第310話 集結、六大魔王Ⅹ

――場所は移り変わり、魔獣王対蟲人ディオスの対決も苛烈を極めていた!


『《蟷螂六連鞭》!!』

「《魔獣の氷爪》!!」


 ディオスの鞭のようにしなる鎌腕から放たれる神速の連撃、その全てを魔獣王は魔獣の氷爪にて打ち払う!


『これを凌ぐか! ならば……オオオオオオオッッッ!!』


 ディオスは胴体に収納していた第二腕を展開と同時に変形を開始、左右第一鎌腕も巨大化していく! その長さはゆうに三メートルは超える!


 四本の鎌腕を大きく広げたその姿は、さながら大空で翼を翻す四枚羽の怪鳥の如き様相であった!


「おーおーおー! これまた随分と派手じゃねぇか! えぇ!?」

『貴様のその大層な毛皮を剥ぎ取り、魔人王様への貢物としてくれる!』

「ガハハハハハハ!! 面白れぇ! やれるもんならやってみなァァァァッ!!」


 ディオスが大鎌腕を構え、脚に力を溜めて地面を踏みしめる、地面が陥没し、小さなクレーターが出来る。

 対して魔獣王は爪だけでなく己が歯と全身を氷の鎧で纏い、大口を開け、その口内に圧縮された氷塊を作りだした。


『……勝負ッ!!』


 ディオスが地面を蹴り、魔獣王に向かい跳び出した! 三メートルを超える四本の鎌腕を広げ、まるで風の抵抗など存在しないかのように空気を切り裂きながら迫る! 


『《大鎌撃・八連斬》!!』

「《魔獣砲》ッッ!!」


 魔獣王が口内の圧縮氷塊を発射する!

 ディオスと氷塊の距離が縮まって行く、そして距離が3メートルを切ると同時にディオスの鎌腕が振り下ろされ、氷塊を4つに斬り裂いた! そのまま氷塊をすり抜け、魔獣王に残る四連斬を放つためディオスは4つの鎌腕を振り上げた!


(魔獣王、仕留めたり!!)


 魔獣王にディオスが斬りかかる……その瞬間! ディオスの後方で複数の衝撃波が発生する!


『ッ!?』



 突如我が身を襲う衝撃波に驚くディオス。


 一体何が起きたのか? その答えは氷塊である。 魔獣王の必殺技、ユニークスキル魔獣砲は圧縮した氷塊を撃ちだし、その後衝撃波を発生させ周囲を凍らせる恐るべき必殺技。


 その衝撃発生は魔獣王の任意によって行われる。


 ディオスによって氷塊が四つに斬られ、勝機を得たと過信し氷塊を通過した瞬間を狙い、魔獣王は氷塊を炸裂! しかも四つに分かれていたためその衝撃も四度発されたのだ!


 全てを凍らせる衝撃波を喰らったディオスの背中は氷結、四本の鎌腕も凍り付いてしまう。


『馬鹿な……ッ!?』


 衝撃と氷結によるダメージでディオスはその速度を維持できずに減速、鎌腕を地面に刺しその場に佇む。

 だが、その眼前を魔獣王の大口が無慈悲に迫る!


 凍り付いた体でまともに動くことが出来ずに噛みつかれ、ディオスの身体に魔獣王の氷牙が突き刺さる!


『グアアアアアアアアアアッッ!!?』

「さっきの技、見事だったぞ、もし喰らっていれば俺の体毛を切り裂き、肉体を傷付けることも出来ていただろう……だが俺も無様な姿は見せられないんでね……」


 魔獣王は離れた場所でこちらを視ているリュシルと、その背に居るユキを見た。


「愛する我が娘が、俺のカッコイイ姿を目に焼き付けているんでなぁッ!」


 魔獣王はディオスを頭上に投げ飛ばし、一気に跳躍! そして大口を開けたまま体を回転! 回転!! 回転!!!

 超高速回転しながらディオスに向かうその様は氷を砕かんとする迫る氷砕機ッ!!


『……ッッ!!』


 ディオスは凍り付いた4本の鎌腕を動かす事が出来ず、空中で無防備なまま魔獣王の回転攻撃が迫る!


『無念……魔人王様、万歳……』

「《氷牙砕断魔獣撃》ィィィィッッ!!」


 回転する魔獣王の牙がディオスの身体を削り砕き、氷粒へと変えた!

 ディオスだった氷の粒が飛び散る中、魔獣王は回転を止めて着地し、勝利の咆哮を上げた!!


「オオオオオオオオォォォォーーーッッ!!」


 魔獣王の勝利を見届けたリュシルが魔獣王の元へ駆けつける。


(魔獣王様!)

「ワンワーン♪」


 その背中からユキが飛び出し、魔獣王にすり寄る。


「おお、娘よ! お父さんのカッコ良い姿を見てくれていたか!?」

「ワンワン♪」

「そうかそうか! お父さんは最高にカッコ良かったかー!」


 魔獣王は先程の荒々しい魔王たる存在は鳴りを潜め、我が子を溺愛し甘やかす父親の表情となり、ユキを毛づくろいする。


「クゥーン♪」

「お父さん大好きだと!!? お父さんもお前の事が大好きだぞー!!」

(……魔獣王様、今はそのような事をされている時ではありません、今は一刻も早くあの大型百足を排除しなければ)

「……分かっている、娘のへの毛づくろいが終わり次第あのデカ百足を氷漬けにしてやるさ」

「ワンワーン♪」

「お父さんにも毛づくろいしてあげるだって!? なんて優しい娘なんだお前はー! お父さんは嬉しいぞー!!」

(……この方は本当に……)


 リュシルに呆れられながら、魔獣王はしばらくの間ユキへの毛づくろいを行い続けた。

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