠唱を奏でると、金のチャクラムの周りに”二十一”の水の球が現れ、そして”観覧車”みたいに回転し始めた。
そして一際大きい声で、
「【
と唱えると、二十一の水球から鉄砲水のごとく水の槍が放たれた。
圧倒的水流によって、ワイバーンの体全体を覆う炎はあっという間に”
「よしこれで三百匹分は稼いだな。次は十五回目だ!」
「いい加減にしやがれ!」
「怒鳴っている暇はないぞ! そろそろ、《先発隊》がくる!」
糞騎士の叫びと同時に天の震えとも言える風の振動を、ナインは体全体で感じていた。
”ピー”
”グォログォロ”
”ギュルギュル”
とあちこちで空気が引き裂かれるような音が、魔物達の咆吼すらかき消していた。
「けっ! ようやく“現物”のお出ましか!」
ナインの叫びと同時に、空が避けるほどの《マハーカーラ》の悲鳴が響き渡り、そして無数の、《門》は開かれた。
そしてゆっくりと”湯気のような”瘴気や妖気をまとった”糞”が出現した。
”ボトボト”と、千、いや、万単位の魔物の塊で現れたそれは……
おお! まさに地表に降臨した”野糞!”……としか言いようがなかった。
「おい……あれ?」
ナインは気が抜けた声で、目の前の光景の理由を糞騎士に尋ねた。
ナインが指さすそれは、魔物達が互いにくっつきあい、正に糞団子と化していた。
さらに地面の方の魔物は重さで徐々につぶれ始め、汚らしい肉片と血しょうを辺りにまき散らしていた。
「うむ、貴公の思うようにまさしく糞の山だな。おそらく同一座標で現れたから互いの骨肉がくっつき、さながら
「うわ~! 何か夢にでそうだぜ……」
それでも、魔物の強靱な生命力なのか精神力のせいなのか、千や万単位近くの魔物の糞団子、いや、もはやスライム化したモノの中で激しい”意識の生存競争”が起き、それに打ち勝った魔物の魂が他の肉や骨を支配し、己が望む体へと変貌していった。
「うぇ~気持ちわりぃ~
「ふむ城か……なら攻城兵器ならあるが?」
「なんでそんなモン持っているんだぁ!」
「私の趣味だ! 貴公にとやかく言われる筋合いはない!」
「いいからとっとと出せや!」
糞騎士は袋に手を突っ込むと、ラハ村の結界周りにバリスタ、カタパルト、マンゴネルをばらまき、【解呪】の魔法で元の大きさに戻した。
「どうするつもりだ。たとえ【拡大】して撃っても肉の壁に阻まれるだけだぞ」
「おれにまかせときゃ~! 全部”
糞騎士に向かって親指を立てたナインはバリスタやカタパルト、マンゴネルに自分の”糸”を絡めると照準を肉の塊に合わせ、一斉に引き金を引いた。
「【ドエリャア加速】! いっけぇ~!」
矢や岩が飛んだ瞬間、ナインの魔法によって超音速に加速された矢や岩は、先端を摩擦熱で燃え上がらせ、周囲には地表を削り取る衝撃波を発生させた。
矢や岩から発生した無数のかまいたちは、例え触れなくても周囲の魔物の体をなぎ払い、あっという間に風の刃で切り刻み、肉片と血を辺りにまき散らした。
そして矢や岩は竜の咆吼炎のごとく燃え上がり、糞の城の表面に触れるやいなや、瞬時に蒸発し大穴を開け貫通し、爆発するように肉片が爆ぜ、血の雨をまき散らした。
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