点検、シテマス
その夜、冒険者組合の地下の鍛錬場にはフランと組合の主人の姿があった。
「フランさん、ゴーレムの点検お疲れ様です。お願いしますよ」
「ご主人、後は儂に任せて休まれるがよい」
フランはゴーレム一体一体に杖で”コンコン”と叩きながら呟いていた。
「ん? 《魂》がえらくすり減っておる? ……誰じゃ! ゴブリンのゴーレムにレベル四のコインを入れた、をたんちんは!」
フランは、アデルが戦ったゴーレムに向かって怒鳴りちらす。
「おまけに《魂削りの武器》でめちゃくちゃ殴りおって! 仕方がない、こいつは”消滅”させて、新しいのを宿さなくてはな……」
フランの体が光ると、胸の谷間から《分厚い帳面》が浮かび上がり、顔の前で開かれた。
「《太古神歴》……ゃく二十年代は使い切ったか……。あとは三十年代……おお! ガキの時に集団で暴力を振るい、何人か
フランは記憶をたどるように、鍛錬場の天井を仰いだ。
「……確か他の亡者を押しのけてまで先に《川》を渡ったり、《
だが男では強すぎ……女の仲間もおったのか! 女の魂ならゴブリンにぴったりじゃ! しばらくは魂に困ることはないな」
フランが杖を振るい、【
続けて【
「……おっと、そう言えばシナンのヤツがオーガタイプのゴーレムを使いたいと言っておったな。
《力》、《素早さ》、《耐久力》
オーガなら、それぞれに秀でた《魂》を《何個》も宿さなくてはいかん。
こりゃ今夜は大仕事じゃな……」
※
「ア、アデル君! そ、その顔!」
「ハハ……ちょっと、鍛錬を張り切りすぎました」
月曜日、たんこぶや痣だらけのアデルにイネス達はびっくりし、治療の為に蒼き月の神官を紹介すると心配したが、アデルは自己治癒力向上も鍛錬のうちだと遠慮した。
その夜、滝の山脈亭で《”青玉”キノコのクリームパスタ、ナインスペシャル》を食べ終わったナインの耳に、女性の声が届く。
「ナインちゃ~ん、ちょっと、お姉さんとぉ~遊ばない~」
店の入り口から届けられた声の主はイネスだった。
肩を出し、ナインを誘惑するかのように”しな”を作るイネスの姿に、ナインはきょとんとして
”俺?”
と自分で自分を指さした。
だがすぐ言葉の意味を十二分に理解すると、”にたぁ~”といやらしく顔が崩れた。
そして若い店員に多めの代金を払うと、すぐさま飛びあがるようにイネスの後をついて行った。
「おいナイン! 女将をたぶらかすなんてどんな手を使ったんだよ!」
「てめぇ! 明日からヤゴの街にいられると思うな!」
「女将にフラれて肥だめに落ちやがれ!」
他の冒険者のヤジを背中に心地よく感じながら、ナインはイネスの肩にゆっくりと手を回した。
※
「……い、いきなり、お、女将から”壁ドン”してもらえるなんて、お、男冥利に尽きるねぇ……」
蒼白の結界が張られたパン屋の裏では、蒼白の闘気を噴き上がらせた
《ヤゴの街(蒼き月の教団、聖騎士指南役含む)最凶!》
の”隠し二つ名”を持つイネスが、ナインの顔の横に片手をついて、無言でナインを問い詰めていた。
観念し、アデルへの”策略”を白状したナインが、アデルよりも酷いたんこぶや痣を全身に刻み込まれるのは、いくらナインが冒険者でも抗う事ができない運命であった。
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