第一ラウンド、シテマス

”カ~~~~ン!”


「うおおぉぉぉ!」 

 ゴーレムの鐘の合図に、咆吼を上げながら一直線に突進するナイン。

 素早い拳と重い拳を組み合わせながら、ウッゴ君に向けて拳を繰り出す。


 片やウッゴ君は華麗に拳を避け、ナインの懐に入ろうとするが、ナインも巧みに足を使って距離をとった。


(へっへ! 腕の短いお前は、俺様の懐に飛び込むしか、勝つ方法がないからな……そして、それが命取りだぜ!)


 ナインの拳をかいくぐり、懐に飛び込むウッゴ君。

 ナインは一瞬後ろに下がるが、すぐさま前に出た。


「もらったぁぁ!」

 体重と、前へ飛び込むスピードを加えたナインの拳は、懐に突っ込んできたウッゴ君の顔面をとらえた。


”ボカーン!”


 ナインの拳を食らったウッゴ君の体が、後ろへと飛ばされる。

 背中からロープにぶつかり、反動で”ペタン!”と前のめりに倒れた。


「よっしゃぁぁ!」


 ナインは白い杭に体を預けると、片腕を高々と揚げる。 


 これで終わりかと、呆然とする観客。

 セコンドのウッゴちゃんが、”バンバン!”とリングの床を叩いていた。


 ボーアのカウントが開始される。

いち…………さん……よん


「ゴルァ! ボーアの爺! もっと”ちゃっちゃ”と数えろ!」


『うるさいぞい! こんなことは初めてだからぞい! えっと……どこまで数えたぞい? 三……四……』

「おい! 戻しているんじゃねぇ!」


 体が震えながら、何とかウッゴ君は立ち上がった。


「さすがだぜ! よ! 不死身の男!」

「がんばって! ウッゴ君!」

「ナインのろくでなしをぶっ飛ばせ!」


『ウッゴ君! ウッゴ君! ウッゴ君! ウッゴ君!』


 老若男女、会場全てからわき起こるウッゴ君コールが、広場のみならず、ヤゴの街すべてに響き渡った。


「てめぇら! 一人ぐらい俺を応援しろ!」

「ぐわっはっは! 安心しろナイン! 俺は応援しているぞ!」

 リングの下からハイイログマの分厚い声が聞こえてきた。


「へ! 持つべきモノは、ってヤツだな!」

「ああ、俺はどっちが勝っても損はしないからな。がっはっは!」

「この糞野郎! あのガラクタをぶっ潰したら、次はてめぇだからな!」


『はじめるぞい!』


 ボーアの掛け声で、試合が再開される。

 ダメージがあるのか、ウッゴ君の体がまだ震えていた。


(けっ! ”ふかし”こきやがって! あいつ、俺の拳が当たる瞬間、後ろにジャンプしやがった! ……だからって、無傷って訳じゃねぇ! 一気に行くぜ!)


 再び、ナインの拳がウッゴ君を襲う。

 ウッゴ君は何とかかわすも、その動きは鈍っていた。

(馬鹿ならぬ、ゴーレムの一つ覚えってか? 悪いが潰させてもらうぜ……)


 ナインはわざと隙を見せ、ウッゴ君を誘う。

 ナインの懐に飛び込むため、ウッゴ君の体が一気に前に出る。

 そのタイミングに合わせて、ナインの拳がウッゴ君の顔面を狙う。


「これで終わり……だ……あ……ああ?」

 信じられない光景にナインの眼が見開く。


(なんで……俺の顔の前に……あいつの拳……がぁぁ……)

「ぐはぁ!」


 ウッゴ君と違い、ナインはウッゴ君のカウンターを、その顔面でまともに受け止めた。

体を弓なりに反らしながら、ナインの体が宙を舞う。

 まぶたの隙間から見えるウッゴ君の右腕は、倍近くに伸びていた。


(こ……の……糞……野郎……)

 リングの中央で大の字に倒れるナイン!


『うおぉぉぉ!』

 観客の大歓声がリングを包み込む。

『一、二、三、四……』


「ゴルァ! 糞爺い! さっきより速いじゃねぇか!」

『お前が遅いと言ったから速くしたぞい! えっと、どこまで数えたかな。六……七』


「数を飛ばすんじゃねぇ!」

 慌ててナインが立ち上がると、再びボーアに怒鳴りつけた。


「おい! コラ! なんでこいつの腕が伸びているんだよ! 反則じゃねぇか!」

『フム……別に、腕を伸ばしてはイカンとは言ってないぞい。ゴーレムだから”からくり”があるのは当たり前ぞい!』

「な! なにぃ!」


「そうだそうだ! いちゃもんつけるんじゃねぇ!」

「ケツの穴の小さい奴め!」

 今度はナインに対してブーイングの嵐が起きる。


(糞! 反則を確認したときに、こいつがにやけていたのは、”とっておき”を隠していたからか……)

「ああ、わかったわかった! もういいよ」


”カン! カン! カン! カン!”


 第一ラウンドが終わり、二人はコーナーへと戻った。

 ハイイログマがナインに椅子と水袋を差し出す。


「ぐわっはっは! ウッゴ君もなかなかやるじゃねぇか! おめぇさんからダウンを奪うなんてな!」

「け! あんなからくりごときに、次はやられねぇよ!」


 ウッゴ君が座る赤い杭の前では、椅子に座ったウッゴ君の頭に、ウッゴちゃんがじょうろで水をかけている。

 やはり木製ゆえ、水を浴びたウッゴ君に、力が戻っているように見えた。

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