魔物園、シテマス

 ナインの合図に呼応するかのように、一、二、四、十二、四十八,二百四十、千四百四十と、フランの屍回収契約金表のように、多くの魔物が辺り一面に漏らされていた。


「なるほど、”喰ったモノは喰った場所で漏らす”か。都合がよすぎるが、確かに魔物を取り込んだまま、天界とやらで漏らされては大騒ぎになるからな。神とやらは上手に作ったもんだ。おい糞騎士! 一応聞いておくが、アデルはどのくらい漏らすと思っているんだ?」


「ざっと、《七千九百八十三万三千五百八十八匹》……だと思う」


「さらっと、どこかで聞いた数字を吐き出すんじゃねぇ!」


「安心しろ! 一気に噴出すれば、《門》が破壊されるから断続的にだ。もっとも、貴公が少年の門を”拡張”していなければな……」

「てめぇも、キフジンの信徒かぁ!」


 そんな糞漫才にお構いなく、もうすでに”標的”であるアデルは一年以上前からヤゴの街にいるのに、魔物の大軍は当時の記憶や命令のまま、ラハ村へと向かっていった。


 地上からはコボルト、ゴブリン、オーク、オーガ、ミノタウロス、サイクロプス、ヒドラ……。

 空からはハーピー、ピポグリフ、グリフォン、マンティコア、ワイバーン等。

 その光景は動物園ならぬ魔物園と言っても過言ではなかった。


「なるほどねぇ。まぁバンパイヤやレイス等のアンデッドや、ジンやイフリートとかの精霊がいない分だけまだましかぁ……。そういえばラガスやヘルウルフ、カオスベアやブラックアナコンダとかもいないか?」


「魔神達にも派閥があってだな。さっきのお伽話に出てきた人の大地を奪おうとしたのが、目の前のマ物達のいわば神だ。あの少年は精霊やアンデッド系、そして自然の摂理に反するから動物系も取り込めないのだ」


「なるほどね。道理で狭間の谷でカオスベアやブラックアナコンダが取り込まれずにうろついていたわけだ」


「だから、《精霊界の貴婦人》や、《冥界の暗黒女王》はこの件には”不感症”、ん、この言葉でいいのか? ……を決めている。あの少年によってマ神の勢力が弱まれば彼女達にとってそれはそれでいいからな」


「でもよ~魔神ならそれこそ眷属の悪魔達がよりどりみどりだろ? そいつらは?」


「”ドエリャアドエリャア巨大なモノ”すら取り込むんだ。マ神自らどころか、多少知恵が回る眷属が出張でばってこないのはそのせいだ」

「魔神って言っても案外、《小心者》なんだな」


「……もっとも、そのマ神とやら、実は眷属や同族はもとより、友人もいない”ぼっち”で、しかも何十億年も”引きこもり”をしているという噂を聞いたことがある」

「……なんか、いろいろと大変そうだな。ん、ありゃなんだ?」


 ナインが指さすところには何人、いやかなりの人間らしきモノが周りの魔物共から逃げ回り、時には食べられたりした。


「満月に襲ってきた狼男などのライカンスロープ達が、新月の今になって元に戻ったんだな。まぁここで、《人》として喰われて冥界に落ちた方が、彼らの魂にとっては幸せだろうな……」


 あらゆる能力の魔物が一堂に会したことにより、ラハ村周辺は魔物達による乱痴気らんちき騒ぎへと変貌していた。

 例えば、バシリスクやゴーゴンが現れると、近隣の魔物が石化したり、

 インプがオーガの足で踏みつぶされたり、

 オーガとミノタウロスとサイクロプスとトロールがトーナメントを組んで地上最強を決めたり、

 そこへフンババが乱入してバトルロイヤルへと舞台が変わったり、

 ピポグリフの尻を見たグリフォンが、”授かりの儀式”を強要し追いかけ回していた。


 そして彼らは何年も、中にはアデルがラハ村で拾われて最初に取り込まれて以来、十数年も何も食べていないのか、ワイバーンはハーピーを、ヒドラは十本以上ある首で地面にいるオークやコボルトを手当たり次第食べたりと、当初の目的を忘れて魔物の世界の食物連鎖の法則が始まっていた。


「なぁこれ、なにもしなくても勝手に共倒れになるんじゃねぇの?」

「連鎖の頂点に近づくほど強力になる。腹がふくれれば奴らは目的を思い出すぞ!」


 糞騎士の言葉通り腹がふくれ、生き残った魔物達が徐々にラハ村へと歩みを始めていた。

 今はもういない、《ゲテモノ喰い》のギフテッドを持つ、アデルという名の少年を亡き者にするために……。


「へへ、雁首がんくびそろえて来やがったぜ! おい! 糞騎士! そろそろおっぱじめるか! 《ドエリャア糞踊りDANG DANCE》をよ!」


 ナインは【ドエリャア拡声】の魔法を自らの口に向かって唱えると、その口を天へと向け、大きく息を吸い、肥だめのような口から下痢便のようなダミ声をラハ村一帯にまき散らした。


『さぁ~! こいやぁぁぁぁ~! 《アデルの糞共》おぉ~!』

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