同窓会、シテマス

 ”パン屋戦争”もカッペラが言ったとおり、各旅団の新人達が手伝いに向かった為、アデルの仕事も夜明けからパンを焼き、その後明日分をこねるだけで済み、昼食用のお客が収まると仕事を終わることができた。

 時折、ザールの店で薪割りを行い、そうでない日は鍛錬の時間へと費やしていた。


「もう、いいかな」 

 次の日曜日、準備運動をしながら体の痛みがないのを確認したアデルは、再びゴーレムに挑むため。組合の鍛錬場へ向かった。


「行ってきます!」

「おう、いってら~」

 未だイネスからの傷が残るナインについて、アデルはあえて何も聞かなかった。

 

 組合の地下に降りたアデルを待っていたのは、かつての同級生達だった。


「お、アデルじゃねぇか! 久しぶり!」

「ば~か。いつまで学園気分なんだよ。ここは、やっとかめ! だろ」


「あ、ひさし……やっとかめ!」

 初めて冒険者用語を口にしたアデルは、どことなく照れくさそうであった。


 挨拶を交わしたあとは、当然、卒業後の進路の話に移る。

「そう言えばアデルってさ、どこの旅団に入ったんだ? 姿を見かけないから、てっきり故郷のラハ村へ帰ったかと思ったぜ」


「あ……うん」

 路上生活しているのを見られていない安心と、とうとうその話しが来てしまったかと、アデルの顔は複雑の表情を浮かべる。


 そこへ黄色いさえずりをかわしながら、かつての同級生であり、魔術師見習いの女子三人が鍛錬場に降りてきた。

 それを笑顔で婦人が出迎える。


「「こんにちわ~」」

「魔力コインを持ってきました~」

「おや、いらっしゃい。お疲れさま」


 かつての同級生、しかも女子の一団が来たとあって、同級生二人はついつい、髪を整える。

 アデルも卒業以来、ろくに整えていない髪の毛に、思わず指を入れた。


「あ、みんな! 久しぶり!」

「こらこら、そこは、やっとかめ! でしょ!」

「やっとかめ!」

 男子と同じやりとりをかわしながら女子三人は、アデル達男子に笑顔で声をかける。


「ひ、ひさしぶり、いや、やっとかめ!」

「や、やあ! やっとかめ!」


「や、やっとかめ!」

 アデルも緊張しながら、ぎこちなく挨拶を交わす。


 そんな女子達に、男子の一人が尋ねる。

「なぁ? なんで魔術師のみんなが、組合の鍛錬場に来ているんだよ?」


「ここのゴーレムで使う魔力コインって、うちら見習いの魔術師が魔力を注入しているんだよ」

「「「へぇ~!」」」


「見習いは憶えることが多すぎて、クエストとかやっている暇はないからね」

「いわばお小遣い稼ぎ! だからじゃんじゃん! コインを使ってね!」


 それを聞いた男子の一人が、袋から出したコインを鼻に近づける。

「……って! 何、匂いを嗅いでいるのよ!」


「い、いやぁ。つい……いてっ!」

 匂いをかぐ男子の頭を一人の女子が魔術杖でこづく。

 その音を合図に、辺りに笑いの花が咲き乱れる。


 久しく味わっていなかったこの感じ。

 卒業式以来だろうか、アデルもつい、ごく自然に顔が緩んでくる。

 

「そういえば、みんなって、どこの旅団に入ったの?」

 その言葉に、再びアデルの心が緊張で堅くなる。


「うちらさ、卒業式が終わってすぐ、研究所へ移動して入所式をしたからさ」

「誰がどこの団に入ったのか、全く知らないの~」


 その言葉に、すぐさま同級生の男子達が胸を張って答える。

「ちなみに俺らは、《青狸あおだぬきの団》に入ったんだぜ!」


「そ、そう……すごいね」

「聞いたこと……あるような」


 返答に困る女子達。

 すぐさまアデルに話を振った。

「ア、アデル君は、どの旅団に入ったの?」


「え……ぼ、僕は……」

 思わずうつむくアデルに向かって、ある女子が追い打ちをかける。


「そう言えばアデル君って、広場で寝泊まりしているんだよね?」

「「「「「えっ!」」」」」


 アデル、そして周りのみんなも同じ声を吐き出した。

 みんながアデルに注目する。


 覚悟を決めて、顔を上げて、アデルはみんなに向かって口を開く。

「……うん。そうだよ。あと、旅団にも入っていないんだ」


「やっぱり~! 前に広場で見かけたんだぁ!」

「ん? アデル、それってどういうことだよ?」


 何も隠すことはない。

 何を聞かれても答えようと、堂々とした顔を皆に向ける。


 金色犬鷲の団のクエストに失敗したことも。

 ……死んで、蘇生されたことも。


 しかし、女性というものは、こちらが言おうとしたことまで代わりに話してくれるものだ。


「ほら! いつだったか……大先輩のサティさんに連れられて、あたし達がここに挨拶に来た時ね。あたし、広場にアデル君がいたのを見つけたんだ」


「ああ~、あの時!」

「てか、あんた、よく見つけたわね。あたしはサティさんの前だから、ものすごい緊張していたのに……」


「それで、あとでサティさんに聞いたんだ。あそこにいたのは冒険者学園の同級生の男子だって!」

 独壇場になったアデルについての話を、当のアデルすら、固唾をのんで聞いていた。


「そうしたらサティさんが教えてくれたの。アデル君の横にいた人は、旅団の団長さんも一もく置く凄腕の冒険者の人で、アデル君、その人に弟子入りしたんだって!」


「「「「ええ~!」」」」

「本当かよ!」

「たまたま、横にいたんじゃないのかよ!」

 なぜかアデルではなく、話しをしている女子に聞く男子達。


「本当だよ! そう言えば先週の日曜日って、アデル君、たんこぶや痣だらけでボロボロになっていたよね? あれって、隣にいた師匠の人に鍛えられた後なんでしょう? すっごい剣幕で、お説教されていたしぃ!」 


(ひょっとして、ナインさんに”はめられて”、レベル四のゴーレムにボロボロにされた時のことかな? 確かに、いろいろと教えられたし、鍛えられたとも言えなくは……)


 思わぬ展開に、アデルは特に澄ましたり、格好つけるつもりはなく、ぽつりと呟いた。


「まぁ……そんなところ、かな」

「「「「ええ~!」」」」

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