第307話 集結、六大魔王Ⅶ

「ザハク……!? ザハクだって!? 彼はヤタイズナとの戦いで死んだはず……」

「その通りです先生……だがあの声、喋り方、佇まいはザハクそのもの……!」


 動揺を隠せないバロムとディオスとは対照的に、ザハクは冷静に言葉を発した。


「そこにいるのはディオスだな」

「っ! ……本当にザハク、なのか……?」

「何を驚いている? よもやこの俺を忘れたと言うのか? 魔人王様に仕える誇り高き戦士であるこの俺を!」

「この言い方、喋り方……やはりザハク……だが一体どうして……」

「恐らく、魔人王が何かしらの方法で彼を生き返らせたのかもしれない……もしくは、彼そっくりに造られた別物……」


 バロムがザハクについて考える中、ザハクはディオスを指差した。


「ディオス、俺は貴様に失望したぞ! よもや魔人王様を裏切り、逆賊となって魔人王様の大願成就を阻もうとするとはな!」

「ザハク……確かに私は魔人王を裏切った……それを否定はしない……だが、だからといって世界を滅ぼそうとするお前達の行いを見逃すわけにはいかない! そして何よりも大切な仲間達と……愛する人のために、私は戦う!」

「逆賊の戯言など聞く耳持たん! かつて共に鍛え学んだ友として、俺が引導を渡してやろう!」

「悪いが君にディオスを殺させるわけにはいかないな、ザハク」


 バロムの言葉に反応し、ザハクはバロムを見据える。


『先生……いや、元六色魔将バロム、このような形で貴様と相まみえようとはな……』

「私もだよザハク……君とこのような形で再開することになろうとはね……」

『もはや言葉など不要……! ディオスもろともくたばるがいい!! ハァァッ!!』


 そう言うとザハクは大型百足の脚から跳び、バロムとディオス目掛けて飛び蹴りを仕掛ける!

 バロム達は咄嗟に後方に跳んで回避するが、ザハクは飛び蹴りの態勢から瞬時に空中で体勢を変え、地面に突き刺さっている戦斧を引き抜き、バロム目掛けて投擲した!


「ハアッ!」

「ふっ!」


 バロムは自分に向かって飛んでくる戦斧を剣で受け流した! 戦斧はそのままブーメランのようにザハクの元へと飛んで行き、ザハクは戦斧を空中で掴み着地した。


「先生!」

「大丈夫だ、それより気を付けろディオス……あの蟲人の姿となったザハク、恐らく私たち二人がかりでも敵わない……」

「魔人王様に与えられた新たな力の前に、無様に散るが良い!」


 そう言うとザハクは戦斧を構えながら不敵に嗤った。


「お父さん、ディオスさん! 何二人だけで戦ってる雰囲気だしてるのー!」

「その通りですよ、僕達勇者だって居るんですからね!」

「私達全員で掛かれば、あんな奴怖くないわ!」

「頑張ります!」

「ぶっ飛ばしてやるぜぇ!」


 ウィズに勇者達、そして冒険者と兵士達も武器を構えた。


「君達……」

「……頼もしいですね、先生」


 その光景を見て、ザハクは笑い声を上げる。


「ふははははははは!! 敵ながらその勇姿は見事なものだ! 真っ向から受けてたとうではないか! 出でよ、我が誉れ高き魔人軍兵士たちよ!」


 ザハクが戦斧を掲げ叫ぶと、大型百足の根元部分から次々と小型百足達が生み出される!


「進軍せよ! 蹂躙せよ! 全ての敵をことごとく殲滅せよ!」

『『キシャアアアアアアアアアッッッッ!!』』


 ザハクを先頭に小型百足達がバロム達に迫る!


「来るぞ、全員、迎撃開始!」


 バロムの指示でディオスとウィズ、勇者、冒険者と兵士達が行動を開始した!




「しかし、復活させられたのはザハクだけではないはず……恐らく他の大型個体の方にも――」










 ――魔獣王と獣人達が向かった大型百足の根元付近。


(ただならぬ殺気……! 魔獣王様!)

「ガハハハッ! 言われんでも分かってるぞリュシル……うじゃうじゃ湧く百足の相手だけじゃ退屈だと思ってたところだ」


 魔獣王の視線の先、そこには大型百足を守る様に佇む蟲人の姿があった。

 緑色の甲殻に覆われ、両腕に鋭い鎌を持つ体躯、紛れもなくカマキリの蟲人であった。


『私は魔人族六色魔将が一色、『緑』のディオス! 我らが主、魔人王様のために……魔獣王、貴様を排除する!』

「ガハハハハハハハハ! 中々骨がありそうじゃねぇか! いいぜぇ……かかって来い、切り裂いてやるよぉ!」


 闘気を溢れさせ、魔獣王歯をむき出しにして笑った。

 そんな魔獣王を、リュシルの背中に居るユキが不安げに見詰める。


「クーン……」

「ガハハハハ!! 見ていろ我が娘よ、お父さんのカッコイイ所を見せてやるからなぁ!!」

『いざ尋常に勝負!!』










 ――魔竜王の居る大型百足の根元。


『我は魔人族六色魔将が一色、『白』のゼキア! 我が剣で貴様の命、絶たせてもらうぞ!』


 黄色と灰色かがった白色の甲殻を持ち、ヘラクレスオオカブトに似た二本の角を持つ甲虫、グラントシロカブトの蟲人が名乗りを上げると、魔竜王は雄叫びを上げて答える。


『グオオオオオオォ!! かかって来るがいい……!』









 ――魔鳥王とウモウ達の居る大型百足の根元。


『ビャハハハハハハハハ! よう、久しぶりだな魔鳥王』

「魔人王の力で復活した……いや、模造したと言った方が正しいのでしょうね……」


 魔鳥王の前方で大型百足の脚の上で座っていたのは頭部に長い一対の大顎を持つ蟲人……ギラファノコギリクワガタの蟲人であった。


『ビャハハハハハハハハ……いやよぉ、俺自身何でこんな所に居るのか、なんでこんな姿なのか知らねぇけどよぉ……まぁ多分俺はもう俺じゃねぇんだろうなぁ……』

「随分と冷静に自分の状態を分析しているのですね……それがわかっているなら大人しくその大型百足を破壊させてもらいたいのですが?」

『そいつは出来ねぇ相談だな……たとえこの俺が造り物だとしてもよぉ……』


 ギラファノコギリクワガタの蟲人は立ち上がると、三又の槍を構えて嗤った。


『俺が最高に楽しめればそれでいいってことだよぉっっ! ビャハハハハハハハハハ!!』

「愉悦狂いめ……!!」


 魔鳥王が翼をはためかせると、静かに戦闘態勢を取った。


「ありがとよ、最高の誉め言葉だぜぇ! 六色魔将『赤』のビャハ、いくぜェェェェェッ!!」









 ――魔植王の向かった大型百足の根元。


 頑強な甲殻に二本の大角と巨躯を持つその雄々しき姿は紛れもなくヘラクレスオオカブトの蟲人。


『成程……おおよその事は理解した……まだ続けられると言う事だな……ゲームを……!』


 ヘラクレスオオカブトの蟲人は大型百足を見上げ、邪悪に笑った後に魔植王の方を向いた。


『魔植王よ、魔人王様が世界を喰らい終えるまでの一時、俺と存分に戦い楽しもうではないか……!』

『そのような戯言に付き合う気は毛頭ありません……! 世界の安寧と調和を乱す者よ、この魔植王が大地に還してあげましょう』

『楽しければそれもまた一興……!  六色魔将『黒』のギリエル、参る!!』


 ヘラクレスオオカブトの蟲人……ギリエルは頭部と背中の大角を唸らせながら、翅を広げ魔植王へ襲い掛かる!








 ――そして魔海王、ガーベラとアルトランド騎士団が向かった大型百足の根元では……


「近くで見ると更に美しくないわね……この百足」

「レヴィヤ、そんな事を言っている場合ではないだろう……早くこいつを破壊しなければ……」

『ええ、まさしくその通りですねぇ……ですがそうはいきませんよぉ』

「!? この人を嘲笑い見下すような声は……!!」


 ガーベラが反応し、上を見上げると、大型百足の脚の上で腕を組み佇む蟲人の姿があった。


 体を覆う黄緑色の甲殻に、両肩部に生えている4本の腕、背中には茶色がかった翅、最も特徴的なのは太く強靭な脚と特撮ヒーローのような頭部。

 その体躯はまさしくトノサマバッタのモノであった。


『お久しぶりですねぇガーベラ王妃、アルトランド王国では楽しいショーを行わせてもらいました……』

「やはり、貴様はブロスト!」

『はい、六色魔将『青』のブロストでございます』


 ブロストはわざとらしく慇懃に礼をした後、顎に手を添えながら不敵に笑った。


「ちょっとガーベラ、誰よあのむかつく喋り方の奴」

「前に話した我が国を襲い、生まれ故郷であるアメリア王国をも襲った奴だ!」

「あいつが例の?」

『まさかこのような場所でお会いするとは思いませんでしたよぉ……ですが残念ですが、我が大願成就の達成の邪魔をするのであれば……容赦は』

『《魔海の水砲》』


 ブロストが愉快そうに喋っている途中で魔海王は巨大な水球を発射した!


『っ!?』


 ブロストは驚きながらも空中に蹴り跳んで水球を回避、水球はそのまま大型百足に直撃した!


『……人が話している最中に攻撃するとは野蛮ですねぇ……』

『あんたみたいな奴に構ってあげるほど暇じゃないのよ、それに……』


 魔海王の周囲に無数の水の槍が現れる。


『私の作った国を汚しただけじゃなく、大事な親友までイジメたこと……本当に許せないのよねぇ……』

「レヴィヤ……」

『覚悟しなさい、この魔海王レヴィヤ・ターンを怒らせたからにはあんた、楽に死ねると思わない事ね!』

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