第311話 集結、六大魔王Ⅺ

 ――再び場面が移り変わり、魔竜王対蟲人ゼキアの戦う戦場では、無数の火球が周囲に舞い、爆発音が連鎖して鳴り響き続けていた。


「オオオオオオオッッッ!!」


 魔竜王がゼキア目掛け火球連弾を機関砲が如く放ち続ける!


『カァアアアアアアアアアッ!!』


 ゼキアは二メートルはある自らの身の丈の倍はある大剣をまるで紙細工のように軽々と振るい、その悉くを弾き飛ばしていく!

 弾かれ四方八方に飛び散る火球によって地面が割れ、焼かれ、砕け、粉塵が舞う中、ゼキアはゆっくりと前進する!


『その程度の火球では、魔人王様の御力を分け与えられた今の私を止めるなど出来ぬと知れ!』

「グオオオオオオオオッッ!!」


 魔竜王は更に火球の発射速度を上げて連射! 連射! 連射!

 ゼキアも大剣を振り回す速度を速め前進! 前進! 前進!


 周囲に無差別に弾き飛ばされる火球によって周囲の小型百足達は焼かれ、吹き飛ばされていく。

 炎と爆炎が舞い散る地獄のような空間が構築される中、ゼキアは魔竜王に迫り遂にその距離は僅か数メートルまで迫る!


「グオオッッ!!」

『カァアアッ!!』


 ゼキアの大剣と魔竜王の右腕の鋭い爪がぶつかり合い、周囲に衝撃波を発生させた。お互いの攻撃は互角!!


「グオオオオッッッ!!」

『カァアアアアッッ!!』


 再び剣と腕がぶつかり合う、またもや互角!


『ならこれならどうだっ! オォォオオオオオオオオオッッ!!』


 ゼキアは後ろに後退し、雄叫びを上げると全身の甲殻が膨張、収縮し始めた!

 数度それが繰り返されると、ゼキアの背部の角が蠢き、左腕で角を引き抜いた!


 引き抜いた角の先には……何ということだ、二メートル程の剣が付いている!


 ゼキアは左右第二腕を展開、右上腕下腕で大剣を握り、左上腕下腕で角剣を握る。 二刀流の構えだ!!

 左右それぞれの剣を『両手』で構える異様な姿は、神を象りし神像を思わせる!


『我が二刀流を持って貴様を殺す!』

「グルルルル……よかろう、来るが良い、世界に仇名すものよ!!」


 ゼキアが走ると同時に魔竜王が火球連弾を撃ちだす! ゼキアは大小二本の剣を振り回し、迫る火球を打ち払いながら突き進む!


『カァアアアアッ!』

「グオオオオッッ!!」


 ゼキアが二剣を振るい、魔竜王が両腕の爪でそれを受けた!

 力は再び拮抗……いや! 魔竜王が押されている!


「グオオオオオオッッ……!?」


 ゼキアの斬撃を受け止めきれなかった魔竜王の巨体が後ずさる。

 両手で持てば剣の威力が上がるのは必然、それに加えてゼキアは大剣の二刀流、通常よりも攻撃力は桁違いに高い!


『その首討ち取ったり!』

「グゥゥッ……!」


 魔竜王は翼を広げ空高く舞い上がりゼキアの攻撃を回避、そのまま真下に向けて火球連射! 火球の嵐がゼキアに殺到する!


『ムッ!』


 迫り来る無数の爆炎を前に、ゼキアも翅を広げ空を飛び、火球を弾きながら魔竜王を追う!


『空中なら大剣の重さを支えられぬと思ったか!? 甘い!!』


 ゼキアは空中で身体を捻る! その凄まじい遠心力が腕に伝わり、二刀が唸りを上げる!!

 対して魔竜王も両腕の爪がより大きく、より鋭い形に変形させた!!


『カァァアアアアアアアアアアア!!』

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ゼキアの二刀流と魔竜王の剛爪がぶつかり合う! 体長8メートル差など無いかのように両者は空中で互角にぶつかり合う!


 空に幾つもの線を描きながら、両者一撃必殺の威力を秘めた攻撃の、応酬! 応酬!! 応酬!!!


 その余波で雲は吹き飛び、周囲に衝撃波が放たれる、地面が砕かれ、衝撃波で小型百足達が千切れ飛んで行く!

 もはやこの戦場で立っているのは魔竜王とゼキア、そして後方の大型百足のみとなっていた。


 無限に続くかと思われた空中の攻防に、遂に決着の時が訪れる!


「グオオオオオッ!!」

『勝機ッ!』


 魔竜王が左腕での突きを放つ! それをゼキアは空中側転で回避、そして魔竜王の左腕を踏み台とし一気に跳躍接近!

 そして左上下腕を引き構える、甲殻内の筋肉が軋み上げ音を立てるその様はまるで矢をつがえる弓兵!


 ゼキアが狙いを定めたのは……頑強な鱗に覆われていない眼!


『《金剛神速・天弓突き》ィィィィッ!!』


 ゼキアは左腕を解放、神速の刺突が放たれ角剣が魔竜王の眼へ目掛け風を切り裂き迫る!

 そして遂に角剣が魔竜王の眼球に突き刺さった! 


『……ッッ!!?』


 ――そう確信するゼキアの眼に映ったのは、瞼を閉じ角剣を白刃取る魔竜王の姿だった!


『馬鹿ナァァァァァァァッッ!?!?』

「刺突を仕掛けてくるなら、貴様が俺の眼を狙ってくることは分かりきっていた、ならば突きを放つタイミングさえ読めば受ける事は可能」


 ゼキアが驚愕する中、その右側から何かが迫る!


『ハッ!?』


 魔竜王の尻尾だ! ゼキアは角剣手放し、左腕でそれを受けるが、その衝撃に耐えられず地面へと叩き落とされた!


『グワアアアアアアアアアアッッ!?』


 ゼキアが墜落し、地面にクレーターを作り出した!

 魔竜王は瞼で挟んだ角剣を右腕の人差し指で弾き飛ばし、大きく口を開くと、今まで吐き出していた火球の十倍の大きさはある超巨大火球が現れる!


「滅せよ……! 《魔竜の息吹》ィィィッ!!」


 超巨大火球が真下のゼキア目掛けて撃ち放つ!


『ぐぐ……ヌゥ!?』


 地面から這い出たゼキアは真上から迫る超巨大火球に気付くと大剣を拾い、四本の腕で大剣を握り迎撃態勢を取る!


『オォォォォーーーッ!!』


 咆哮を上げ、全身の筋肉を軋ませ、ゼキアは大剣を横一文字に振るう!

 超巨大火球と大剣がぶつかり合う!


『グゥオオオォォオオオッ……!』


 ゼキアの脚が地面にめり込み、雄叫びを上げて火球を打ち返そうとするが、その頭上で魔竜王が追撃の超巨大火球を放つ!

 それも一つでは無く、三つ……いや四つ連続でだ!


 四つの超巨大火球が接近、そのまま大剣と拮抗している火球に合わさりその直径が大きくなる!


『オ……オオォォォォォオオオ!?』


 ゼキアの両腕が震える、大剣は肥大化した超巨大火球によってひび割れ…遂に粉々に砕け散った!

 そしてそのまま火球がゼキアの全身を飲み込んだ!


『グガアアアアアアアアアアアッッ!?』


 ゼキアの全身の甲殻が燃え、砕け炭となっていく。


『ま……魔人王様に、栄光あれェェェェェェェェッッ……!!』


 ゼキアの断末魔が轟き、炎の中で崩れ去った。


「これで障害は消えた……全員、あの大型百足を破壊するぞ!」


 魔竜王は自らの戦いの巻き添えにならぬよう後方で待機させていたしもべの飛竜たちに命令を下し、共に大型百足の下へ飛んで行った。

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