スリ、スリ、シテマス
(へ! レベル九の冒険者様を甘く見るんじゃねぇ。このナイン様にかかれば、あんな
建物と建物の隙間に隠れながら、イネスのパン屋を見張るナイン。
「ウッゴ君、ウッゴちゃん。お疲れ様。フランさんによろしくね」
(来た!)
カッペラの声を聞いたナインは戦闘態勢を整える。
一歩一歩、ゴーレム達の足音が聞こえる。ナインの耳は、雑踏の中で発するゴーレム独特の足音を聞き逃さなかった。
ナインが隠れている建物の隙間へ、手にした袋を振りながら近づくウッゴ達。
指をワキワキ鳴らしながら、ナインは、その瞬間を待っていた。
(まだだ……もうちょい引きつけてから……今だ!)
建物の影から袋が覗いた瞬間、音もなくナインの体が飛び出し、その指はあっという間に袋を絡め取った!
「あ! こら~! ナイン!」
背中にカッペラの怒鳴り声を聞きながら、一目散に墓地へ向かって走るナイン。
「へっへ~! 悪く思うなよ。とろくさいお前達が悪いんだからな」
「……とまぁ、こう言っておけばいいか」
ナインを怒鳴ったカッペラは、両手を腰においた。
「ん、どうしたの?」
店からイネスが顔を出す。
「あ、店長。早速ナインが……」
「ああ、フランさんから手を出すなって聞いていたけど……いくらナインでも……」
「でも、”あの”ナインですからねぇ……」
二人は顔を見合わせると、なぜか”プッ”っと噴き出した。
息も切らさずに、墓地へとたどり着いたナイン。
「へ、鈍足野郎共が。まだ来ねぇでやんの。おっと! 一応、中を確認……」
”ドグォォォォン!”
ナインが袋を開けた瞬間、【デラ爆炎】を凌駕する大爆発が起こった!
黒こげどころか炭になったナインの屍の下へ、爆音を聞きつけてフランがやってくる。
「……いくら何でも、こうも見事に引っかかるとはな。まさに天晴れ! お主は見事なまでに”ろくでなし”じゃな」
ようやくウッゴ達がフランの下へたどり着くと、ウッゴちゃんは髪の毛に隠した小さい娑婆袋を取り出す。
そして袋の中に手を突っ込み、パンの入った袋をフランに差し出した。
「うむ、ご苦労じゃった。では帰るか」
フランの後をついていくウッゴ達。
ちゃんと、ナインの屍を踏みつけることを忘れなかった。
※
(けっ! 俺としたことが、つい油断したぜ……)
再び建物の隙間からイネスの店を偵察するナイン。そして店からウッゴ君達が出てくる。
(【透視】!)
ナインはこめかみに薬指を当てると、【透視】の魔術を己の目に掛ける。
そして目をこらしながら、ウッゴ君の持つ袋を凝視する。
(よし、今度はちゃんとパンが入っているな)
先日と同じように、袋が建物の影から覗いた瞬間、一気に袋をスった!
全力で墓地に向かって走るナイン。
後を追いかけるウッゴ君、ウッゴちゃん。
「へっへ! 全力で追いかけてくるってことは、今度は本物だな。さあ、かけっこの時間だ! その短足でどこまで俺様についてこられる!?」
高速で手を振り、地面を蹴り上げるナイン。振り返ると、負けじとウッゴ君も超高速で手と足を動かしていた。
「やるじゃねぇか。でも残念だな、もうすぐ墓地だ……ん?」
ウッゴ君の姿に何となく違和感を感じたナインは、もう一度振り返る。
「な……なぁにぃ~!」
振り返ったナインが見たモノは、ウッゴ君の頭から伸びた、火花をまき散らしている導火線だった。
「馬鹿! やめろ! 来るな! くるなぁぁぁ!」
二人は墓地の前を通り過ぎ、北門を突き抜け、本の山へと一気に向かっていった。
「ああああぁぁぁぁ……!」
”ドグォォォォン!”
ナインの声が聞こえなくなった瞬間、本の山の方角から爆音と黒煙が噴き上がる。
爆音に驚いた鳥が一斉に木から飛び立ち、黒煙を突き破って、パンの入った袋とウッド君の頭が放物線を描きながらおちてきた。
ウッゴちゃんが追いかけながらそれらを見事にキャッチすると、フランの店へ悠々と帰って行った。
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