ゴーレム再戦、シテマス

「すごい! すごい!」

「ねぇ? 特訓ってどんなことするの?」

「その師匠の人、学園の教官よりも怖い?」


 突然、黄色い声と女の子の匂いに包まれたアデルは、頬を染める暇もなく、ただただ狼狽していた。


 当然、おもしろくない他の男子達。

 嫉妬を含ませた声でアデルに声をかける。


「じゃあさ、アデル。その特訓の成果ってヤツを、俺たちにも見せてくれよ」

「え?」

 突然の”依頼”にアデルは固まるが、


「見たい! 見たい!」

「ゴーレムなんかやっつけちゃえ!」

と、黄色い声達は、油を注いだように、より燃え上がった。


「じゃあ……」

 アデルは仕方なく剣を手に取り、闘技場へ向かうが


「あ、そうだ! ちょっと待ってて!」

 アデルは慌ててカウンターへ向かう。


「すいません。コインを両替して下さい」

「ああ、いいよ。レベル四のコインならいくらにする?」


「ん~レベル一が二枚と二が一枚で」

 戻ってきたアデルに同級生達が尋ねる。


「なんだよ。コインも持っていないのかよ?」

「いや、その人にもらったコインが全部レベル四だから、両替してもらったんだ」

 アデルは袋の中身をみんなに見せた。


「「「「「ええ~!」」」」」

 呆然とする同級生達を尻目に、アデルは闘技場の中に入る。


「なんでいきなりレベル四のコインを?」

「やっぱり師匠の人、すごい厳しいんだ!」 

 そんな女子達の囁きも気にせず、アデルはゴブリンタイプのゴーレムに、レベル一のコインを入れた。


「じゃあ、レベル一で」

 息を整え、剣を構える。


 アデルの体は以前とは違い、すぐさま戦闘態勢へと移行する。

 結界が張られ、ゴーレムの目が光ると、棍棒を持ちながらアデルに向かってくる。


”鍛錬ではない!戦い!”

と、アデルの体はすぐさまゴーレムへ向かって跳ぶ。


 素早く放たれた棍棒の一撃をかわすと、教官やボーアの教えを瞬時に体の隅々まで伝えたアデルの体は、鋭い剣の一撃をゴーレムの脳天に浴びせた。


「「「「「おお!」」」」」

 澄んだ音と同時に、同級生の歓声が鍛錬場に響き渡る。


 そして、糸の切れた操り人形のように、関節の力がなくなり、崩れ落ちるゴーレム。

 結界が消えると、何事もなくゴーレムは元の場所へと戻っていった。


「あれ? もう終わり?」

 あっけなく終わった戦いに、先週と同じだが、違う意味の言葉が、アデルの口から漏れる


「すっご~い!」

「ゴーレムを一撃で!」

「ええ? レベル一でもあんなに動きが速いの?」

 黄色い声はさらに燃え上がった。


「へぇ~、あの子やるじゃない。この前はボロボロだったのにね」

 カウンターの婦人も思わず感心した。

 そこへ、二人の来客が現れる。


「こんにちわ~」

「オーガのゴーレムの準備は出来ていますか?」

「あら、サティちゃん、シナン君、いらっしゃい。この前フランさんが調整してくれたから、準備は出来ているよ」


「あ~! あの子達! こんなところで油売って~」

 サティの目と声が、黄色い声を発している見習い達へ向けられる。


「どうやら久しぶりに同級生に会ったみたいだからね。大目に見てやってよ」

 婦人の嘆願に、サティの怒りは落ち着くも


「あれ? 今、闘技場にいるのって……アデル君?」

「え?」

 サティの声に、シナンも闘技場へ振り向いた。


「おや、あの子知り合いかい? なかなかいい腕しているよ」

  そんな二人の耳に、同級生の男子の声が届く


「ま、まぁ、こんなもんだな。おいアデル! 今度はレベル二でやってみろよ」

「うん。わかった」


「へぇ~。卒業したてでレベル二のゴーレムに挑むなんて、アデル君も意外と洒落臭しゃらくさいわね」

「こらこら」

 顎に手を当てにやけるサティを、シナンはたしなめた。

 

 しかしアデルの動きは、二人の予想を超えていた。

 次々放たれる棍棒の撃を難なくかわし、時には受け止めるアデル。


 さすがに一撃で、とはいかないが、アデルの振り下ろす剣は、着実にゴーレムにダメージを与えていた。

 そして先ほどと同じように、力が抜け、崩れ落ちるゴーレム。


「ふぅ。やっぱりレベル二って動きが違うな。でもレベル四に比べたら」

 結界が解除された闘技場で、わずかな息を吐き出したアデルに、同級生達の言葉はなかった。


 それを見たシナンの顔が、一瞬険しくなる。

 それに気付くサティ。


 しかしすぐさま笑顔になり

”パチパチパチパチ”

「すごいじゃないかアデル君。一撃ももらわずに倒すなんて」

「アデル君、やっとかめ!」

 拍手をしながら歩み寄るシナン。笑顔で挨拶するサティ。


「「シ、シナンさん! こんにちわ!」」

 直立不動の姿勢をする男子達。

「君たちは青狸の団の子達だね。やっとかめ!」

 笑顔で挨拶するシナン。


「「「サ、サティ先輩!!」」」

 恐怖に顔が引きつる女子達。

「こら~あんたたち~。日曜だからと言って、男の子と遊んでいる暇はないのよ~」

 顔を前に突き出し、妖しく顔を歪めるサティ。


「こんにちわ。シナンさん、サティさん!」

 さすがに”やっとかめ!”は馴れ馴れしいからと、アデルも同級生に習って、普通に挨拶を交わした。


 しかし固まる同級生達を見てシナンに尋ねる。

「シナンさん。二人を知っているんですか?」


「ああ、僕たちフリーの冒険者は、時々、旅団の新人君を教えることもあるんだ。旅団にお仕事が入ると、なかなか新人の面倒まで見きれないからね」

「へぇ~!」


「それより見せてもらったよ。レベル二のゴーレムを倒すなんてなかなかやるじゃないか。体つきもこの前よりもたくましくなったし」

「あ、ありがとうございます!」


 卒業してから初めてだろうか、冒険者として誰かに褒められたこと。

 アデルは純粋に、笑顔でお辞儀をする。

 それを見たシナンは、わずかににやけながら


「アデル君。せっかくだから、僕と手合わせを願えるかな?」

「はい! ……ええっ!」

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