第319話 集結、六大魔王ⅩⅨ

『おお! 魔人王様が援軍を送ってくださったか!』

「ザハクお前、奴らを見ておかしいと思わないのか!?」


 自分と同じ姿のものが無数に現れたことに驚きもしないザハクにディオスが驚愕する。


『おかしい? 何を戯けたことを言っている、あの勇姿! あの雄々しき姿、まさに魔人族のあるべき姿だ!』

「お前、まさか……奴らの姿が自分と同じだと認識できていないのか?」

「混乱が生じぬように予めそういう風に作られたんだろうな……」


 バロムがザハク達を見据えながら冷静に分析する。



『……』

「しかもあのザハク達は、人格そのものを消されているようだな……待て、まさか最初にザハクが現れた時と同様に他の場所でも同じことが!』






 ――魔獣王が戦う戦場。


「ガハハハハハッ、愛する娘の毛づくろいを仕方なく終えてデカ百足をぶっ殺しに行こうとしているのに、まだまだ先には行かせねえってことか!」


 魔獣王の周囲を無数の蟲人ディオスが取り囲んでいる。


「だが、俺の相手としてなら不足も甚だしいぜ! リュシル!」

(分かりました、ユキ様、私の背にお乗りください)

「ワン!」


 ユキを背に乗せたリュシルが魔獣王の身体を駆け上がり、魔獣王の背中に飛び乗った!


「この数相手だ、ぶっちぎりで行くぜェ! 《魔獣氷鎧武装》!」


 魔獣王の全身に冷気が纏われ、氷が全身を包み込んでいく! 脚には鋭利な氷爪が、胴体にはリュシルとユキを守るようにドーム状の氷の鎧が形成され、ハリネズミのような氷の棘が突き出る。

 そして最後に頭部に氷の兜が被され、サーベルタイガーのような氷牙が口元から大きく突き出てくる。


「さぁ始めようぜェ! グオアアアアアアァァッッ!!」


 全身を冷気で包み、氷の鎧を着装した魔獣王が雄叫びと共に大地を踏み抜き跳躍する!!

 そして一瞬でディオス達に接近すると、その氷爪でその牙で次々とディオス達を引き裂いて行く!


 攻撃を受けたディオス達は羽を広げ一斉に魔獣王へ飛びかかるが、氷鎧武装で全身強化された魔獣王の力は凄まじく、ディオス達の攻撃を悉く躱し嚙み砕き、氷爪を振るっていく!


 数体のディオスが背中のリュシル達に攻撃しようとした瞬間、氷の棘が射出され、ディオス達を貫き凍らせた!


「ガハハハハハハハ! 何匹でもかかって来やがれ! 全員氷漬けにしてやるぜェ!」









 ――魔海王が戦う戦場。


「ああもう、うっとおしいわね!」


 そう言いながら魔海王は無数の水球で次々と群がってくるブロストを撃墜していた。


「レヴィヤ、これは一体どういうことなんだ!? なぜブロストがこんな大量に!」

「私が知るわけないでしょ? 今言えるのはキモい奴がキモいぐらい群れてくっそ気持ち悪いって事だけね!」


 水球の嵐を搔い潜って魔海王に迫るブロストに対し魔海王は右腕の巨大ヒレに水を纏わせ水の刃を生成し、真っ二つに切り裂く!


 だがそれでも止まらないブロスト達に魔海王はうんざりした表情をしながら、ブロスト達を水の刃で斬り倒し続けていく。


「ったく次から次へとキリが無いわね……いくら私が万人を魅了してしまうスーパー歌姫だからって、こんなキモい迷惑ファンはお断りなのよ! 《魔海の水柱》《魔海の水槍》!!」


 魔海王がブロスト達を水柱で打ち上げた直後、水の槍で追撃し空中で串刺しにしていく。


「まだまだ! はああぁぁっっ!!」


 そして魔海王は勢いよく跳び上がり、ブロスト達の群れの中心へ落下しながら右腕のヒレを地面に叩き付ける! その瞬間に巨大な津波が立ち上がり周囲のブロスト達を呑み込み押し潰していく!


「これであらかた片付いたっと……しかしこいつら、最初に出てきた奴と違ってずっと無口で逆に気持ち悪かったわね……」

「レヴィヤ! どうやらまだまだ終わりは遠いようだぞ!」


 大型百足の下から続々とブロストが出現、更に小型、中型百足達が今まで以上の大群で魔海王達目掛け押し寄せてくる!


「はぁっ……本っ当に、うっとおしくてキモいわね!!」






 ――魔竜王が戦う戦場。


「グオオオオオオオオオオッッ!!」


 魔竜王が火球を連続で放ち、押し寄せるゼキアの大群を焼き払っていく!

 更に体を回転させ尻尾でゼキア達を薙ぎ払うが、ゼキア達は怯む事なく次々と魔竜王に飛び掛かり大剣で斬りかかっていく!


「その程度の斬撃で、我が鱗に傷一つ付かぬわァァァァァァッ!」


 魔竜王の竜爪がゼキア達を斬り裂き、その顎でゼキアの胴体を噛み千切っていく!

 それでもゼキア達は怯まずに魔竜王へ飛び掛かる。


「うっとおしいわァァァッ!!」


 魔竜王は咆哮を上げながら翼を広げ空を飛び、真下目掛けて火球を乱射する! 着弾地点に爆炎が広がり、ゼキア達は消し炭と化していく! だがそれでもゼキア達は次々に飛び掛かり魔竜王に取り付き、鱗の無い眼や口内目掛け特攻を仕掛ける!


「小癪! その程度でこの俺を倒せるかァァァッ!!」


 魔竜王は特攻を仕掛けてきたゼキア達を噛み砕き、取り付いたゼキア達を掴んで体から引き剥がし、そのまま地面に叩き付け踏み潰した!


「数を増やした程度でこの魔竜王を討ち取れると思うなよ! 蹴散らしてくれるわァァ!!」








 ――魔鳥王が戦う戦場。


 ビャハの群れが空中の魔鳥王目掛けて百足槍を投擲する!


 魔鳥王は翼をはためかせ、百足槍を回避する。 そこへ別の群れが上空から魔鳥王に奇襲を仕掛ける!

 しかし魔鳥王は真上から降り注ぐ百足槍を華麗に避け進む!


「数を増やしたところでそんな単調な攻撃、当たりはしない!」


 そして魔鳥王が翼を大きく羽ばたかせ、風を巻き起こし空中のビャハ達を吹き飛ばしていく。

 そこへ一体のビャハが大顎を開き背後から魔鳥王に襲いかかるが、魔鳥王は空中で体を翻し足でビャハの頭部を掴み、そのままビャハの群れに投げ付ける!

 まるでボウリング玉の様にビャハの群れを薙ぎ倒しながら吹き飛び、群れの数体が巻き添えになりながら落下していく。


(最初に現れたビャハを倒した直後続々と出現始めた個体には感情……いや自我そのものがない、ただ本能のままに襲いかかってくるだけ……まるで機械の様だ)


 魔鳥王は群れを見据えながら思考しながらも自らに向かって伸びてくる無数の百足槍を華麗に躱し続けていた。

 そして魔鳥王は思考を続けながら、地上から放ち続けられるビャハ達の投擲を避け続ける。


(自我無き者の単調な動きを避けるのはたやすい、だが無尽蔵の戦力で攻撃を続けられれば先に倒れるのはこちら……そうなる前に本丸を叩かねば!)


 そして魔鳥王は上空のビャハの群れに向け再び羽ばたき、その真上にたどり着くと本来の姿に戻る。


「《《魔鳥の鳳翼》ッッ!!》」


 爆風と熱波を巻き起こす魔鳥王の爆炎の羽ばたき! それにより地上にいたビャハの群れの半数が一瞬にして消し炭と化した!


「魂を持たぬ哀れな傀儡達よ、この魔鳥王が浄化してやろう!」







 ――魔植王が戦う戦場。


『《螺旋樹槍・十二連撃》ッッ!!』


 魔植王が十二本の木の触手槍を、ギリエルの大群目掛け放つ! 

 ギリエル達は複数体で一本の槍を受け止め、十二本全ての触手槍の動きを封じると数十体同時に跳躍し、一斉に十二の試練を放った!


 魔植王は両腕を交差させ防御態勢を取るが、優に百を超える数の大角により全身を削り取られていく!


『流石に全ては防ぎきれませんね……!』


 大角の嵐に防戦一方の魔植王に、追撃を行うため別のギリエルの群れが迫る!

 魔植王は足元から根を伸ばし、ギリエル達の足元まで張り巡らせギリエル達の脚に絡ませ動きを封じる。


 そして新たに出現させた触手槍でギリエル達を刺し潰した!


(動きが単調なため次の手を読みやすいのは助かりますが……オリジナルとほぼ同じ戦闘力を持つ者達による単純な物量作戦、これほど厄介なモノはないですね……!)


 魔植王はギリエル達の攻撃を凌ぎ続けながらてん次なる手を打つ。

 広範囲に根を張り巡らせ、その根から地表にカボチャ型の実が次々と生っていく。


 そしてギリエル達が実の上を通った瞬間、実が破裂し内部の種子がギリエル達の身体に突き刺さる!

 実が次々と破裂していき、種子弾丸をもろに受けたギリエル達は手や足が抉れ地面に倒れる。


『これで少しは数を減らせる……そしてこちらも数で対抗するまで! ハアァァァァァァァッッ……!!』


 魔植王は地面に両腕を突き刺し、力を注ぐ。

 すると次の瞬間、地面から二メートルほどの人型の木々達が数十体出現、更に魔植王と同サイズの木の巨人が地鳴りを立てながら地面から十体現れる!


『我が分身たちよ、この世界を滅ぼさんとする者達を打ち倒すのです!』


 その声と共に木人達が一斉に動き出す! 数十のギリエルの群れ目掛け次々と拳と脚を繰り出していく。

 木の巨人達もその剛腕で次々にギリエル達を叩き潰していく!


 魔植王率いる植物の軍勢とギリエルの大群の戦いは激戦の様相を見せていた。








 ――そして再びバロム、ディオス、ウィズたちの戦う戦場。


 新たに現れたザハクの群れは次々と地面に降り立ち、戦斧を構える。


『我が同胞たちよ! 魔人王様のために共に戦おうぞ!』


 ザハクが嬉々として叫ぶと同時にザハクの群れがバロム達に向かって動き出した!


 バロム達が武器を構えた次の瞬間。


「《滅殺・パンダちゃんビーム》ッッ!!》」


 突如ザハクの群れの中心に謎の光線が放たれ、大爆発が起きる!

 爆発の衝撃でバロム達は派手に吹き飛んだ!


「な、何だ今の光は……!?」

「皆さんご無事でしたか?」


 驚くバロム達の背後に現れたのは、パンダ頭のゴーレムに乗った勇者ミズキであった。


「ミズキさん! 助かったよー!」

「少し手間取ったけど、向こうの敵は全て片付けました、今からこっちに加勢します!」

『おのれ勇者め……!』

「瑞樹だけじゃないわ!」

「俺たちだっているぜ!」

「世界を食い滅ぼさんとする者ども、我ら四勇者が相手になるぞ!」


 ゴーレムに乗ったミズキに続き、アヤカとカイト、そして剣を構えたユウヤがバロム達の元へ駆けつけた!


「これは心強い」

「まさに百人力だよー!」

「ああ、だが油断するんじゃないぞ、敵はまだ大勢居るぞ」


 バロムが爆心地を見据えると、次々とザハク達が起き上がってくる。

 それだけではない、大型百足の身体の下から新たなザハクがどんどん出現していっている。


 そして最初のザハクも残された左腕で戦斧を握り締め、戦闘態勢を取った。


『魔人王様の大願成就、何人たりとも邪魔はさせぬ! 行くゾオォォォォォォッ!!』


 ザハクが雄叫びを上げて突撃し、それに続いてザハクの群れも突撃する!


「全員、行くぞ!!」

『『おおおおおおおおっっ!!』』


 バロム、ウィズ、ディオス、そして勇者達は迫る大群を前に勇猛果敢に立ち向かう!

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