第二ラウンド、シテマス

”カ~ン!”


 第二ラウンドは真っ向勝負となった。

 リングの中央で、二人は打ってはかわし、打ってはかわしの攻防戦を繰り広げる。

 

 ナインの連撃を、ウッゴ君が左右に避ける。

 腕が伸びるフェイントを織り交ぜながら、ウッゴ君が左右に回り込んだり、懐に突っ込んだりして、ナインの脇腹やみずおちを狙う。

 それをナインは距離をとり、リングを華麗に舞いながら、左右からウッゴ君に拳を打ち込んだ。


「いけいけ!」

「打ちまくれ!」

 観客も興奮して腕を振り回し、足を鳴らす。


「ヘルムド君、後ろのやぐらは大丈夫かね? 壊れでもしたら……」

 保健省の支部長が、給士をしているヘルムドに尋ねるが

「どうぞご安心下さい。倍の人間が乗っても崩れないように造ってあります」

 そう役人に向かって微笑みながら、恭しく礼を返した。  


 ウッゴ君は相変わらず、腕を伸ばす攻撃を、フェイントを織り交ぜながらナインに近づく。


(ようやくパターンが読めたぜ。……腕を伸ばすと、どうしても重心が前にいくから、伸ばした腕と同じ足を前に出して踏ん張らないといけねぇ)

 

 ナインの思惑通り、ウッゴ君の足はフェイントの時はそのままで、腕を伸ばす時は腕と同じ方の足を前へ出していた。


(さらに、伸ばした腕を元に戻さないと、次の攻撃ができねぇ。バランスを崩して倒れちまうからな。……だから、両腕同時には伸ばすことも無理!)

ナインの顔が妖しく微笑んだ。


(からくりがわかれば、こっちのもんだ!)

 伸ばしたウッゴ君の左拳をかわすナイン。

 すぐさま左腕が縮む。


 その速さに合わせて、ナインは己の体と右拳を前へと跳ばす。

「くたばりやがれ!」


 すぐさま、ウッゴ君は右腕で自分の顔をガードするが

「甘ぇ!」


 右拳を止めたナインは、今度は左拳を振り子のように地を這いながら、ウッゴ君のボディーへめがけて突き上げていった。


”ボゴーン!”  


 拳が腹に食い込み、ウッゴ君の体が一瞬、宙に浮く。

 そして”ポテッ!”っと尻餅をつきながら背中から倒れた。


「よっしゃあぁぁ!」

 片腕を上げ、白い杭へ歩むナイン。


『ウッゴ君! ウッゴ君! ウッゴ君! ウッゴ君!』


 ダウンしたウッゴ君に、観客からコールが沸き起こるが

(へ! 今度はジャンプする暇を与えなかったぜ)


「一……二……三……」


(ボーアの爺! またゆっくりと! ……いかんいかん、ここで俺様が文句を言うと、かえってあいつを休ませちまう。王者は堂々としていればいいんだ)


 ふらふらになりながらも、カウント八でようやく立ち上がるウッゴ君。

 その体はナインの目から見ても、あきらかにダメージを抱えていた。


『はじめるぞい!』

「ここで一気に決めてやるぜ!」


 猛獣のようにウッゴ君に突進するナイン。

 ウッゴ君のフラフラな体に向かって、ナインは怒濤の拳を浴びせる。


「くそ! うまく当たらねぇ!」

 ボディーをやられた為フラフラなのが、幸運なことにかえってナインの的を絞りにくくしていた。

 

「フランさん、ウッゴ君大丈夫かしら? もうフラフラよ」

 イネスが心配そうにフランに話しかけるが

「まぁ見ておれ。儂のゴーレムは、倒れてもただでは起きぬからのぅ」

 

 倒れそうになりながらも、拳を繰り出すウッゴ君。

 その悲壮な姿に、観客から放たれるウッゴ君コールは、さらに盛り上がる。


(へっ! お前への応援も、もうすぐ静かになるぜ!) 

 ウッゴ君の拳を華麗にかわすナイン。

 勢い余ってたたらを踏むウッゴ君。


「もらったぁ!」

 体を跳ばし、ウッゴ君の側頭部へ拳をたたき込むナイン。


”ドスン!”


「ぐはぁぁ!」

 しかし、ナインの口から悲鳴と唾液が吐き出される。


『おおおぉぉぉ!』

 ウッゴ君の攻撃に、どよめく観客。


「て、てめぇ……あ、味な真似を……」

 たたらを踏んだかのように見えたウッゴ君。


 実は、横に倒れないように両足で四股を踏み、真横から襲ってくるナインの腹に向けて、腕を伸ばして拳を叩き込んだのであった。

 先ほどのウッゴ君と逆に、ナインは腹を押さえながら前のめりに倒れた。


「いやったぁぁ!」

「さすがだぜ! ウッゴ様よ!」

「すごい! すごい! ウッゴ君!」

 特等席のイネスも興奮して、飛び上がるようにウッゴ君の名前を叫んでいた。


「糞ったれ! これしきのことで……」

 カウント七で何とか立ち上がるナイン。


”カン! カン! カン! カン!”


 第二ラウンドが終わり、二人はフラフラでコーナーへと戻る。

 椅子に座ったナインは、ダメージが積み重なっているからなのか、無言でうなだれていた。


 ナインの頭の上に水をかけながら、ハイイログマの咆吼が轟く。

「ぐぅわっはっは! ウッゴ君を団員に欲しくなったぞ。あとでフラン様に交渉してみるか! うちの団員みたいにドカ飯を食わないし、水を与えればいいみたいだからな」


 目の前では、再びウッゴちゃんがウッゴ君の頭にじょうろで水をかけていた。

 しかし、ダメージが積み重なっているのか、それともナインの目を欺いている為なのか、その姿はナイン同様、頭を下げてうなだれていた。


(どうやら力押しで倒すのは難しそうだな。……んじゃ! ”ろくでなしのナイン”の本領発揮といこうじゃないか!)


 したたり落ちる滴の影に隠れたナインの顔が、悪魔のように歪み、その牙をむきだした。


 しかし、ウッゴ君もまた、同じ顔をしてるのを、ナインは知るよしもなかった……。

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