第304話 集結、六大魔王Ⅳ
「まさか……僕の眼はどうかしてしまったのか……!? い、一体どうなっているんだ……!」
「悠矢にも視えているのね……あの地球が……!」
「それじゃあ、アレは幻覚じゃなくて……現実なんですね……」
「マジでどうなってんだよ……頭がこんがらがって来たぜ!?」
突然現れた転移門から見える地球の姿に戸惑いを隠せない勇者達。
私だってそうだ……目の前に広がる光景に、今だに現実味が湧かないのだから。
「アレが地球……ヤタイズナが儂の元に転生する前に居た世界か……! お主の頭の中で見たモノより鮮明で中々のモノではないか」
「だ、だけどよう、どうしてクルーザーはあんな所に転移門を繋げたんだ? それに、どうやって別の世界の事を知ったんだよ?」
「確かに……」
「恐らく魔人王を喰らった時でしょう」
背後を振り返ると、身体を起こして立ち上がろうとしている魔鳥王の姿があった。
「魔鳥王! もう大丈夫なんですか?」
「ええ、魔植王と貴方のしもべのおかげで未来視の際に生じた脳へのダメージは完治しました」
「良かった……それで魔人王を喰らった時と言うのは?」
「クルーザーは魔人王を喰らい、その力を取り込む事で新たな魔人王になった、そして手に入れた膨大な情報の最適化を行う時に魔人王の力と記憶を解析し地球の事を知ったのでしょう……」
「成程そうだったのか……」
「それより魔鳥王、お主が気を失う前に視た未来視の事を早く教えてくれんか?」
「そうだった! 魔鳥王、一体あの時何を視たんですか!? クルーザーがいま行っている行動と関係があるんですよね!?」
私は魔鳥王に詰め寄り、話を促す。
「落ち着いてください、順を追って説明します……私が視た未来、それは悍ましき喰滅と二つの世界の消滅でした」
「喰滅と二つの世界の消滅……?」
「抽象的すぎるぞ魔鳥王! もっと詳しく話さんか!」
「分かっています、先ず、最初に視た光景……あの巨大なクルーザーと分身たちから更に無数の分身が生み出され、地上を覆い尽くすようにありとあらゆる生物を喰らい始めるのです、そしてこの星全体はクルーザーの分身に覆い尽くされ、総てが喰らい尽くされてしまう……」
「なんじゃと……!?」
「それがもうすぐ起きると言うんですか……!?」
「ええ……しかしそれだけでは終わりません……クルーザーの地下に埋まっている下半分の身体は、この星の核に向けて根を伸ばしながらエネルギーを吸い続けているのです」
だからマモン森林の木々達が急激に枯れ始めたのか……!
「そして吸い上げた星のエネルギーを使って別の世界……即ち地球への転移門を広げ、星ごと転移し地球をも喰らおうとしています……!」
「星ごと転移じゃとぉ!?」
「き、規模がデカすぎるぜっ……!?」
魔鳥王の言葉にミミズさんとバノンだけでなく、周囲に居た者達も全員驚愕の表情をしていた。
「ええ……ですが、その転移が完了した瞬間、クルーザーは死亡します」
「死!? どういうことなんだ!」
「奴は地球を喰らうために地球の目の前に転移します……ですが、あまりにも星間距離が近すぎたのです……」
「ま、まさか……!?」
「クルーザーとこの星は地球の引力に引かれぶつかり合い、その衝撃で二つの星は崩壊、そのまま消滅する結末を迎えるのです……」
「何と言う事じゃ……」
「そ、そんな事が……!」
「信じられない……!」
あまりに絶望的な未来に絶句してしまう私達。
「ですが、その未来視は鮮明には視えなかった……」
「! それじゃあ、まだ未来を変えられるんですね!」
「ええ、その為に全員の力を合わせ――」
その時、再び地面が強く揺れ動いた!
「こ、これはまさか……!?」
「動き始めたようですね……!」
「お、おい! アレを見ろよ! なんか小さいのがこっちに向かって来るぜ!?」
バノンが指差した方向を見ると、クルーザーの分身の真下から無数の百足が湧き出ていた。
分身の大きさのせいで騙されるが、一匹一匹がおよそ10メートルは超える大きさだ。
それらが群れをなして私達の方へ向かって来ているのだ。
「一刻の猶予も無くなってきましたね……すぐに呼び出さなければ! 皆私について来てください!」
「魔鳥王!?」
「何処に行くと言うのじゃ!?」
魔鳥王はちょうどガタクとソイヤーの治療を終えた魔植王を脚で掴み、駐屯地から飛び立ち、私達はその後を追う。
「――ここなら良いでしょう」
『ええ、此処なら十分な広さがある、門を開けるのにちょうどよいですね』
魔鳥王と魔植王は駐屯地から少し離れた草原に降り立った。
「魔鳥王、もしかしてここで他の魔王たちを!?」
「そうです、バノン、貴方に預けていたモノはちゃんともっていますね?」
「え? あ、ああ……楔ならここに」
バノンは懐から楔を取り出す。
「結構……それを地面に打ち込んで下さい」
「わ、分かった」
バノンは小槌を手に取り、促されるままに楔を地面に打ち込んだ。
「これで準備は整いました……」
魔鳥王は空を飛ぶと、その全身が炎に包まれ、本来の姿である真紅の巨鳥へと変わった。
「魔植王」
私が前に出ると、魔植王が植木鉢から木の根を伸ばし私の身体に触れ、同じ様に魔鳥王の脚を根で触れた。
『《魔植の加護》、《魔植の恩恵》』
すると緑色の光が放たれると、全身に力が湧き、魔植王と魔鳥王と繋がっている感覚が伝わって来る。
「楔による座標の固定と範囲の拡大、魔植王による一時的な力の増幅と二体の魔王との接続完了……これより、転移魔法の同時発動を行います!!」
魔鳥王の身体が光を放ち始め、同時に私達の身体から力が抜けていく。
「っ……!」
「ヤタイズナ、大丈夫か?」
「大丈夫だよミミズさん、これぐらいなら問題無いよ……」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ……開きます!」
魔鳥王の声と同時に空間に5つの転移門が同時に出現した!
そして一つ目の転移門から、巨大な獣が勢いよく飛び出てきた!
「ガハハハハハハハハハハハ! 久しぶりだなヤタイズナ、そしてミミズさん! 元気にしてたか!」
「魔獣王ヴォルグ!」
そう、最初に出て来たのは私達がレイド大雪原で出会った魔王、魔獣王ヴォルグだった。
その10メートルはある巨体と、白い毛並みの身体に刻まれた紋様は美しさと威圧感を併せ持っており、見ているだけで気圧されてしまいそうになる。
「お主も相変わらず元気そうで何よりじゃ、魔獣王」
「ガハハハハハハハ! 毎日美味い酒を飲み、愛する娘を愛でているからな!」
そう言って大笑いする魔獣王の背中から、何かがこちらに向かって飛び降り、私達の目の前に着地した。
(お久しぶりです、魔蟲王ヤタイズナ様、ミミズさん様)
「リュシル! 久しぶりだね」
魔獣王の背から飛び降りたのは、魔獣王のしもべであるスノーウルフのリュシルだった。
リュシルの身体は以前より大きくなっており、全長は4メートル程になっている。
「リュシル、ひょっとして進化した?」
(はい、あれから鍛錬を続け、私はブリザードウルフに進化したのです)
そんなリュシルの背中から、一メートル程の白い狼が姿を見せた。
「ワンワン!」
「ユキ! 君も来ちゃったの!?」
そう、リュシルの背中から現れたのは魔獣王が溺愛する愛娘、ユキだった。
「ワンワン! クゥーン♪」
ユキはリュシルの背中から降り、私に近づき頬ずりをした。
(また会えて嬉しいと言っております)
「そうか、私もまた会えて嬉しい……っ!?」
ユキに頬ずりされている中、殺気を感じ上を見ると、魔獣王が牙むきだしの殺気を隠さない顔で私を見ていた。
「グルルルルルルゥゥ……またしても娘に頬ずりされやがってェェェェ……!!」
……何か久しぶりだなこの感じも……
(魔獣王様、今はそのような事をしている場合では御座いません)
「分かっている……分かってはいるがァァァァァ……!!」
リュシルが魔獣王を鎮めている中、魔獣王達が出て来た転移門からさらに複数の人影が続々と出て来た。
しかもただの人間ではない、狼の顔と獣の爪と脚を持つ者、獣人と呼ばれる亜人種だ。
「魔獣王、彼等は一体……」
「ん? 前に言っただろう? 俺を山神とか言って崇めて酒を捧げる奴らがいるってよう、魔鳥王のおかげで記憶も戻り、あの糞魔人王の野郎と殺り合うって聞いたんでな、戦力はいくらあってもいいと思って連れて来たんだ」
『『我ら狼の氏族、山神様のため身命を賭して戦います!!』』
獣人達は統率の取れた動きで魔獣王に平伏した後、一斉に雄叫びを上げた。
「全く品の無い叫びね、もうちょっと美しい音色は出せないの?」
二つ目の転移門から、宙に漂う巨大クラゲが現れ、その頭上に青鱗の尻尾が生えた、フリフリのドレスの青色髪の女性の姿があった。
「魔海王レヴィヤ・ターン!」
そう、彼女こそ私達がアルトランド王国で出会った魔王、魔海王レヴィヤ・ターンである。
「久しぶりねヤタイズナ、ミミズさん、まったくライブの準備で忙しい時に呼び出して……さっさと魔人王のカスをぶっ殺して帰るからね」
「この星の危機に、歌の心配しとる場合か!」
「ガハハハハハハハ! よう魔海王! しばらくだな!」
「あら魔獣王じゃない、相変わらず下品な笑いね、もう少し私を見習って華麗な振る舞いを身に付けたらどうなの? ホラ見て、私のこの美しい身のこなしを!」
魔海王はその場で回転したりしながら、優雅に踊り始める。
「ガハハッ! それが華麗ねぇ……俺にはただくるくる回ってるだけに見えるがなぁ」
「ああん? アンタの目は節穴な訳ぇ!? 私の可憐さが分からないなんて、やっぱり魔獣王は野蛮で低俗のようね!」
魔海王の眼が蛇のようなり、身体から紫色のオーラを放ち魔獣王を威嚇する。
「レヴィヤ、今はそのようなくだらないことをしている場合ではないだろう」
「この声は……!」
魔海王が出て来た転移門から、無数の騎馬が駆け出てくる。
そして先頭を走る馬に乗った騎士が馬を止め、兜を脱いで私達の方を向いた。
「魔蟲王ヤタイズナ殿、このガーベラ・アルトランド、アルトランド王国騎士団と共に援軍に馳せ参じた!」
「ガーベラ!」
そう、この女性こそオリーブの姉であり、魔海王と友人関係にあるアルトランド王国の王妃でもあるガーベラ・アルトランドだ。
いま彼女は青色の鱗鎧を装備し、騎馬も同様の装備で固めている。
そして彼女の後ろに騎士達も全員青色の鱗鎧で統一されている。
「魔鳥王殿からこの世界の危機を聞き、いても立っても居られず、兵を率いて駆け付けたのだ!」
「ガーベラと他の連中には私の脱皮した皮で防具を作らせてるから、結構役立つと思うわよ」
『『我らアルトランド騎士団、王妃様と海神様の加護の元、必ずやその期待に応えてみせます!』』
騎士達が雄叫びを上げる中、3つ目の転移門から全長4メートル程の飛竜達が続々と現れ、その後に悠然とした歩みで全長10メートルの金色の鱗を持つ西洋体系の竜が姿を現した。
「魔竜王ゴルド・ネール!」
この竜こそ、ドラン火山で私達が出会った、魔海王の実の兄である魔竜王ゴルド・ネールだ。
「魔蟲王、それにミミズさんも久しぶりだね~、あっ! レヴィヤも久しぶり~、元気~?」
「ふん、相変わらずなよなよとした喋り方、気持ち悪いったらありゃしないわ」
「えー! そんなひどいこと言わないでよ~、僕散らばってたしもべ達をわざわざ連れて来たんだよ~」
「ふん! あんたなんて居なくても問題なんて無いわよクソ兄貴」
「ガハハハハハハハ! 本当お前らは仲良いよな」
「何・処・が・よ!」
「いや~照れるな~」
「あんたも満更そうにしてんじゃないわよクソ兄貴!」
「ははは……」
魔竜王、魔海王、魔獣王達が騒ぐ中、4つ目の転移門からダチョウのような生物に乗った人間達が現れた。
「火の神の使いヤタイズナ様! お久しぶりです!」
「お前はウモウ!」
彼はバラス砂漠で出会った、魔鳥王を信奉する部族の長ウモウだ。
「火の神様直々のご命令を受け、我が部族の戦士全員引き連れ参りました!」
「彼等は少数であるが精鋭揃い、この戦いの役に立つでしょう」
『『我ら、火の神のためこの身を捧げる覚悟でございます!!』』
ウモウと戦士たちは手に持った武器を掲げ、一斉に雄叫びを上げた。
そして、最後の転移門から姿を現したのは……
「な、なんじゃあっ!?」
「あ、あれは一体!?」
転移門から現れたモノに私とミミズさんは驚愕する。
それは複数の樹木が寄り集まって形成された、全長10メートルはある木の巨人だった。
『各地に点在させていた私の分身達を集め、戦闘用の肉体を形成したのです』
木の巨人は魔植王の前まで歩くと跪き巨大な手を地面に付けた。
そして魔植王は根を伸ばして手の上に乗ると、巨人の胸部が開き、魔植王を中に格納した。
『これで私も戦えます……!』
「ガハハハハハハ! これで全員揃ったな!」
「それで? これから魔人王のカスをぶっ飛ばすわけだけど、肝心の魔人王は何処?」
「何か目の前のデッカイ塔みたいなのから魔人王の気配を感じるけど~……」
「それには色々と理由があって……」
私は魔人王に何が起きたのかを簡潔に説明した。
「ガハハハハハハ! 最後の最期でへまやらかすとは笑えるぜ!!」
「本当、カスは最期までカスだったのね」
「色々とヤバい奴だったけど、死に方までヤバいとはね~」
「まったくじゃ、本当まぬけな奴じゃったわ』
「お、おいおい! 雑談中申し訳ねぇけどよ、もう百足共が目と鼻の距離まで来てるぞぉ!?」
バノンが指差す方向を見ると、数百を超える百足の大群が凄まじい速さでこちらに突っ込んで来る。
「おおっといけねぇっ、そんじゃあ話はこれぐらいにして、あの百足共を蹴散らしてやろうぜぇ!」
「そうだね~……僕……いや、『俺』も、惰眠を止め本気で戦おう……!」
先程までのほほんとしていた魔竜王は、今まで見せた事がないような殺気立った顔に変わった。
「ふん! その口調と目付き……やっと昔の姿に戻ったわね……まぁ、その姿なら、お……お兄ちゃんって呼んでも良いわよ……?」
「今はそんなくだらないことを言っている場合ではないぞ、妹よ」
「あんたがさんざん言えって言ってきたんでしょうが!? ぶっ飛ばすわよクソ兄貴!」
「魔海王、兄弟喧嘩なら後で好きなだけしていいですから、早く本来の姿に戻ってください」
「言われなくても分かってるわよ!」
魔鳥王の言葉に魔海王は変身を解いて本来の姿である海竜へと変わった。
『我ら魔王の使命今こそ果たす時……皆、『アレ』をやりますよ』
「アレか! 久しぶりだなぁ!」
「良いじゃない、私の言葉に酔いしれなさい」
「上等……!」
「これも魔王の務め、盛大にやりましょう」
「アレ? ミミズさんアレって何……?」
「何を言っとる、アバドンの時にやったじゃろうが!」
「アレって……アレ!? 今!?」
「今やらんで何時やるんじゃ! 全員で言う時のセリフは今教えてやるから、カッコよく決めるのじゃぞ!」
「そんな急に言われても……」
「お前が思い浮かべたモノをそのまま言葉にすれば良いのじゃ!」
「ミミズさん……分かったよ!」
『『『ギシャアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』
おびただしい数の百足達が突進してくる中、六体の魔王が横一線に並び、同時に声を発した。
『『『『『『世界に仇なす者共よ、我らの名を聞け、そして恐れ慄くが良い!』』』』』』
「我こそは大地を駆け、星に生きし者を見守り、大地を汚す悪しき命を消す魔王! 六大魔王が一体、魔獣王ヴォルグである!」
「我こそは大海原を統べ、この星の命を育み、大海の流れで醜き魂を浄化する魔王! 六大魔王が一体、魔海王レヴィヤ・ターンである!」
「我こそは地脈の流れを操り、星の血を循環させ、分をわきまえぬ矮小なる愚者を滅する魔王! 六大魔王が一体、魔竜王ゴルド・ネールである!」
「我こそは未来と過去を見定め、星の正しき未来へと導き、星の流れを乱す者を罰する魔王! 六大魔王が一体、魔鳥王フェネクスである!」
『我こそは星の声を聴き、生命を与え育み、無益に命を奪う者を大地へ還す魔王! 六大魔王が一体、魔植王イグドリュアスである!」
「我こそは星の進化を促し、信じる道を突き進み、全てを滅ぼさんとする者を倒す魔王! 六大魔王が一体、魔蟲王ヤタイズナである!」
『『『『『『我ら六大魔王、此処に集結ッ! 世界を食い滅ぼさんとする者よ、我ら六大魔王がいる限り、この世界、喰らい尽くせぬと心得よッ!!!』』』』』』
今ここに、二つの世界の命運を懸け、六大魔王と魔人王クルーザーとの決戦の火蓋が切って落とされた。
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