第315話 集結、六大魔王ⅩⅤ

 両者互角……いや、ギリエルが僅かに押しているか!?


『はァァァッ!!』

『ハハッ!! 良いぞ! そうだ、こうでなければなァァァッ!』


 ギリエルは大角を振り抜き、魔植王の木の槍を砕き払う! だがその一瞬の隙に魔植王は地面に左腕を突き入れ、ギリエルの真下に岩柱を出現させる!


『ぬうッ!?』


 不意を打たれたギリエルが岩柱に激突、しかし咄嗟に4つ腕を交差させて防御した為、ギリエルは軽傷! そのまま4つ腕で岩柱掴みもぎ取った!


『セヤァァァァァ!!』


 そのまま魔植王目掛け投擲!


『はぁぁぁッ!』


 魔植王は再生させた右腕の拳で岩柱を破壊! そのままの勢いでギリエル目掛け地面を蹴り跳躍!

 右足を螺旋槍に変形させ体を回転させギリエル目掛け突っ込む!


 その巨体から繰り出される超質量の螺旋蹴りがギリエルに迫る!


『なんという攻撃! ならばこちらも!!』


 ギリエルも地面を蹴り飛び、大角を輝かせながら体を高速回転させる!


『《蛮勇の螺旋槍》ッッ!!』


 二つの螺旋がぶつかり合い、凄まじい衝撃波を発生させる!


『オオォォォォッ!!』

『ハァァァァァッ!!』


 両者一歩も引かずに激突し合う。

 その衝撃で周囲の地面は抉れ歪む。


 そして両者の回転によって周囲の風が巻き上がり、竜巻のように天に昇っていく!


『オオオオオオッッッ!』

『アアァァァッ!!』


 ギリエルと魔植王は雄叫びを上げながら回転速度を上げ押し合う両者!

 その衝撃に地面は更に抉れ、竜巻が天を衝く!


『オオオオオオオッッッッ!!!』


 ギリエルが吠える! 蛮勇の螺旋槍の光が一層強くなり、魔植王の螺旋が押し負け始めている!


『ッ……! 二つの星を守るため……私は絶対に、負けませんッ!!』


 魔植王は回転速度を更に上げ、ギリエルの螺旋槍を押し返し始める!


『オオオォォォッ!! 勝つのは私だァァッッ!!』 


 ギリエルも大角を更に光らせ、魔植王の螺旋槍を押し込み始める! 両者の加速は臨界点を達した瞬間、両者は弾かれるように吹き飛ばされ、地を舐める!


 一瞬の静寂……竜巻が消え去り、先に立ったのは……




『ハハッハハハァッ!! ああ最高だァァッッ!! 本当に嬉しいぞ魔植王よぉぉぉッッッ!!!』


 ギリエルである! ギリエルは全身の甲殻がひび割れ、体液が噴出しているにもかかわらず狂喜乱舞の笑い声をあげる。


『……』


 遅れて立ち上がる魔植王も右足が砕け、全身に亀裂が入っている、再生には多少の時間が掛かるだろう。


 だがギリエルがそれを待ってくれるわけがない。


『あの時の……魔蟲王ヤタイズナとの死闘に負けず劣らずの最高の戦いだぁぁぁ……だが』


 ギリエルは魔植王を見据える。


『次の一撃で最後だ』


 ギリエルが地面を踏みしめ、大角を魔植王に向け構えると、大角が霞み、十二本に増えた。

 そう、これこそギリエルの必殺技!


『受けよ……我が奥義! 《十二の試練》!!』


 十二本の蛮勇の角が、魔植王目掛けて超高速で飛来する!


『もとより回避は不能……対応するには、同等の攻撃しかない!』


 魔植王は四肢を地面に突き刺した!

 地面が震え地面から十二本の木の触手が出現! その先端は螺旋状の木の槍に変形!


『《螺旋樹槍・十二連撃》ッッッ!!』


 魔植王の咆哮と共に木の触手が一斉に射出される!

 高速で飛来するギリエルの十二本の大角と、十二の触手がぶつかり合い、辺りに激しい衝突音と暴風が吹き荒れると同時に相殺消滅!!


『我が十二の試練を打ち破るとはなぁ! だが次は受けきれるかぁ!?』


 ギリエルが再び構える、連続で十二の試練を放とうというのだ!


『いいえ、もうすでに準備は完了しています』

『何……ッ!?』


 ギリエルは怪訝な声を発すると共に背筋に寒気を感じ、周囲を見渡す。


『あれは……!?』


 魔植王とギリエルの半径数百メートルを無数の木の触手が取り囲んでいた!

 触手は投石器めいた形状に変形しており、その先端にはカボチャのような実が成っている!


『この戦いで砕けた私の身体の一部から再生した木の根が地面を張り巡り、お前を取り囲んでいたのです……発射!!』


 魔植王の号令と共にカボチャ型の実が射出される!


(あの実、正体はわからないが受けるのは危険ッ!)


 ギリエルは羽を広げ空に逃げようとするが、地面から微細な根が飛び出し、足に絡みつき身動きが取れない!


『ヌアアアァァッ!?』


 力づくで引き剝がそうとするが、次々と大小の根が絡みつき逃さない!


 数百を超えるカボチャ型の実がギリエルに降り注ぐ!


(もはや回避は不可能! そしてこのひび割れ傷ついた体では全てを受けきるのも無理だろう……! ならば活路は一つ!!)


 ギリエルが構え、大角が再び十二本に増える!


『《十二の試練》ッッ!!』


 十二本の大角が円を描いて振り抜かれ、カボチャ型の実を弾いたその時、実が大きな音を立てて爆発した!


『何ィッ!?』


 弾けた実の中から平らな種が周囲に飛散する!





 ――爆発する植物は実在する。


 植物には熟すと果皮が自然に弱いラインに沿って裂けて種子等を放出する『裂開』と呼ばれる性質をもつ種が存在し、その中でも果実の収縮する力を使用して種子を遠くに飛ばす性質を持つ種がいる。


 その中でも最も危険な植物の一つとされるのがアマゾンに生息するスナバコノキ、別名ダイナマイトツリーと呼ばれる恐ろしい木だ。


 スナバコノキは全身に棘状の樹皮が特徴で、その葉、実、樹液に毒をもつ恐ろしい植物だ。

 その中で最も恐ろしいのはカボチャ型の果実である。


 スナバコノキはまるでカボチャのような実を付けるが、その実は熟すと爆発し周囲に固く平らな猛毒の種をまき散らす。


 その速度は秒速70m、時速にして250kmにも及ぶ。







『くッ!』


 ギリエルは4つ腕を前面に交差させ防御体勢をとり、種は容赦なく腕に突き刺さる。


『グオオッッ!?』


 苦悶の声を上げるギリエル、実は次々爆発し、数千を超える種子が弾丸のように降り注ぐ!


『オオオオオオオォッッ!!』


 ギリエルは防御体勢のまま大角を振り抜き、種子を弾き飛ばすが、全てを防ぎきることは不可能!

 全身のひび割れ傷に深々と種子弾丸が突き刺さっていく! そして……。


『グ、オォォォ……』


 種子の雨が止み、ギリエルは満身創痍の状態でありながら、悠然と魔植王のいる方向を見据える。


『オオ……見事だ、だが耐えきったぞ……ッ!?』


 ギリエルの視線の先に映ったもの、それは巨大な螺旋状の木の槍を構える魔植王の姿だった。


『あの程度で仕留められると最初から思っていません、こちらが本命です!!』


 魔植王は地面を踏みしめ、渾身の力で巨大螺旋木槍を投擲!

 稲妻の如き速度でギリエルに迫る巨大螺旋槍!


(この速度! 十二の試練はもう間に合わない……ならば!)


 ギリエルは4つ腕を肥大化させ大きく開いた。


『全身全霊を掛けて受け止めるッッ!!』


 その巨大な4つ腕で螺旋木槍を受け止める!


『グガアアアアァァァァァァァァァァ!!!』


 巨大な4つ腕で木槍をがっしりと受け止めるギリエル。

 だがその衝撃は凄まじく、足を縛り付けていた根は千切れ、地面を抉りながら後方へ押し流される!


『オオオオオオォォォォ!!!』


 ギリエルは咆哮を上げる! そして徐々に巨木の槍の回転が遅くなっていき、完全に停止する。


『オオオォォォッッ……止め……たぞォッ!! 残念だったな魔植王……』


 ギリエルが笑みを浮かべ前を見ると、槍の投擲と同時にギリエルへと接近していた魔植王が宙に飛びドロップキックの体勢に入っていた。

 その狙う場所は、木槍の後端部。


『――見事』


 ギリエルがそう呟いた次の瞬間、魔植王の全体重が乗ったドロップキックが木槍の後端に直撃!

 木槍は杭打機が如くギリエルを押し潰し、そのまま地面に深々と打ち付けられ、周囲に亀裂が走る!


 槍の先端に突き刺さったギリエルの姿は、想像するのも悍ましいことになっている事は語るまでもないであろう。


『時間が掛かってしまいましたが、これで本来の行動を行える……早くしなければ』


 ギリエルを倒した魔植王は、そのまま巨大百足の元へと移動を開始した。

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