怪ノ九十 音楽室の不思議
なあお前ら、小学校の頃って七不思議ってあったじゃん?
え? この高校にもある?
まあそいつはいいんだよ、とにかく小学校の頃って七不思議ってあっただろ。
俺、その七不思議のひとつに遭遇したことあるんだよね。
今でもちょっと現実だったのか夢だったのかわかんねえんだけどさ。
小学校の頃ってそういう本みたいのも図書館にいっぱいあってさ、まだ結構そういうのが流行ってたんだよ。
学校の怪談をネタにしたシリーズ本みたいなの覚えてないか?
女子なんか新しいのが入るたびにみんなで見てキャーキャーいってさあ。
んで、ああ、うちの小学校の話だったな。
結構昔ながらっていうか、みんな知ってる七不思議がそろってたよ。
ほら、トイレの花子さんとか、赤マントとか。あとは……、あーそうだ、夜中に走って追いかけてくる二宮金次郎の像とか……あったよな? 俺の小学校は既に像自体がなかったけど。
それで、俺の体験したのは、音楽室の話。
音楽室ってベートーベンとかバッハの肖像画が飾ってあるだろ? なんのためかわかんねぇけど。
あのベートーベンが喋るって話だった。
あの肖像画って、他の学校でも目が光るとか動くとかいなくなってるとか、そういう話が結構あってさ。
まあ有名どころのひとつだったんだろうな。
だからそう信じちゃいなかった。
ただまあ、不気味ではあるよな。
感覚としてはそんなもんだったよ。
ある時、結構遅くまで学校に残ってたことがあったんだ。
遅くまでっていっても、夕方の五時くらいだったかな。寒い時期だったから、日が暮れるのも早かった。それくらいになるともう真暗だった。
確か卒業生に贈る歌の練習とかだったかなあ。
卒業式では在校生代表ってことで五年生全員で歌うんだけど、五年生のうちで何人かを選んで、合唱隊みたいに歌うのもあった。
俺はそれに選ばれてたの。
んーまあ、一応歌の上手い下手とかで選ばれてはいたみたいだな。
一応担任から聞いて上手い奴を選んでたみたいだ。
それで、合唱隊の練習は放課後にやってた。
その日はたまたま練習が遅くまで続いたんだ。
なんでだったかなあ、喋ってたりそわそわしたりでなかなかまとまらなくて、先生も怒っちゃってさ。それで長引いたんだと思う。
もちろん用事がある奴とかは先に帰ってたから、残ってるのは七、八人だったかなあ。
「もう五時だぜ、早く帰らないと」
誰かがそんなことを言いだした。
そんな時間まで残ってることなんてなかったから、ちょっとわくわくしたのは事実だけど。
先生も時間がない人や女子は車で送っていくって言いだしたから、最終的に残ってたのは俺を含めても三人ぐらいだったかな。
だらだらと帰る準備しながら、薄暗い空気にちょっと心躍ってた。
今だと夜まで起きてるなんて普通だけどさあ、小学生の頃って暗くなるまで外に、しかも学校にいるなんてテンション上がるんだよ。
それでちょっとわいわいやってた。
そしたらさ。
「うるさいぞ」
……って、急に大人の声が響いたんだ。
ぎょっとして振り返ったよ。
だけどそこには、先生もそれらしき奴もいなかった。
そこにいる三人は決して知らない仲じゃなかったし、むしろクラスメイトで、友達の間柄だった。
「お前今の、聞こえた?」
「え、誰?」
「うるさいって言ったよな?」
聞いたことない声だった。
しかも聞こえてきたほうを突きとめたら、そこにはベートーベンしかいなかったんだよ。俺たちは何度も確認して、その結論に達した。
その瞬間、めちゃくちゃ興奮したんだよ。
何しろ、音楽室のベートーベンが喋るって話は七不思議に存在してたからな。
「おい、今喋ったのおまえか?」
「ベートーベンだよな?」
「すげえ、七不思議じゃね、今の?」
でまあ、馬鹿だったからさ、今のでテンション上がっちゃって。
もう一回喋らないかと思ってじーっと見てたんだよ。
でも、いつまで経っても喋らなかった。
まあそうだよな。
結局他の先生が施錠に来て、俺たちは音楽室から追いだされたけど。
それでどうなったのかって?
特にそれで呪われたとか歌が下手になったとかは特になかったよ。
でも俺たちが噂を広めたおかげで、音楽室には人が殺到するようになった。
まあそれでも夜中までいて確かめようって奴はいなかったみたいだけどさ。それでも噂が途切れることはなかった。
少なくとも卒業するまでは、他の七不思議は消えてるんじゃないかと思うくらいには。
卒業して中学入ってしばらくした頃に一度行ったんだけど、そのくらいには「バッハと口喧嘩してる」ってことになってたよ。
ただまあ、もしかしたら本当にバッハと口喧嘩してるところを誰か見てたのかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます