第309話 集結、六大魔王Ⅸ

 魔海王は不敵に笑い、ブロストは不快そうな声色で吼える。


『言わせておけばいい気になって……手も足も出せないのは貴様の方だぁぁッ!!』


 ブロストは空中を蹴り進み、そのまま魔海王目掛けて飛び蹴りを放つ!


 だが――。


『なぁっ!?』


 魔海王の身体は突然消え、ブロストは何も無い空間を蹴り付けるだけに終わった。


『馬鹿な!? 奴は何処に……』

「《魔海の水砲》」

『ぐはあァッ!?』


 いつの間にか背後に回り込んでいた魔海王の水砲がブロストの背中に直撃、ブロストの肉体にダメージを与える。


『き……さまァァッ!!』


 ブロストはすぐさま立て直し、魔海王の方へと向き直るが、すでにそこには魔海王姿は無かった。


「《魔海の水槍》!」


 ブロストの頭上から無数の水の槍が降り注ぐ、ブロストは回転蹴りで水の槍を弾いて行く。


「《魔海の水柱》!!」

『ぐおおおッッ!?』


 ブロストが槍を弾いて一瞬の隙を突き、真下から水の柱が噴き上がりブロストを突き上げ、上空へ飛ばした。


『おのれぇぇぇぇっ!! ならば!』


 ブロストは空中を縦横無尽に、凄まじい速さで蹴り跳ぶ!


『この速度とデタラメな軌道! これならばやすやすと私を補足する事は――』

「余興は終わり?」

『ッッッ!?』


 再び背後に回り込まれたブロストは動揺した。


(馬鹿な……あり得ん! 一体どうやって……!?)


 ブロストは魔海王の下半身、蛇のように長い胴体が周囲に逆巻く水の上を蛇行しており、そのたびに水飛沫が舞っている事に気付いた。


『馬鹿な、空中を泳いでいるだと!?』

「正解よ」


 魔海王が下半身を鞭のようにしならせブロストを叩きつけた!


『ぐあはあああぁぁぁっ!?』


 ブロストの身体はもの凄い勢いで地面に向けて落下する中、魔海王は空中を華麗に泳ぎながらブロストの真下に移動する。


「《魔海の水盾》」


 魔海王が手の平を前にかざすと、円形の水の盾が現れ落下するブロストにぶつけた。


『ぐへうっ!?』

「そぉーれっ!」


 ぶつかった衝撃に怯むブロストに追撃するように、魔海王は左手で水の盾を叩くと、ブロスト側の水が揺らぎ、まるでトランポリンのようにブロストを上に弾き飛ばした!


『ごふあぁぁぁっ!?』

「ほらまだまだ行くわよ! 《魔海の水柱》!」


 魔海王は間髪入れずに水の柱を噴き上げると、その水柱をさながら滝登りの様に上って行き、ブロストの真上を取り、再び魔海の水盾をブロストに叩きつけた。


『げぐううッッ!?』

「ほらほらっ!」


 そして再び落ちるブロストの下へ先回りし、水の盾を叩きブロストを上空目掛けて弾き飛ばす、また先回りし三度水の盾を叩きつけて弾き落とす!

 それを四度、五度、六度……何度も繰り返すその光景は、さながらサーカスの曲芸を見ている様だった。


『がはあッ!? あぐふぅッッ! おぶうぅっ!!』

(ありえん……こんな事がありえて良い筈がない……この私が……!!)

「ほらほらどうしたの? さっきまでの威勢は見せかけだったのかしら?」

『調子に……乗るなよ……この下等生物がァァァァァァッ!!』


 ブロストは強引に身体を動かし、空中を蹴って水盾を避け、魔海王の背後を取り、そのまま回し蹴りを放つ!

 しかし、先程のように魔海王の姿は一瞬で消え去り、ブロストの攻撃は空を切っていた。


「遅過ぎよ!」


 ブロストの背後を取った魔海王が蛇のような下半身でブロストの身体に巻きつき締め上げる。


『ぐがあぁぁぁぁぁ……!?』

「薄汚い悲鳴ね……さて、それじゃあそろそろフィナーレと行きましょうかね!」


 そう言うと魔海王はブロストを絞めつけながら、身体を回転させその勢いのままブロストを上空に向けて放り投げる!


『があぁぁぁぁぁッッ!!?』


 ブロストの身体は回転しながら上空へ飛んで行く。


「《魔海の水砲》《魔海の水槍》!」


 魔海王が水球と水の槍を出現させる、だがその規模は先ほどの比では無い! ブロストの周囲を球体上に囲むその数は数百……否、数千は軽く超えている! 


「さぁ、盛大に散りなさい」


 魔海王が指を鳴らすと水球と水の槍をブロストに向け一斉に放たれた!


『な……舐めるなよこの下等生物がァァァァァァァァァ!!』


 ブロストは脚を折り畳み、回し蹴りの態勢を取る!

 そして足を開放しその勢いを回転力に変換して、襲い来る水球と水の槍を全て弾き飛ばして行く!


『シィヤアアアアァァァァァァァァァァァァァッッ!!!』


 脚を折り畳み、開放する動作を何度も繰り返しながら回転速度を上げていく!


(私はこのような所で負けるわけにはいかない! 他の六色魔将を出し抜き! 本来の姿を取り戻した私こそがこの世界を支配するに相応しい存在! いずれは魔人王様を滅ぼし! この世界の神となり、魔人王様による世界喰滅を成し遂げるのだ!!)


『アアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』


 尚も己が矛盾に気付かぬまま、ブロストは絨毯爆撃が如く迫る四方八方からの攻撃を、ブロストは高速回転しながら縦横無尽に動きながら弾き、また避けていく!


 数十秒間にわたる連続攻撃を全て弾き飛ばし、ブロストは回転を止め、大きく息を吐く。


『ハァー―ッ! ハァーーッ……どうだ下等生物! 貴様の切り札はこの私が破り去っ………!』


 上空を見上げたブロストの視界に映ったモノ、それは竜巻めいて蠢く巨大な水の塊であった。

 そしてその水塊の最下に、魔海王の姿が。


「本当驚いたわ、あの攻撃を凌ぐなんてね……だから、私からの御褒美をプレゼントしてあげる、喜んで受け取りなさい」

『ッッ……! だ、だが! そんなモノを落とせば下に居るガーベラ達諸共……!』


 ブロストがそう叫び下を視るが、真下にはガーベラはおろか、小型百足一匹たりとも居なかった。

 狼狽しながら周囲を見渡すと、はるか後方に自らが守るべき大型百足とその下で戦うガーベラ達の姿を視認した。


『馬鹿な!? いつの間にここまで離れて……!』

「さっきの攻撃の時あんた私の攻撃を捌く事に夢中で、ガーベラ達から離れたこの場所に誘導するのが目的だって気づかなかったわね」

『キ、サ、マァァァァッ……!!』

「さぁ! ここからが真のフィナーレよ! 存分に味わいなさいッ!」


 先程の水泡と水槍の集中砲火は切り札にあらず、これこそが魔海王の真の切り札にして最大の必殺技!


「《魔海の渦潮》ッッ!!」


 その水塊はブロストに覆いかぶさるように落ちて行き。地面に接触した瞬間凄まじい轟音を立てて大地を粉砕し、瓦礫を飲み込みながら回転していく!!


『ぐごぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!?』


 渦潮に飲み込まれたブロストは凄まじい激流に巻きこまれ、流れる無数の瓦礫にぶつかりながら魔海の渦潮の回転に振り回される!!


『な……舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 激昂するブロストの下半身が肥大化し、その強靭な脚で流れに逆らいながら水を蹴り泳いでいく!


『オオオオオオオオオオッッッ!!』


 時には流れる瓦礫を蹴りながら、ブロストは悪鬼が如き雄たけびを上げながら蹴り泳ぎ続け、遂に水面に辿り着き、渦潮を突き破った!


『どうだあぁァァァァァ!! 貴様の切り札を打ち破ったぞォォ!! 今度はこちらの番だ! 貴様のそのいけ好かない面ごと首を蹴り飛ばして……』


 怒りに震えるブロストが目にしたのは、上空に浮かぶもう一つの魔海の渦潮であった。


「言ったでしょう? 『ここからが真のフィナーレ』だって? 一つだけじゃ物足りないでしょう? アンコールをお見舞いしてあげる!」

『ば……かなああぁぁぁぁぁぁ――――!!???』


 二つ目の魔海の渦潮が放たれ、再び飲み込まれたブロストごと、二つの魔海の渦潮がぶつかり合う!


 一つ目の渦潮は右回転、二つ目の渦潮は左回転。

 その異なる回転によって生じる中心の激流は、先程とは比べ物にならない程の凄まじさ!


『こ……このクソ下等で最低な下劣海ヘビ女がぁぁぁぁあごぎゃぐげれぇあがぶぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 ブロストは渦潮同士がぶつかり合う真ん中で為す術もなく、言葉にならない悲鳴を上げながら原形が分からなくなるほど捻じ曲げられ続ける!


「どう? フィナーレはお気に召したかしら?」


 その様子を眺め終えると、魔海王は髪を後ろに払いながらガーベラ達の元へと優雅に泳いでいくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る