第306話 集結、六大魔王Ⅵ

―――クルーザーの思考中枢空間。


『キシャアアアアアア……』


 思考の最適化を終えたクルーザーは、複数の分身体から送られてくる情報を確認していた。

 空間内に魔蟲王を始めとする様々な魔物達の姿が写し出される。


 強くなる……そのために世界を喰らう……だがそれを邪魔する餌共……そして……


 クルーザーの目の前に一番大きく表示された情報、それはこちらに向かって来るヤタイズナの姿であった。


『キシャアァアアアアアアッッッッッ………!!』


 こいつが一番邪魔……こいつは必ず始末する……! だがその前に他の餌共を片付ける……分割思考体一から六に情報送信、肉体及び疑似人格の形成を開始、肉体と人格の形成と同時に分身体に命令――










 ―――アメリア王国軍駐屯地。


 魔植王が自らの分身を介して、バロム達に作戦を伝えていた。


『……と言うわけです、バロム、貴方には勇者達と共に六体目の大型百足を倒してもらいたいのです』

「了解した、こちらは我々に任せてくれ」

『頼みましたよ……』


 魔植王との通信を終えたバロムは駐屯地に居る総ての兵士と冒険者に指示を出す。


「皆話は聞いていたな? 我々はこれより魔人王クルーザーの分身の討伐に向かう! これはこの世界の命運を掛けた戦いとなるだろう……皆覚悟は出来ているか!」


『『『オオォオオオオオオオオオオッ!!!』』』


 バロムが剣を掲げると、駐屯地に居る冒険者と兵士達全員がそれに答えるように雄叫びを上げた。


「舐めないで下さいよバロムの旦那!」

「命が惜しけりゃあ元々こんな依頼引き受けませんよ!」

「我々アメリア王国兵団全員も同じ気持ちです!」

「このディオス……命尽きるまで、先生とウィズと共に戦い続けます!」

「私も気合十分だよー! あの百足三枚におろして勝利の宴会の料理にしてやるー!」

「この世界は僕達にとっても大事な世界なんだ! このまま喰い滅ぼさせはしない!」

「悠矢の言う通りよ! 私達は勇者……世界の危機を見過ごす事など出来ないわ!」

「わ、私も精一杯頑張ります!」

「俺達で世界救っちまおうぜぇ!」

「ふっ、頼もしい限りだな……皆、この戦……必ず勝つぞ!! 総員出撃!!」


 バロムの指示と同時に、勇者、冒険者達、兵士はそれぞれの武器を取りクルーザーの分身体討伐へと向かう中、バロムはゼキアと魔人族達の方へ歩いて行く。


「ゼキア、君に頼みたいことがある」

「……何だ? あの百足を倒すのに手を貸せと言うのなら断る」

「そうじゃない、ここに避難させている魔人族女達と負傷した者達を連れこの駐屯地を離れ、安全な場所へ移動させて欲しい」

「……正気か? 捕虜に救助者と負傷者の避難を任せるというのか?」

「ああ、今これを頼めるのは君しかいないと判断したんだ」

「私達がその者達を人質に取り、貴様達の背後から襲うとは考えないのか」

「勿論考えたさ、だが一度投降した君がそんな恥知らずな事をしない性格なのは知っているからね」

「ふん……」

「そしてこれは捕虜に対して頼んでいるのではない……私が信頼できる弟子であるゼキアに頼んでいるんだ」

「……」

「先生! 行きましょう!」

「お父さん早くー!」

「今行く! それじゃあゼキア、頼んだよ」


 そう言うとバロムはディオスとウィズと共に前線へと走っていった。


「…………まったく、あの男は甘すぎる……この私を信頼できるなど……」

「ゼキア様……」

「どうしますか……?」

「どうするもあるか! 魔人族女たちは我等の同胞だ、助けなくてどうする! ついでに負傷している人間共も連れて行ってやれ」

「わ、分かりました!」









「切り裂け! 《閃光の剣》! 必殺、シャイニング……セイバァァァァァァァァ!!!」

「《九重雷球》!」

「シロちゃん、クロちゃん! ダブルパーンチ!」

「切り裂け《エンチャント・ウィンド》!!」


 勇者達が一斉に攻撃を放ち、小型百足達を薙ぎ払いながら道を作って行く。

 その後ろから冒険者と兵士達が続き、勇者達の攻撃を掻い潜って来た百足達を多対一で確実に倒して行く。


「真っ二つになれーっ!!」


 ウィズは大剣を振り下ろし、百足を頭から真っ二つに両断した!


「ギシャアアアアアアアアア!!」

「ウィズ、危ない!」


 ウィズの背後を狙って来た百足にディオスが小箱爆弾を投げつけ、爆発で百足が怯んでいる間にウィズが斬り裂いた!


「助かったよーディオスさん!」

「後ろは任せておけ、ウィズは思う存分敵をぶった切れ!」

「任せてよー!!」


 順調に小型百足を討伐し、大型百足へ突き進み、そしてようやく大型百足の根元付近に辿り着いた!


「よし、まず勇者達に攻撃を行ってもらい、その後遠距離魔法が使える者達で集中砲火を行う、準備は良いな!」

『おおーッ!』

「よし、綾香、瑞樹、海斗! 同時に行くぞ! 《閃光の剣》……」


 ユウヤ・オオトリが剣を構えたその時、大型百足から何かがユウヤ目掛けて投擲された!


「悠矢危ないっ!」

「何ッ!? くぅっ!」


 ユウヤは咄嗟に横に跳んで投擲された物体を回避、物体はそのまま地面に突き刺さった。


「これは……!」

「戦斧……!?」


 投擲された物体の正体は2メートルはある巨大な戦斧だった。


『よくぞ我が一撃を躱したな』

「この声は……!?」

「まさか……ッ!」


 謎の声にいち早く反応したバロムとディオスが戦斧の投げられた方角を向くと、そこには大型百足の脚の上に立つ一人の男の姿があった。


 謎の男は全身が頑強な外骨格に覆われ、頭部に大きな角を持っていた。

 甲虫を人の形にした様な異様な風貌、それはまぎれもなく蟲人……それもカブトムシ属の蟲人である。


 蟲人は威風堂々佇みながら、名乗りを上げた。


『我が名はザハク! 魔人族最高幹部、六色魔将が一色、『黄』のザハクである!! この俺が居る限り、魔人王クルーザー様の大願成就、何人たりとも邪魔はさせんぞ!!」

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