怪ノ四十八 回される手紙
女子の間で手紙が流行ったことってない?
授業中に回す小さいメモのことなんだけどね。
このスマホ全盛期においても、そういうのって偶に流行るみたい。まあ、小学生だと年齢によっては買ってもらえてないとかもありそうだけど。
それにまつわる怖い話なんだけどね。
いや、先生に見つかって晒されるとかじゃなくて。
一応説明しとくと、大した流行りってほどでもなくて、授業中に小さい手紙をこっそり回すっていうだけなのよ。だけど先生に見つかるリスクとか、何かやってるっていうのが妙にウケてたわけ。
一応先生に見つからないようにやるっていうのが前提だもんだから、席が離れてれば二、三回も回せればいいほう。
だからこそ、なのかしらね。
ピンク色の紙にお願いごとを書いて、授業中に左回りに教室中を廻し切れば、願いが叶うっていうおまじないが流行ったの。
誰が言いだしたかなんてわからない。
ただ、気付いたら女子の間ではまことしやかにささやかれていた。
でも、教室の中を一周したからってお願いごとが叶うって、すごく簡単すぎじゃあない?
いかにも小学生の考えそうなことよね。
だけど、女子の一部には共通のお願いごとがあった。
担任の先生のことが嫌いだったのよ。
それというのも当時の担任の先生っていうのが太っててあせっかきで、見てて気持ち悪いっていうのが言い分。特にリーダー格の女の子が特に先生のことを嫌ってて、太ってるのも気持ち悪いし、見てるのも嫌だし、担任なのが一番嫌、って感じだった。
今考えると凄く失礼な話よね。
だって、授業で当てただけなのに後で痴漢呼ばわりとかしてたのよ。わざわざ先生のいない所とかで。
なんてーか、ちょっと病的だわ。
だいたい、今考えると男子はそれほど先生のこと嫌ってなかったと思う。女子の中でもそれほど目立たない子とかは別に全然普通だった。
そもそも太ってるって言ったって、びっくりするぐらい太ってるわけじゃないのよ。だって小学校の先生よ? 太ってるっていったってたかが知れてるわけ。あとで聞いた話だと、昔、柔道やってたみたいで、がたいがでかいだけって感じだったみたいね。
結局、リーダー格の子が先生のこと嫌いで、その取り巻きが同調してただけだったんじゃないかって思うわ。
あたしも、言うほどかなー、って思ってたけど、まあその時は同意するって感じかしら。小学生ってリーダー格に嫌われるとやってけないのよね。だからって言い訳にはあんまりしたくないけど。
それでまあ、あの担任の先生を呪い殺そうっていうことになった。
びっくりする?
さっきのおまじない。
あれで、先生を呪ってやろうってことになったの。もちろん手紙の中身を言ってはいけないし、見られたらヤバイでしょ。だからひっそりと「教室を左回りするように回して」って言って、男子も巻きこんで手紙を回したのよ。
えーっとねえ。なんて書いたんだったかな。
名前は、まあ、A先生ってことにしておくわね。
「A先生が苦しんで死にますように」
……まあ、こういうような文言よ。本当はもう少し長かったかもしれないけど。
それを、ピンクの紙にわざわざ赤色のペンで書いたの。
紙を折って中の文言は見えないようにしたあと、表側に「中は見ずに左回りにまわしてね」って、わざわざハートまでいっぱいつけて回していったの。
まあ、大体みんな気付くわけよ。
おまじないしてるんだなって。
特にリーダー格の子と仲のいい子たちは、前の休み時間に何をするか聞いてるわけだから、クスクス笑いながら手紙を廻した。
そうしたらね。
なんと、一周してリーダー格の子の所に戻ってきたのよ。
まあそれだけなら特に不思議じゃないわよね。女子は協力してる子もいれば、男子のように自分の所に置いておきたくないから即回す子もいた。
偶然の産物どころか必然よ。達成してしかるべきなの。
それなら呪いはどうなったと思う?
……意外なほどすぐに効いたの。
それから一週間もしないうちに、先生が事故で死んじゃったのよ。学校に車で来てる時に、曲がってきたトラックが横から思いきり突っ込んできてね。
病院に運びこまれて、数日苦しんだ末に死んでしまったの。
あたしも葬儀には出席した。
だって担任の先生だものね。
葬儀では誰も何も言わなかったけれど、そのあとで女子がまことしやかに言いだした。
「ねえ、やっぱりあの呪いが効いたんじゃないの?」
まあそうよね。
だって、人を殺す呪いが効いたってことは、いつ自分たちが同じ目にあうかわかったものじゃない。男子たちは、また女子が変なことやってるぐらいにしか思ってなかったでしょうけど、女子はちがった。特に取り巻きの子たちは不安がったわ。もちろん内容を知っていて隣や後ろに回した子たちも、なんとなく罪悪感のようなものがあったに違いなかった。自分たちも加担してしまった。ということは、自分も先生を殺した罪があるんじゃないかってね。
だけど、リーダー格の子はそれで舞い上がっちゃったの。
呪いは効くんだ、ってね。
そうなるともう、その子の天下よね。気に入らないことがあると、すぐに手紙を左回りで回すようになった。
だけどそんなことって滅多にあるわけないのよ。そういうのってやっぱり、結果的に死んじゃうことになったとしても、偶然が重なっただけにすぎない。
先生が事故を起こした道にしたって、前々からあそこはすぐスピードを出す車がいて危ないって言われてたぐらいなんだから。
そうするとね、誰もがリーダー格の子をそれとなく避け始めた。
最初はリーダー格から遠い格下の子たちからはじまって、そこそこの子たちも何となく距離をおきはじめた。段々近いところにまで波及して、とうとう取り巻きの子たちもいなくなって、ついにはリーダー格の子は孤立してしまったの。
そうなると、呪いのおまじないももちろん効かない。
あれはみんなの協力なくして叶わないものだもの。
リーダー格の子はやがて学校に来なくなった。
みんな気にしなかった。彼女が来なくなったことで、女子はほとんどほっとしてたと思うからね。
新しい担任の先生も何度か家に行ったりしたみたいだけど、結局彼女は転校というかたちで学校から離れてしまった。
そんな中、彼女の使っていた机を片付けることになった。
小学校の頃って、のりとかハサミとか、学校指定の工作用具を道具箱に入れて机の中に置いてたのよね。あなたのところがどうかはわかんないけど、うちでは道具箱の蓋の部分も机の中に入れて、教科書とかノートはそっちに入れてひきだしみたいにするのが普通だった。
教科書とかは持って帰るけども、道具の類は学校に置いたままだったから、返すために職員室に持ってくみたいだった。
隣の席の子が先生に言われて取り出したんだけど、急に悲鳴があがったの。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
途端に女の子たちの悲鳴も続いた。
だって、本来何も入ってないはずの箱のひきだしの中には、ピンク色の折りたたまれた紙がぎっしりと詰まっていたんだもの。
みんな中も見たくなかったけど、女子は変な好奇心を出してそろそろとピンク色の紙を開いて見てみたわ。
そして、みんな言葉を失ったあと、パニックになって泣きだした。
だってそのピンクの紙にはね。
みんな死ね
みんな死ね
みんな死ね
みんな死ね
みんな死ね……
どの紙も、ずっとそればかり真っ赤な字で羅列されていたんだから。
それ以来彼女に会うことはなかったし、噂も聞かなかった。だから彼女がどうなったのかわからないし、知りたくもない。
ただ、ひとつだけ。
人を呪ってもいいことは無いって学んだわね。
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