怪ノ三十九 グループ人数
「なあ、お前グループライム入ってるよな?」
スマホを弄りながら、ジュンヤが言う。
「おう。一応入ったけど、それがどうかしたか?」
「うちのクラスって三十五人だよな」
「うん?」
いまいちジュンヤの言いたいことが理解できず、俺は顔をあげた。
「確かめてみたこと、あるか?」
「だから、なにを?」
ライム(LIME)は、スマホのコミュニケーションアプリのひとつだ。ひとつ、とはいうけれど、ほとんどの奴はそれを使っている。たいていの場合、「ライムやってる?」って聞けばわかる、説明のいらないやつだ。
グループを作成することもできて、クラスのほとんどの奴は招待を受けて入っている。
一年の時は喜々として入ったけども、途中から面倒にはなった。グループを作っても、喋ってるのはクラスの中心グループ数人だけ。それなのに何百件も入る通知もウザくなってきて、切ってしまった。
誰も何も言わないが、入らないとそれはそれでクラスからハブられる対象にされてしまう。本当に面倒な制度だ。
「いや、それがさ。うちのクラスの陰キャいるじゃん」
「あー……吉沢のこと?」
「あいつ実は、グループ入ってないらしいんだよ」
「ふうん?」
適当に答えたが、それは変だ。
「でも、全員入ってるだろ」
グループの人数を表す場所には、ちゃんと英数字で「35」と表示されている。
「こないださ、あいつがカバンからケータイとりだしたの見たんだよ。それで、あれっあいつケータイだったのかと思って、何となく聞いてみたんだ。ケータイでもライムできるんだなって」
「それで?」
「まー、反応はわかりきってたよな。すげーびっくりして、なんかオドオドして面白かったんだけど、変なこと言ったんだ。”ライムはやってないよ、ケータイだし”って」
「うーん?」
「な? おかしいだろ?」
ジュンヤは首を傾げる。
「ケータイでもライムできなかったっけ?」
「俺も思ったんだけど、アプリの入れ方がまずわかんねえ、みたいなこと言ってた。でも、それなら三十四になってるはずだろ? そう思って、嘘つくなよって言ってから思ったんだよ。そんなすぐわかるような嘘つくかなって」
ジュンヤはライムアプリを開いて見せてくる。
クラスのグループを表示させると、確かに三十五人、ちゃんと入っている。
「三十五になってるけど」
「だろ? だから、参加者のところで吉沢の名前を探したんだけど、入ってなかった」
「別の名前にしてあるんじゃねえの? あいつ、本名なんだっけ」
参加者の一覧を開き、一人ひとりの名前を確かめる。
男子はともかく、女子の名前まではさすがに全部把握しきれていない。挨拶以降は話してない奴もかなりの数いるだろう。けれども、吉沢の名前は確認できなかった。
「じゃあ、別の名前にしてあるんじゃねえかなあ。ほら、女子とか下の名前だけにしてる奴いるじゃん」
「ああ、それはあるかもしれないな! 恥ずかしいから公表できないってやつ? アイコンだけじゃわかんねえからな」
ジュンヤはスマホをひっこめ、何か操作しはじめた。
おそらく参加者一覧を見ているのだろう。
「まあ、別にいいんじゃねえの。お前、吉沢とわざわざライムで話すことあるのか? 対面ですらあんまりないだろ」
「うーん。それはそうだけど」
「一人ひとり確かめるのか?」
「わかんねえなあ」
ため息をつく。
「ま、どうでもいいかあ」
ジュンヤは言った。
自分から話題をふってきたくせに。
そうだ、どうでも良い話題だ。
だから、数日前に女子のグループがこそこそと話していたことだって、どうでもいいのだ。
――ねえ、ミキってさあ、クラスのライムグループ入ってる?
――いや、実は面倒でさ。一度招待は受けたけど、そのあとすぐ退会しちゃったんだ。
――あ、それいいかも。私もそうしよ。
その女子たちは、二、三人の集まりだった。その後すぐに自分たちだけのグループを作っていたようだったから、俺はすぐにスマホを確認したのだ。
三十五人から減っているはずだと。
――退会したよお。
――じゃああたしたちだけでグループ作る?
――あ、いいかも。
人数は減っていなかった。
退会しましたの表示も出ておらず、誰も減ってはいない。だが、誰が減ったのかわからない。
彼女らが本当に退会したというなら、ミキ、という名で、今も時折ライムグループで発言しているのは誰なのだろう。楽し気に反応しているのは誰なのだろう。
本当はいったいどれほどの人間が、クラスライムに入っていなかったりするのだろう。そもそも、吉沢の所に招待から行ってないのなら、このグループは誰が作ったのだろう?
だから、もしも仮に吉沢らしき名前が見つかったとしても、絶対に話しかけたりもしないし、本物の吉沢に話を振ることもしないだろう。
俺はそれ以上考えないことにした。
絶対に考えてはいけないような気がしたからだ。
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